
まるやまあんようじ
圓山安養寺
風さはぐ
真葛原の
夕ぐれは
都にしらぬ
秋の
やまかぜ
慈鎮

圓山安養寺は長楽寺の北にあり。是も山門の別院にして、傳教大師の開基也。
本尊の阿弥陀如来は安阿弥の作。建久年中に慈鎖和尚すみ給ふ。其
後時宗と改め國阿上人住職せり。こゝに盲人源照といふ者琵琶の妙曲
を奏せしかは天聴に達し後小松院の恩寵を蒙り紫衣を賜ふ。是盲人
紫衣の始りといふ。源照はじめより當山に祈誓し世に名誉あらん事
をねがふ。然ふして顧望成就せしかば當寺の本堂を建立す。
吉水の井は鎮守弁才天の傍にあり。(慈鎮和尚此地に住拾ひし
ゆへに吉水和尚といふ)青蓮院宮御代々の
法親王灌頂の時この水を閼伽とし夜深更に例式の列を糺し
来臨し給ひ御手づから汲せらるゝといふ。
當山坊中の書院は昇らずして髙楼に至り清奇典麗いはん方なし。
庭中には石を畳んで飛泉を催し池を鑿ては舟をうかべ緑樹芳艸四季に
花絶えず蹴鞠の履の音涼しく中にも多藏庵(眼
阿弥)の庭は相阿弥の作也。多福庵
(也
阿弥)の書院の画は雪渓の筆なりと。凡洛陽斿筵の地多かめれど此地に勝るゝはなし。



※風さはぐの歌は、慈鎮(慈円)の歌ではない。
類歌として、新古今和歌集巻第十一 恋歌一
百首歌奉りし時よめる
前大僧正慈円
わが恋は松を時雨の染めかねて真葛が原に風さわぐなり
と正治二年後鳥羽院初度百首の歌が有る。