(ウェッブリブログ 2014年08月26日~)
13 梅に鶯鳴く
1 はじめに
古来、梅に鶯と初春を感じさせる取り合わせとして言い伝えられてきた。気温の上昇とともに移動し、ホルモンの変化とともに、縄張りを主張して鳴く。しかし、生物気象的にはウグイスの初鳴きはウメの開花より後であり、実際とは異なる事が予想される。また、中国の鶯は日本の鶯とその種類が異なり、美しい声で啼くコウライウグイスである。
ウグイスとよく間違われるのが、メジロで花の蜜を吸いに梅にやって来ます。
そこで、古典等に出てくる梅、鶯について検証し、その内容を考察します。
(参考)
コウライウグイス(5月)
メジロの鳴き声
2 生物気象 ウメの開花とウグイスの初鳴き
気象庁が毎年、全国のウメの開花とウグイスの初鳴きについて調査し、公表している。京都市(平安京)、奈良市(平城京)、福岡市(太宰府近隣)でみると表の通りとなります。
表 ウメの開花とウグイスの初鳴(京都市、奈良市、福岡市)
都市 種目 平年 2014年 最速 最晩
京都市 うめ開花 2月20日 3月3日 1月27日 3月15日
うぐいす初鳴 3月1日 3月20日 1月31日 4月7日
奈良市 うめ開花 2月5日 2月26日 1月9日 3月19日
うぐいす初鳴 3月1日 3月2日 1月11日 3月25日
福岡市 うめ開花 2月2日 1月31日 1月2日 3月13日
うぐいす初鳴 3月4日 2月19日 2月4日 3月31日
資料:気象庁各地方気象台資料より
また、彦根気象台(大津京近隣)が調査した経年変化を図に示す。なお、赤線は2月4日立春を示す。
3 古典における梅と鴬
(1)懷風藻
釋智藏 二首
五言 翫花鶯 一首 釈智蔵
桑門寡言晤 桑門言晤寡く
策杖事迎逢 杖を策きて迎逢を事とす。
以此芳春節 此の芳春の節を以ちて
忽値竹林風 忽ちに竹林の風に値う。
求友鶯嫣樹 友を求めて鶯樹に嫣ひ
含香花笑叢 香を含みて花叢に笑ふ。
雖喜遨遊志 遨遊志に喜ぶと雖も
還愧乏雕蟲 還りて愧づ雕蟲に乏しきことを
五言 春日翫鶯梅 一首 葛野王 五言 春日、鶯梅を翫す 一首 かどののおほきみ
聊乘休假景 聊か休暇の景に乗り
入苑望青陽 苑に入りて青陽を望む。
素梅開素靨 素梅素靨を開き
嬌鶯弄嬌聲 嬌鴬嬌声を弄ぶ。
對比開懷抱 此に対かひて懐抱を開けば
優足暢愁情 優に愁情を暢ぶるに足る。
不知老將至 老の将に至らむとすることを知らず
但事酌春觴 但春觴を酌むを事とするのみ。
太宰第貳從四位上巨勢朝臣多益須 二首 年四十八
五言。春日應詔 二首
玉管吐陽氣 玉管陽気を吐き
春色啓禁園 春色禁園を啓く。
望山智趣廣 山を望みて智趣広く
臨水仁懷敦 水に臨みて仁懐敦し。
松風催雅曲 松風雅曲を催し
鶯哢添談論 鴬哢談論に添ふ。
今日良醉徳 今日良く徳に酔ひぬ
誰言湛露恩 誰か言はむ湛露の恩
五言。遊覽山水
蹔以三餘暇 蹔しく余の暇を以て
遊息瑶池濱 遊息す瑶池の濱。
吹臺哢鶯始 吹台哢鶯始め
桂庭舞蝶新 桂庭舞蝶新し
沐鳧双廻岸 沐鳧双びて岸を廻り
窺鷺獨銜鱗 窺鷺独り鱗を銜む。
雲罍酌烟霞 雲罍烟霞を酌み
花藻誦英俊 花藻英俊を誦む。
留連仁智間 留連す仁智の間
縦賞如談倫 縦賞談倫の如し。
雖盡林池楽 林池の楽を尽しぬと雖ども
未翫此芳春 未だ此の芳春を翫さず。
從五位下常陸介春日藏老 一絶 年五十二
五言 述懐 一首。
花色花枝染 花色花枝を染め
鶯吟鶯谷新 鶯吟鶯谷に新し。
臨水開良宴 水に臨みて良宴を開き
泛爵賞芳春 爵を泛べて芳春を賞す。
三月三日應詔 忌寸老人
玄覽動春節 玄覧春節に動き
宸駕出離宮 宸駕離宮に出づ
勝境既寂絶 勝境既に寂絶にして
雅趣亦無窮 雅趣も亦無窮にあり
折花梅苑側 花を折る梅苑の側
酌醴碧瀾中 醴を酌む碧瀾の中
神仙非存意 神仙意に存くるに非ず
廣濟是攸同 広濟是れ同じくする攸ぞ
鼓腹太平日 腹を鼓つ太平の地
共詠太平風 共に詠う太平の風
(2)凌雲集
御製廿二首
神泉苑花宴賦落花篇
過半青春何所催 和風数重百花開
芳菲歇尽無由駐 爰唱文雄賞宴来
見取花光林表出 造化寧仮丹青筆
紅英落処鶯乱鳴 紫蕚散時蝶群驚
借問濃香何独飛 飛来満坐堪襲衣
春園遥望佳人在 乱雑繁花相映輝
点珠顔綴○鬟吹
人懐中
嬌態閑
朝攀花
暮折花
攀花力尽衣帯賖
未厭芬芳徒徙倚 留連林表晩光斜
妖姫一翫已為楽 不畏春風惣吹落。
対此年美絶何憐 一時風景豈空捐。
※○ 髟に台
四位下行播磨守賀陽朝臣 豊年十三首
三月三日侍宴応詔三首
禊賞千斯歳
恩栄一伴春
露晞心已粛
雲上慶還申
松竹同宜古
鶯花併状新
歓餘良景暮
日御借烏輪
文章生相摸権博士大初位下桑原公腹赤二首
春日過丈人山荘探得飛字
入春今幾日
聞道数鶯飛
煙没主人柳
花薫客子衣
野童駆犢去
山叟負薪歸
何獨漢陰老
此間可絶機
(3)文華秀麗集
書懐呈王中書一首 仲雄王 懐を書し王中書に呈す一首 仲雄王
邊旅十年老時明 辺旅十年時明に老い
海行千里入帝城 海行千里帝城に入る。
君門九重未通籍 君門九重未だ籍を通ぜず、
閑臥窓樹晩鶯聲 閑臥窓樹晩鶯の声
和渤海大使見寄之作一首 坂上今繼 渤海大使が寄せられし作に和す一首 坂上今継
賓亭寂莫對青溪 賓亭寂莫青渓に対かひ
處處登臨旅念悽 処々登臨すれば旅念悽なり。
萬里雲邊辞國遠 万里の雲辺国を辞りて遠く
三春煙裡望郷迷 三春の煙裡郷を望みて迷ふ。
長天去鴈催歸思 長天の去雁帰思を催し
幽谷來鶯助客啼 幽谷の来鶯客啼を助く。
一面相逢如舊識 一面相逢ふこと旧識の如く
交情自与古人齊 交情自らに古人と斉し。
奉和春閨愁一首 巨識人
妾年妖艶二八時 妾年妖艶二八の時
灼灼容華桃李姿 灼々なる容華桃李の姿。
幸得良夫憐玉貌 幸に良夫の憐玉を貌ぶを得
欝金帳裡薦蛾眉 欝金の帳裡蛾眉を薦む。
綺筵朝共琅玕食 綺筵朝琅玕の食を共にし
錦褥夜同翡翠帷 錦褥夜翡翠の帷を同じくす。
誰慮遣君向戎路 誰か慮はむ君を遣りて戎路に向かはしめ
恩情婉○忽相遺 恩情婉○忽ちに相遺るることを。
皇城一去關山遠 皇城一たび去れば関山遠く
閨閤連年音信稀 閨閤連年音信稀なり
自恨相別不相見 自ら恨む相別れて相見ず
使妾長歎復長思 妾を長歎復長思せしむることを。
長思長歎紅顔老 長思長歎紅顔老ゆ
客子何心還不早 客子何の心ぞ還ることの早からねば
君不見妾離別 君見ずや妾が離別を
晝夜吁嗟涕如雪 昼夜吁嗟きて涕雪の如し。
雙蛾眉上柳葉嚬 双蛾の眉上柳葉嚬み
千金咲中桃花歇 千金の咲中桃花歇む
空床春夜無人伴 空床の春夜人の伴も無く
単寝寒衾誰共暖 単寝の寒衾誰れと共にか暖めむ。
金繍羅衣盡啼濕 金繍の羅衣尽くに啼きて湿めり
銀荘縷日帶瘦緩 銀荘の縷帯日に痩せて緩ぶ
又不見守空閨 又見ずや空閨を守ることを
閨中怨坐意常迷 閨中に怨坐して意常に迷ふ。
昔時送別秋蘆白 昔時の送別秋蘆白く
此日愁思春草萋 この日の愁思春草萋し。
階前花積妾不掃 階前に花積れども妾は掃はず
窓外鶯啼妾復啼 窓外に鶯啼けば妾も復啼く。
柳塞廻鴻引群度 柳塞の廻鴻群を引きいて度り、
杏梁來燕比翼栖 杏梁の来燕翼を比へて栖まふ。
閑庭點點蒼苔駮 閑庭点々蒼苔駮らかに
暗牖依依緑柳低 暗牖依々緑柳低し。
晩來嬾織機中錦 晩来織るに嬾し機中の錦
愁向高楼明月孤 愁へて高楼に向かへば明月孤りなり。
片時枕上夢中意 片時枕上夢中の意
幾度往還塞外途 幾度か往還ふ塞外の途。
※ 女に戀
奉和春情一首
孤閨已遇芳菲月 孤閨已に遇ふ芳菲の月
頓使春情幾許紛 頓ちに春情を幾許か紛れしむ。
玉戸愁褰蘇合帳 玉戸褰ぐるを愁ふ蘇合の帳
花蹊嬾曳石榴裙 花蹊曳くに嬾し石榴の裙
鶯啼庭樹不堪妾 鶯庭樹に啼けば妾に堪へず
雁向辺山難寄君 雁辺山に向かへど君に寄せ難し。
絶恨龍城征客□ 絶えて恨む龍城の征客久しく
年年遠隔萬重雲 年々遠く隔てむ万重の雲
梅花落 一首 御製
鶊鳴梅院暖 鶯鳴きて梅院暖けく
花落舞春風 花落りて春風に舞ふ。
歴亂飄鋪地 暦乱飜りて地に鋪き
徘徊颺滿空 徘徊颺空に満つ。
狂香燻枕席 狂香枕席に燻り
散影度房槞 散る影房槞を度る。
欲験傷離苦 傷離の欲験苦
應聞羌笛中 応に聞べし羌笛の中
奉和廳新鶯一首野岑守 新鶯を聴くに和し奉る 一首 小野岑守
廳新鶯 新鶯を聴く。
鶯聲新兮人帷舊 鶯声新しけれど人は帷これ旧る
御柳初暖仰狎狎 御柳初めて暖けくして仰げば狎狎なり
帝梧猶寒未易就 帝梧猶寒くして未だ就き易からず
澁音近恩先雑沓 渋音恩に近づきて先づ雑沓し
弱羽承煦早差池 弱羽煦を承けて早差池す。
小臣授命戎麾遠 小臣命を授けて戎麾遠く
萬里沙場欲傷離 万里の沙場離を傷まむとす。
邊亭節物花鳥異 辺亭の節物花鳥異にして
料得唯聞笛中吹 料り得たり唯笛中に吹かるるを聞く。
和野内史留後看殿前梅之作一首 桑腹赤
夙分爲官樹 夙に官樹と為ることを分とし
開栄不畏寒 栄を開きて寒さを畏れず。
向南仙仗從 南に向きては仙仗に従ひ
臨北綵花殘 北に臨みては綵花を残す
待蝶香猶富 蝶を待つ香猶富めど
藏鶯影未寛 鶯を蔵す影未だ寛らかにあらず。
雖知先衆木 衆木に先にすることを知ると雖も
尚恨後天看 尚し恨む後天を看ることを。
(4)万葉集
巻第五
梅花歌卅二首并序
天平二年正月十三日、萃于帥老之宅、申宴會也。于時初春令月、氣淑風和、梅披鏡前之粉、蘭薫珮後之香。加以 、曙嶺移雲、松掛羅而傾盖、夕岫結霧、鳥封而迷林。庭舞新蝶、空歸故鴈。於是盖天坐地、促膝飛觴、忘言一室之裏、 開衿煙霞之外。淡然自放、快然自足。若非翰苑、何以○情。詩紀落梅之篇、古今夫何異矣。宜賦園梅聊成短詠。
824 烏梅乃波奈 知良麻久怨之美 和我曽乃々 多氣乃波也之尓 于具比須奈久母 小監阿氏奥嶋
梅の花散らまく惜しみ我が園の竹の林に鴬鳴くも
827 波流佐礼婆 許奴礼我久利弖 宇具比須曽 奈岐弖伊奴奈流 烏梅我志豆延尓 小典山氏若麻呂
春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に
837 波流能努尓 奈久夜汗隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汗米何波奈佐久 笇師志氏大道
春の野に鳴くや鴬なつけむと我が家の園に梅が花咲く
838 烏梅能波奈 知利麻我比多流 乎加肥尓波 宇具比須奈久母 波流加多麻氣弖 大隅目榎氏鉢麻呂
梅の花散り乱ひたる岡びには鴬鳴くも春かたまけて
841 于遇比須能 於登企久奈倍尓 烏梅能波奈 和企弊能曽能尓 佐伎弖知流美由 對馬目高氏老
鴬の音聞くなへに梅の花我家の園に咲きて散る見ゆ
842 和我夜度能 烏梅能之豆延尓 阿蘇i都々 宇具比須奈久毛 知良麻久乎之美 薩摩目高氏海人
我が宿の梅の下枝に遊びつつ鴬鳴くも散らまく惜しみ
845 宇具比須能 麻知迦弖尓勢斯 宇米我波奈 知良須阿利許曽 意母布故我多米 筑前拯門氏石足
鴬の待ちかてにせし梅が花散らずありこそ思ふ子がため
巻第十
詠鳥
1820 梅花 開有岳邊尓 家居者 乏毛不有 鴬之音
梅の花咲ける岡辺に家居れば乏しくもあらず鴬の声
詠雪
1840 梅枝尓 鳴而移徙 鴬之 翼白妙尓 沫雪曽落
梅が枝に鳴きて移ろふ鴬の羽白妙に沫雪ぞ降る
詠花
1854 鴬之 木傳梅乃 移者 櫻花之 時片設奴
鴬の木伝ふ梅のうつろへば桜の花の時かたまけぬ
1873 何時鴨 此夜乃将明 鴬之 木傳落 梅花将見
いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む
巻第十九
廿五日新甞會肆宴應詔歌六首
4277 袖垂而 伊射吾苑尓 鴬乃 木傳令落 梅花見尓
袖垂れていざ我が園に鴬の木伝ひ散らす梅の花見に
右一首大和國守藤原永手朝臣
十一日大雪落積尺有二寸 因述拙懐歌三首
4287 鴬能 鳴之可伎都尓 々保敝理之 梅此雪尓 宇都呂布良牟可
鴬の鳴きし垣内ににほへりし梅この雪にうつろふらむか
葛野王の歌で既に梅とウグイスの組み合わせが出来ています。忌寸老人では、三月三日(新暦では4月中旬)に梅の花を詠んでおります。
(5)和漢朗詠集
鶏既鳴兮忠臣待旦 鶏既に鳴きて忠臣旦を待つ
鶯未出兮遺賢在谷 鶯未だ出でず遺賢谷に在り
鳳為王賦
誰家碧樹鶯啼而羅幕猶垂 誰が家の碧樹にか鶯啼きて羅幕なほ垂れ
幾処華堂夢覚而珠簾未巻 幾処の華堂に夢覚めて珠簾未だ巻かず
曉賦
咽霧山鴬啼尚少 霧に咽ぶ山鶯は啼くことなほ少なり
穿沙蘆笋葉纔分 沙を穿つ蘆笋は葉わづかに分てり
元
臺頭有酒鶯呼客 台の頭に酒有りて鶯客を呼び
水面無塵風洗池 水の面塵無くして風池を洗ふ
白
鶯聲誘引来花下 鶯の声に誘引せられて花の下に来り
草色拘留座水辺 草の色に拘留せられては水の辺に座す
白
感同類於相求 同類を相求むるに感ずるは
離鴻去雁之應春囀 離鴻去雁の春の囀りに応ずるあり。
会異気而終混 異気を会して終に混じて
龍吟魚躍之伴暁啼 龍吟魚躍の暁の啼きに伴ふとあり。
燕姫之袖暫収 燕姫が袖しばらく収まりて
猜撩亂於舊柏 撩乱たるを旧拍に猜み
周郎之簪頻動 周郎が簪しきりに動きて
顧間關於新花 間関たるを新花に顧みる
菅三品
新路如今穿宿雪 新路は如今宿雪を穿つ
舊宿為後属春雲 旧巣は後のために春の雲に属らん
菅
西楼月落花間曲 西楼に月落ちて花の間の曲
中殿燈残竹裏音 中殿に燈残りて竹の裏の音
菅三品
(6)古今和歌集(鶯のみ)
第1巻 春上
4 二条后の春のはじめの御歌 二条后
雪の内に春はきにけり鶯のこほれる涙今やとくらむ
5 題しらず よみ人知らず
梅が枝にきゐる鶯春かけて鳴けども今だ雪は降りつつ
6 雪の木に降りかかれるをよめる 素性法師
春たてば花とや見らむ白雪のかかれる枝に鶯の鳴く
10 春の始めによめる 藤原言直
春やとき花やおそきと聞きわかむ鶯だにも鳴かずもあるかな
11 春のはじめのうた 壬生忠岑
春きぬと人は言へども鶯の鳴かぬかぎりはあらじとぞ思ふ
13 寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 紀友則
花の香を風のたよりにたぐへてぞ鶯さそふしるべにはやる
14 寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 大江千里
鶯の谷よりいづる聲なくは春くることを誰か知らまし
15 寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 在原棟梁
春たてど花も匂はぬ山里はものうかるねに鶯ぞ鳴く
16 題しらず よみ人知らず
野邊近くいへゐしせれば鶯の鳴くなる聲は朝な朝な聞く
32 題しらず よみ人知らず
折りつれば袖こそ匂へ梅の花ありとやここに鶯の鳴く
36 梅の花を折りてよめる 東三条左大臣
鶯の笠にぬふてふ梅の花折りてかざさむ老いかくるやと
第2巻 春下
100 題しらず よみ人知らず
待つ人も來ぬものゆゑに鶯の鳴きつる花を折りてけるかな
105 題しらず よみ人知らず
鶯の鳴く野邊ごとに來て見ればうつろふ花に風ぞ吹きける
106 題しらず よみ人知らず
吹く風を鳴きてうらみよ鶯は我やは花に手だにふれたる
107 題しらず 春澄洽子
散る花のなくにしとまるものならば我鶯におとらましやは
108 仁和の中将の御息所の家に歌合せむとてしける時によみける 藤原後蔭
花の散ることやわびしき春霞たつたの山の鶯の聲
109 うぐひすの鳴くをよめる 素性法師
こづたへばおのが羽かぜに散る花を誰におほせてここら鳴くらむ
110 うぐひすの花の木にて鳴くをよめる 凡河内躬恒
しるしなき音をも鳴くかな鶯の今年のみ散る花ならなくに
128 やよひにうぐひすのこゑのひさしう聞こえざりけるをよめる 紀貫之
鳴きとむる花しなければ鶯も果ては物憂くなりぬべらなり
131 寛平の御時きさいの宮の歌合せのうた 藤原興風
聲絶えず鳴けや鶯ひととせにふたたびとだに來べき春かは
第10巻 物名
422 うぐひす 藤原敏行
心から花のしづくにそほちつつうぐひすとのみ鳥の鳴くらむ
428 すももの花 紀貫之
今いくか春しなければうぐひすもものはながめて思ふべらなり
第11巻 戀歌一
498 題しらず よみ人知らず
我が園の梅のほつえに鶯の音に鳴きぬべき戀もするかな
第15巻 戀歌五
798 題しらず よみ人知らず
我のみや世を鶯となきわびむ人の心の花と散りなば
第18巻 雑歌下
958 題しらず よみ人知らず
世にふれば言の葉しげき呉竹のうき節ごとに鶯ぞ鳴く
第19巻 雑歌体
1011 題しらず よみ人知らず
梅の花見にこそきつれ鶯のひとくひとくといとひしもをる
1046 題しらず よみ人知らず
鶯の去年の宿りのふるすとや我には人のつれなかるらむ
第20巻 神遊びのうた
1081 かへしもののうた よみ人知らず
青柳を片糸によりて鶯の縫ふてふ笠は梅の花笠
(7)新古今和歌集(鶯のみ)
第一 春歌上
17 百首歌奉りし時 藤原家隆朝臣
谷河のうち出づる波も聲たてつうぐひすさそへ春の山かぜ
18 和歌所にて關路鶯ということを 太上天皇
鶯の鳴けどもいまだ降る雪に杉の葉しろきあふさかの關
29 春歌とて 山部赤人
あづさゆみはる山近く家居して絶えずききつるうぐいすの聲
30 春歌とて よみ人知らず
梅が枝に鳴きてうつろふ鶯のはね白たへにあわ雪ぞ降る
31 百首歌奉りける時 惟明親王
鶯のなみだのつららうちとけてふる巣ながらや春を知るらむ
82 攝政太政大臣家百首歌合に野遊のこころを 藤原家隆朝臣
おもふどちそことも知らず行き暮れぬ花のやどかせ野べの鶯
第二 春歌下
109 寛平御時きさいの宮の歌合に よみ人知らず
霞たつ春の山邊にさくら花あかず散るとやうぐひすの鳴く
第十六 雜歌上
1440 鶯を 菅贈太政大臣
谷深み春の光のおそければ雪につつめるうぐひすの聲
1441 梅 菅贈太政大臣
降る雪に色まどはせる梅の花うぐひすのみやわきてしのばむ
4 七十二侯
七十二侯とは、暦の内、季節を二十四に分割した二十四節気をさらに三分割して概ね5日程度としたもの。その時期の気候や伝説で表現され、鶯の声について日本と中国の暦にある。
日本 略本暦 黄鶯睍睆 立春の次侯にあり、山里で鶯が鳴く意味で2月9日から12日頃に相当する。
中国 宣明暦 倉庚鳴 啓蟄の次侯にあり、日本と同じく山里で鶯が鳴くという意味。3月10日から14日頃に相当する。