新古今和歌集の部屋

延徳本 方丈記 澤の根芹、峯の木のみ

澤の根芹、峯の木の実み、あるにつけて命をつなぎ、麻の衣、藤のふすま、うるにしたがひて肌をかくす。

あながちにおしき命ならねば、粮のつきなん愁もおもはず。人にまじはる身ならねば、姿をはづる悔もなし。むくふべきちからなければ、人の思ひも願はしからず。名聞をおもはざれば、そしる人もうらめしからず。

をのづから、なすべき事あれば、即をのれが身をつかふ。ありくべき事あれば、みづからあゆむに、たゆからぬにはあらねども、馬鞍牛車と心をなやますよりはやすし。

今、一身をわかちて、この用をなす。手のやつこ、足の乗もの、これよくわが心にかなへり。苦しき時はやすめ、勇む時/\はつかふ。つかへども、痛しからず。ものうしとても、かざらず。況や又よの常のふるまひならねば、何事をかは、さしもいとなみ、身をくるしめむ。万はあるにつき、なきにしたがひて、へつらひもとむる業なし。


只ワカ身ヲトスルニハシカス。イカゝトスルトナラハ、ナスヘキ事アレハスナハチ、ヲノカ身ヲツカフ。タユカラスシモアラネト、人ヲシタカヘ人ヲカヘリミルヨリヤスシ。若アリクヘキ事アレハ、ミツカラアユム。クルシトイヘトモ馬クラ牛車ト心ヲナヤマスニハシカス。

今一身ヲワカチテ、二ノ用ヲナス。手ノヤツコ、足ノノリモノ、ヨクワカ心ニカナヘリ。身心ノクルシミヲシレハ、クルシム時ハヤスメマメナレハツカフ。ツカフトテモ、タヒタヒスクサス。物ウシトテモ、心ヲウコカス事ナシイカニイハムヤ、ツネニアリキ、ツネニハタラクハ養性ナルヘシ。ナンソイタツラニヤスミヲラン人ヲナヤマス、罪業ナリ。イカゝ他ノ力ヲカルヘキ。

衣食ノタクヒ又ヲナシ。フチノ衣、アサノフスマ、ウルニシタカヒテハタヘヲカクシ、野辺ノヲハキ、ミネノコノミ、ワツカニ命ヲツクハカリナリ。人ニマシハラサレハ、スカタヲハツルクヰモナシ。カテトモシケレハ、ヲロソカナル報ヲアマクス。

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