(月の巻)
清少納言 父清原元輔見
枕草子
夜をこめて
鳥のそら
音ははかる
ともよに
逢坂のせ
きはゆ
るさじ
(花の巻)
清少納言
よをこえめてとりのそらねははかるとも
よにあふさかのせきはゆるさじ
後拾遺集雑二に大納言行成
ものがたりなどしてはべりける
にうちのおほんものいみにこ
もればとていそぎかへりて
つとめてとりの聲にもよほ
されてといひおくらせはべりけ
ればよふかゝりけんとりのこ
ゑは函谷関のことにやといひて
つかはしけるをたちかへりこれ
はあふさかのせきにはべるとあ
ればよめるとあり。
函谷関のことは斉の孟嘗君と
いふ人秦のくによりのがれかへる
ときよにかく函谷関をこえん
とするに此関はには鳥のなかねば
ひらかぬならひなれば孟嘗君
にしたがふ人の中に鳥の声をま
ねたるに実のとりもなきけれ
ば関をひらきて通しけるとぞ
○哥の心は行成卿鳥のねもきかでかへり
ながら鳥の声にもよほされてといへ
ばよふかき鳥のこゑは函谷関のことに
やといひやりたるにまたつかひおこせて
さにはあらず。是はあふ坂の関なりとい
ひて逢よのとりの声にもよほされ
てがへりたるとそらこどすればやがて
とりのそらねになぞらへよせたり。
函谷関のせきもりこそこゝろおそく
てとりのそらねにひとをゆるしけ
め、いまは人のたばかりごとによりて
あふさかのせきはえゆるすま
じきといへる也。後撰集天のとを
あけぬ/\といひなしてそらな
きしつるとりしのこゑかな
※後撰集天のとを
後撰集 恋歌二
女につかはしける よみ人しらす
天の戸をあけぬあけぬといひなして空鳴きしつる鳥のこゑかな