新古今和歌集の部屋

美濃の家づと 二の巻 秋歌上5

題しらず      寂蓮

さびしさはその色としもなかりけり槇たつ山の秋の夕暮

めでたし。

          西行

こゝろなき身にもあはれはしられけり鴫たつ沢の秋の夕暮

めでたし。

西行法師すゝめける百首哥に

          定家朝臣

見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮

二三の句、明石ノ巻の詞によられたるなるべけれど、けりといへる

事いかゞ。其故は、けりといひては、上句、さらぞゝ花もみぢなど

有て、おもしろかるべき所と思ひたるに、來て見れば、花紅葉

もなく、何の見るべき物もなき所にて有けるよ、といふ意に

なればなり。そも/\浦の苫屋の秋の夕ベは、花も紅葉も

なかるべきは、もとよりの事なれば、今さら、なかりけりと、歎ず

べきにはあらざるをや。我ならば√見わたせば花ももみぢも

なにはがたあしのまろ屋の秋の夕暮などぞよまゝしとぞ。

                  ある人はいつる。

五十首哥奉りし時       雅經

たへでやは思ひありともいかゞせんむぐらの宿の秋の夕暮

初句詞たらで、とゝのはぬこゝちす。 いかがせんも、よくかなへ

りとも聞えず。 意は、本哥にあたりて、たとひ思ひあり

とも、堪でやはすまるべきとなり。

秋の哥とて          宮内卿

思ふことさしてそれとはなき物を秋のゆふべを心にぞとふ

上下の句の間へ、かくかなしきは、いかなることぞとゝいふこと

を加へて聞べし。詞たらで、とゝのはぬ哥也。と°もじを一ツ加ふ

れば、大かた聞ゆるなり。

               鴨長明

秋風のいたりいたらぬ袖はあらじたゞ我からの露の夕暮

下句詞めでたし。 古歌に√春の色のいたりいたらぬ

里はあらじ云々。 いたりいたらぬといふ詞、袖には似つかはし

からず。 下句、我からの露とつゞけて心得べし。

               式子内親王

それながら昔にもあらぬ秋風にいとゞながめをしづのをだまき

めでたし。 我身も昔のわが身。秋風も昔の秌風の

まゝながら、我身のうへの、昔のやうにもあらぬにつれて、秋

風のかなしさも、昔にはまさりて、いとゞながめをすると也。

結句は、√昔を今になすよしも哉の意をふくめたる詞なり。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「美濃の家づと」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事