新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 四の巻 恋歌三3

 

 

 

 

 

 

  

 

水無瀬戀十五首哥合に夕戀   摂政

何故と思ひもいれぬゆふべだにまち出しものを山の端の月

待出しとは、此哥にては、わざと月をまちて出たるにはあら

ず。物おもひて、ながめをするほどに、月の出たるをいふ。

一首の意は、何故とさして思ひいれtる事もなかりしほど

だに、おのづから月の出たるまで、ながめはせし物を。まして、

今は、思ひ入たる戀に、あけくれながめのみして、月の出る

を見ぬ夕暮もなしと也。

寄風戀          宮内卿

きくやいかにうはの空なる風だにもまつに音するならひ有とは

めでたし。下句詞めでたし。 聞やいかにとは、云々のな

らひ有といふことをば、聞及び給へりやといふに、其風の音

を聞ことをもかねたり。 うはの空なるは、俗言にいふと同

じ意にて、何の心も情もなき風といふことにて、空をふ

く縁の詞なり。 まつに音するは、松の梢に音するを、人待

ところには音づるゝことにとれり。 契沖云。此發句、

人をことわりにいひつむるやうにて、女の哥には、殊にいかにぞやある也。

きくや君といはゞまさらむと申す人侍きといへり。まことに

いかには少しいひ過して聞ゆる也。

題しらず         八條院髙倉

いかゞふく身にしむ色のかはるかなたのむるくれの松風の聲

後拾遺、√松風は色やみどりに吹つらむ物思ふ人の身に

ぞしみける。といへる哥によりて、松風はもとより物思ふ

人の身にしむ物なるが、たのめたる暮には、又常よりも

まさりて身にしむとなり。 しむの縁に色といひて、かは

るとは、色の常よりも深くなるなり。 いかゞふくとは、いかやう

にふくことぞといふ意なり。 たのむるは、たのめしとあら

まほし。 此哥、初句のく°もじと、二の句のむ°もじと重な

りて、詞がらのびやかならず。すべてく°す°つ°ふ°む°ゆ°る°のも

じ、かやうに重なれる時は聞よからず。

 

 

※契沖云 不詳。新古今集契沖書入本には、以下の通りある。
聞やいかに、にくげある詞なり。聞や君などあらば、女の哥に然るべからんと、ある人申す。
 
※√松風は色やみどりに~
後拾遺集 
 おなじ院(後一条院)たかまつの女御に
 すみうつりたまひてたえだえになり給て
 のころ松かぜのこころすごくふきはべり
 けるをききて
                ほりかわの女御
松かぜはいろやみどりにふきつらむものおもふ人の身にぞしみける
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