新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 秋歌上6

千五百番哥合に        通具卿

深草のさとの月影さびしさもすみこしまゝの野べの秋風

めでたし。詞もめでたし。 深草の里の月を、今きて

見れば、昔住て見し時のまゝなるが、野べの秋風のさび

しさも、又其時のまゝなるよと也。さびしさもといへる、も°ゝじ

にて、月の昔のまゝなるといふ意を聞せたる也。月影のさび

しといふにはあらず。三の句は下へつけて心得べし。

五十首歌奉りし時杜間月   俊成卿女

大あらきの森の木間をもりかねて人だのめなる秋の夜の月

大あらきといふ名を、木ノ間のあらき意にとりてなり。

守覚法親王家五十首哥に   家隆朝臣

有明の月まつ宿の袖のうへに人だのめなるよひのいなづま

摂政家百首哥合に      有家朝臣

風わたる浅茅が末の露にだにやどりもはてぬよひのいなづま

やどりはつるは、露の消るまでやどるなり。

水無瀬にて十首哥奉りし時  通光卿

むさし野やゆけども秋のはてぞなきいかなる風の末に吹らん

ゆけどもは、ゆけども/"\也。 秋のはてなきとは、秋の旅の

かなしさの、つきせぬ意にて、むさしのゝはてなきことを

かねたり。 下句は、猶行末も、いかにかなしからんといふ意なり。

古き抄に、むさし野のおもしろきを賞したる意に注し

たるは、いみじきひがごとなり。

百首哥奉りし時月      慈圓大僧正

いつまでか涙くもらで月は見し秋まちえても秋ぞ恋しき

めでたし。 結句涙にくもらで見し、昔の秋ぞ恋し

き也。又秋をまちえても、涙にくもりて、秋の月のやうにも見え

ぬ故に、秋のさやかなる影の恋しき、といへるやうにも聞ゆ。

              式子内親王

ながめわびぬ秋より外の宿もがな野にも山にも月やすむらん

めでたし。下句詞めでたし。 本哥√いづくにか世をばいと

はむ心こそ野にも山にもまどふべらなれ。 初句は、月を

ながめわびたる也。 二三の句は、月を見れば、秋のかなしさの

ますにつきて、かやうに秋の月のすまぬ宿もがなと、ねがふ也。

 下句、しかれども、いづくにのがれても、秋ならぬ所はなく、いづ

こにも/\月はすみて、ながめわぶるにてやあらむと也。

野にも山にもといふは、本哥のごとく、世中はいづこも/\と

いふ意。 月すむといふは、秋のかなしくて、ながめわぶる意

なるを、たがひに詞を相照して、初句へ、月すむといふことを

ひゞかせ、結句へ、ながめわぶといふことをひゞかせたる物なり。

これ上手のしわざにて、一ツのたくみなり。其心を得て見ざ

れば、いたづきのかひなし。古き注ども、此意を得ざる故に、

みなあやまれり。

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