新年が開け、ようやく戻って参りました。お世話になった伯父が亡くなりまして。いや~怒涛の年末だった。「今回は大掃除もお節もサボります」友人のメールに、「それいただき!」さすがにお節は無理だったけど、恒例の年の瀬大掃除はお休み。自分の誕生日は、ちゃっかり確保した、じんちゃんです。
年始はね、のんびりまったりしながら、くたびれた心を癒していました。そういう時間が必要な程、摩耗していた。本を読んで、ドラマを見て、友人と会って…それぞれの場面で、面白い巡り合わせがありましたよ。ああ、人生捨てたもんやないな。しみじみ感じる今日この頃です。
娘が、興味深い本を紹介してくれました。『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』二人の作品や手紙、或いは誰かへ話した内容から、各々の言葉を抜き出して対比し、双方が語り合っているかの如くまとめた、名言集です。
例えばゲーテが「希望は、わたしたちが生きるのを助けてくれます。」明るい言葉を吐きますと、それに続くカフカがですね、 「朝の希望は、午後には埋葬されている。」ゲーテの文言に、パサーッと水をかけるようなセリフを吐く。もう私、爆笑してしまいまして。
「希望を失ってしまったときにこそ、良いことが待っているものだよ。」(ゲーテ)
「ぼくがどの方角に向きを変えても、真っ黒な波が打ち寄せてくる。」(カフカ)
「陽気さと真っ直ぐな心があれば、最終的にはうまくいく。」(ゲーテ)
「すべてが素晴らしい。ただ、ぼくにとってだけはそうではない。」(カフカ)
ちょっと!カフカはん、足引っ張らんとってくれるぅ?眉根を寄せつつ振り返る、ゲーテの困り顔が目に浮かぶ。彼だって、根っから能天気な訳じゃないと思うのよ。『若きウェルテルの悩み』を書いた人だもの。暗かったわ~あの小説。人妻に恋して自殺するの。しかも、自分の体験談を元に書いたっていうんだから。御苦労なさったのね。
「太陽が輝けば、ちりも輝く。」(ゲーテ)
「暗闇に戻らなければなりませんでした。太陽に耐えられなかったのです。」(カフカ)
「厚い雲、立ちこめる霧、激しい雨の中から、希望はわれわれを救い出す。」(ゲーテ)
「救世主はやってくるだろう。もはや必要でなくなったときに。」 (カフカ)
あはは。カフカ最高!!でもね、ゲーテの死後約50年経って生まれてきたカフカは、彼の作品を好んで読んでいたそうです。そうして、彼が住んでいた家を訪れたりもしたらしい。その愛情は、生涯変わることがなかったと。時に闇へ引き込まれそうになりながら、幾度も気を取り直して、前へ進み続けた…そういったゲーテの裏側を、カフカは理解していたんじゃなかなぁ。
夕食の席で、ゲーテVSカフカの名言集を披露していたら、夫と息子は、どちらかと言えば自分はカフカ派だと言いました。ああ~すぐ人の話に水をさすもんね。しかし、勘違いしないでもらいたい。カフカは、決して天の邪鬼や皮肉屋じゃない。体質的にゲーテのようにはいかないよというだけで。人の心情への共感力は、ハンパないのだ。「カフカの言葉の方がさ、しっくりくるんだよな。」(←息子)
じんちゃんはね、名言集から香る心意気ではゲーテが好き。 元来、後ろ向き人間ですから、心情的にはカフカなんですよ。でも、そっちへ寄っていくと引き込まれそうになる。ズブズブ嵌って、身動きとれなくなる。だからできるだけ、ポジティブな方へ目を向けるようにしているかな。
愛知の書店で、娘がこの本を目にしたのは、昨年のこと。一緒にいたおばぁちゃんに「どれか2冊、欲しいものを買ってあげるよ。」と言われ、数冊をピックアップ。悩みに悩んだものの、最後に手放したのでした。しかし、彼女の’いつかきっと’といった執念たるや、なかなかのもので、数ヶ月後、学校図書室の購入希望アンケートへ記入。「私の希望通るかしら…」祈るように待つこと再び数ヶ月、今度は連れだって出掛けた大学祭で-
「ちょっと古本市覗いてくるわ!」勝手知ったる階段を、たったったっと駆け上がり、模擬店へ。「あ、これ面白そう」しばし手に取り、チラチラと内容を観察、購入を決めました。しかし、原作朝霧カフカて。あなた、そこへ反応したんですか?どうせなら『海辺のカフカ』(村上春樹)も読みなさい。図書室にあるわよ。中学生には刺激強過ぎないか?って箇所もアリだけど(←下巻:風俗に纏わる記述で、筆がノル春樹さん)。
国内外の文豪がキャラクターとなって、特殊能力(それぞれの作家の作品名を象徴した)を駆使して戦う、アクション漫画『文豪ストレイドッグス』。学祭の模擬店で手に入れた娘は、一気にその魅力にハマり込み、帰りに早速続きを買っていました。「お母さんの好きな太宰さんも出てくるわよ。」「どんな設定になってるのん?」「カッコいいよ。でもいつもどこかにグルグル包帯を巻いてて、ちょっと中二病っぽい。」「いや~ん。イタいとこ突かれてるわ。」「それでキレイな女の人と心中したがるの。」「うふふ。その通りやねぇ。」
現代の作家さんなら、やはりツッコミどころ満載の渡辺淳ちゃんは欠かせないな。
能力名『失楽園』。
なお美という人妻の恋人がいる。白いスリップを着用させ、敵を悩殺。のつもりが、敵より自分が倒れ込む。
殺し文句、敵の耳元で「僕の跡目はキミに任せた」。相手を喜ばせた所で、止めを刺す。この言葉が、実は常套句であることは、伏せられている。
村上龍
能力名『すべての男は消耗品である』。
戦闘中に叫び、相手の戦意を喪失させる。ただし、「お前もその一人だがな」という言葉には弱い。
形勢が悪くなると、限りなく透明に近くなり、敵の背後から襲撃する。決めゼリフは『だいじょうぶマイ・フレンド』。
田辺聖子
能力名『一生、女の子』。
『愛してよろしいですか?』と、たおやかな物腰で近づき、有無を言わさず押し倒す。
たぐいまれなるユーモアの糸で、ねっとりと相手を絡め取り、最後に毒を吐く。
左手薬指の指先に、カモカ(妖怪)というおっちゃんが寄生している。鬼太郎の目玉おやじのように、頼りになる相棒である。
東野圭吾
能力名『さまよう刃』。
念じるだけで、圭吾剣を自在に操ることができる。『変身』『分身』『魔球』と、あらゆる技を使いこなす、ハイスペックの持ち主。
その華やかな筆さばき?で、銀座のお姉ちゃんに、ついうっかりモテてしまい、リーダー格の淳ちゃんと仲違いをしたのは『秘密』。
すんません。遊び過ぎました。能力名に何を持ってくるかが、見所ですねぇ。その作家を象徴する作品が、上手くハマると嬉しい。吉田修一さん、伊坂幸太郎さん、北方謙三さんも考えてみたのですが、「ええ加減にせぇよ!」と怒られそうなので自重します。キャラの立つ百田尚樹さんと岩井志麻子さんも、メンバーに入れたい所♪
さて、先日娘と夜ご飯を食べに行きまして。とあるレストランで、注文したお料理が来るまで本を広げておりますと、「うわぁ、ちっちゃい活字を追ってるねぇ。」娘の手元を見下ろしながら、笑顔を浮かべる店員さんが。
「こんなちっちゃい活字の本、ほとんど読まないよ。例外は、沢木耕太郎さんくらいかな。」「確かトラベルものを書いていらっしゃる方ですよね。」「沢木さんは『深夜特急』が有名ですが、僕はね、これ勧めていいのかわからないけど(チラっと娘を見やり)、『テロルの決算』という作品が面白かったです。」「初めて聞くタイトルかなぁ。『深夜特急』はわかるんだけど。図書室にもあったし。」「お嬢さんも、いつか読んでみてね。今年は羊年にちなんで、『羊をめぐる冒険』なんてのもいいかもしれない。」「村上春樹さん!うちにあります~」「いい作品ですよね。」思いも寄らぬ会話が展開し、心が和みました。
このお店はね、亡くなった同級生と訪れたことがある、想い出の場所なんです。ウン十年ぶりに再会した友人が彼女を仲間に引き入れ、最後の2年程交流があったのでした。ある時メーリングリスト(仲間うちのメール配信)で映画の話になり、「今なら『ノルウェイの森』を観てみたいわ。」つぶやいていた彼女に、「じゃあ一緒に行かない?」と声をかけると「そうねぇ。行っちゃいますか(笑)。」
学生時代以来の再会。お互いわかるだろうか?と、ちょっとドキドキでしたが、わかりました!彼女はしっとりと落ち着いて、大人の女性といった趣き。 昔は才気煥発のしっかり者で、エネルギッシュな人だったのですが、そういった面は、随分なりを潜めていました。「こうして二人で、映画を観るとはねぇ。」「だって私の座右の銘は…」「"鉄は熱いうちに打て!"でしょ?」こちらを眺めながら、いたずらっぽく笑っていた彼女を、今も覚えています。
新年会、お花見、母校の新校舎見学、それからラストとなった夜のお出かけ…仲間内で集まる機会で、顔を合わすことは度々あったものの、共に映画を観たのは、この時一度きり。「春樹さんはね、ボストンに住んでいたことがあって馴染みがあるのよ。私も隣町にいたものだから。」「独特の世界観だよね。海外でも読まれているそうだから翻訳向きなのかな。映画は、よく観に来てるのん?」「そうねぇ。。。ちょっと前だと『悪人』っていう作品が良かったわ。」「ああ、それY子ちゃんもオシてたよね。」
大学から別の道を歩んでいたので、その頃の想い出話も含め、食事を摂りながら小1時間程お喋りしました。国際結婚、渡米、帰国、そうして離婚。細かい事情が語られることは結局なかったのですが、傍目から見ても激動の人生だったことは、想像がつきます。蓄積された身体や心の疲れは、ハンパなものじゃなかったでしょう。いつか…話してくれる時が来るといいがなぁ。そう考えていたのは、私だけじゃなかったと思う。が、しばらくして突然の病で、あの世へ旅立ってしまった。
「さっきのレストランね、亡くなったお友達と食事した所なの。」「そっかー」「カウンターに並んで座って、いろんな話をしたよ。お母さんね、彼女のことを何でもできるスーパーウーマンだと思っててん。そうしたら」「なになに?」「私、メカオンチなのよ~って」「あはは。」「それで、むっちゃ親近感が湧いてしもた。」「いいお店だったよね。お料理も美味しかったし。」「うん。店員さんと本の話ができたレストラン♪初めてだったわ。」
不思議な体験だったけど、嬉しかったな。沢木耕太郎さんかぁ。いつか手に取ってみよう。(^^)
「行きたい所へ行き、会いたい人に会う。」それが、友を亡くして以来、じんちゃんの座右の銘となりました。万物流転。ご縁もまたしかりですものね。さて今年は、どんな出会いが待っていることやら…
年始はね、のんびりまったりしながら、くたびれた心を癒していました。そういう時間が必要な程、摩耗していた。本を読んで、ドラマを見て、友人と会って…それぞれの場面で、面白い巡り合わせがありましたよ。ああ、人生捨てたもんやないな。しみじみ感じる今日この頃です。
娘が、興味深い本を紹介してくれました。『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』二人の作品や手紙、或いは誰かへ話した内容から、各々の言葉を抜き出して対比し、双方が語り合っているかの如くまとめた、名言集です。
例えばゲーテが「希望は、わたしたちが生きるのを助けてくれます。」明るい言葉を吐きますと、それに続くカフカがですね、 「朝の希望は、午後には埋葬されている。」ゲーテの文言に、パサーッと水をかけるようなセリフを吐く。もう私、爆笑してしまいまして。
「希望を失ってしまったときにこそ、良いことが待っているものだよ。」(ゲーテ)
「ぼくがどの方角に向きを変えても、真っ黒な波が打ち寄せてくる。」(カフカ)
「陽気さと真っ直ぐな心があれば、最終的にはうまくいく。」(ゲーテ)
「すべてが素晴らしい。ただ、ぼくにとってだけはそうではない。」(カフカ)
ちょっと!カフカはん、足引っ張らんとってくれるぅ?眉根を寄せつつ振り返る、ゲーテの困り顔が目に浮かぶ。彼だって、根っから能天気な訳じゃないと思うのよ。『若きウェルテルの悩み』を書いた人だもの。暗かったわ~あの小説。人妻に恋して自殺するの。しかも、自分の体験談を元に書いたっていうんだから。御苦労なさったのね。
「太陽が輝けば、ちりも輝く。」(ゲーテ)
「暗闇に戻らなければなりませんでした。太陽に耐えられなかったのです。」(カフカ)
「厚い雲、立ちこめる霧、激しい雨の中から、希望はわれわれを救い出す。」(ゲーテ)
「救世主はやってくるだろう。もはや必要でなくなったときに。」 (カフカ)
あはは。カフカ最高!!でもね、ゲーテの死後約50年経って生まれてきたカフカは、彼の作品を好んで読んでいたそうです。そうして、彼が住んでいた家を訪れたりもしたらしい。その愛情は、生涯変わることがなかったと。時に闇へ引き込まれそうになりながら、幾度も気を取り直して、前へ進み続けた…そういったゲーテの裏側を、カフカは理解していたんじゃなかなぁ。
夕食の席で、ゲーテVSカフカの名言集を披露していたら、夫と息子は、どちらかと言えば自分はカフカ派だと言いました。ああ~すぐ人の話に水をさすもんね。しかし、勘違いしないでもらいたい。カフカは、決して天の邪鬼や皮肉屋じゃない。体質的にゲーテのようにはいかないよというだけで。人の心情への共感力は、ハンパないのだ。「カフカの言葉の方がさ、しっくりくるんだよな。」(←息子)
じんちゃんはね、名言集から香る心意気ではゲーテが好き。 元来、後ろ向き人間ですから、心情的にはカフカなんですよ。でも、そっちへ寄っていくと引き込まれそうになる。ズブズブ嵌って、身動きとれなくなる。だからできるだけ、ポジティブな方へ目を向けるようにしているかな。
愛知の書店で、娘がこの本を目にしたのは、昨年のこと。一緒にいたおばぁちゃんに「どれか2冊、欲しいものを買ってあげるよ。」と言われ、数冊をピックアップ。悩みに悩んだものの、最後に手放したのでした。しかし、彼女の’いつかきっと’といった執念たるや、なかなかのもので、数ヶ月後、学校図書室の購入希望アンケートへ記入。「私の希望通るかしら…」祈るように待つこと再び数ヶ月、今度は連れだって出掛けた大学祭で-
「ちょっと古本市覗いてくるわ!」勝手知ったる階段を、たったったっと駆け上がり、模擬店へ。「あ、これ面白そう」しばし手に取り、チラチラと内容を観察、購入を決めました。しかし、原作朝霧カフカて。あなた、そこへ反応したんですか?どうせなら『海辺のカフカ』(村上春樹)も読みなさい。図書室にあるわよ。中学生には刺激強過ぎないか?って箇所もアリだけど(←下巻:風俗に纏わる記述で、筆がノル春樹さん)。
国内外の文豪がキャラクターとなって、特殊能力(それぞれの作家の作品名を象徴した)を駆使して戦う、アクション漫画『文豪ストレイドッグス』。学祭の模擬店で手に入れた娘は、一気にその魅力にハマり込み、帰りに早速続きを買っていました。「お母さんの好きな太宰さんも出てくるわよ。」「どんな設定になってるのん?」「カッコいいよ。でもいつもどこかにグルグル包帯を巻いてて、ちょっと中二病っぽい。」「いや~ん。イタいとこ突かれてるわ。」「それでキレイな女の人と心中したがるの。」「うふふ。その通りやねぇ。」
現代の作家さんなら、やはりツッコミどころ満載の渡辺淳ちゃんは欠かせないな。
能力名『失楽園』。
なお美という人妻の恋人がいる。白いスリップを着用させ、敵を悩殺。のつもりが、敵より自分が倒れ込む。
殺し文句、敵の耳元で「僕の跡目はキミに任せた」。相手を喜ばせた所で、止めを刺す。この言葉が、実は常套句であることは、伏せられている。
村上龍
能力名『すべての男は消耗品である』。
戦闘中に叫び、相手の戦意を喪失させる。ただし、「お前もその一人だがな」という言葉には弱い。
形勢が悪くなると、限りなく透明に近くなり、敵の背後から襲撃する。決めゼリフは『だいじょうぶマイ・フレンド』。
田辺聖子
能力名『一生、女の子』。
『愛してよろしいですか?』と、たおやかな物腰で近づき、有無を言わさず押し倒す。
たぐいまれなるユーモアの糸で、ねっとりと相手を絡め取り、最後に毒を吐く。
左手薬指の指先に、カモカ(妖怪)というおっちゃんが寄生している。鬼太郎の目玉おやじのように、頼りになる相棒である。
東野圭吾
能力名『さまよう刃』。
念じるだけで、圭吾剣を自在に操ることができる。『変身』『分身』『魔球』と、あらゆる技を使いこなす、ハイスペックの持ち主。
その華やかな筆さばき?で、銀座のお姉ちゃんに、ついうっかりモテてしまい、リーダー格の淳ちゃんと仲違いをしたのは『秘密』。
すんません。遊び過ぎました。能力名に何を持ってくるかが、見所ですねぇ。その作家を象徴する作品が、上手くハマると嬉しい。吉田修一さん、伊坂幸太郎さん、北方謙三さんも考えてみたのですが、「ええ加減にせぇよ!」と怒られそうなので自重します。キャラの立つ百田尚樹さんと岩井志麻子さんも、メンバーに入れたい所♪
さて、先日娘と夜ご飯を食べに行きまして。とあるレストランで、注文したお料理が来るまで本を広げておりますと、「うわぁ、ちっちゃい活字を追ってるねぇ。」娘の手元を見下ろしながら、笑顔を浮かべる店員さんが。
「こんなちっちゃい活字の本、ほとんど読まないよ。例外は、沢木耕太郎さんくらいかな。」「確かトラベルものを書いていらっしゃる方ですよね。」「沢木さんは『深夜特急』が有名ですが、僕はね、これ勧めていいのかわからないけど(チラっと娘を見やり)、『テロルの決算』という作品が面白かったです。」「初めて聞くタイトルかなぁ。『深夜特急』はわかるんだけど。図書室にもあったし。」「お嬢さんも、いつか読んでみてね。今年は羊年にちなんで、『羊をめぐる冒険』なんてのもいいかもしれない。」「村上春樹さん!うちにあります~」「いい作品ですよね。」思いも寄らぬ会話が展開し、心が和みました。
このお店はね、亡くなった同級生と訪れたことがある、想い出の場所なんです。ウン十年ぶりに再会した友人が彼女を仲間に引き入れ、最後の2年程交流があったのでした。ある時メーリングリスト(仲間うちのメール配信)で映画の話になり、「今なら『ノルウェイの森』を観てみたいわ。」つぶやいていた彼女に、「じゃあ一緒に行かない?」と声をかけると「そうねぇ。行っちゃいますか(笑)。」
学生時代以来の再会。お互いわかるだろうか?と、ちょっとドキドキでしたが、わかりました!彼女はしっとりと落ち着いて、大人の女性といった趣き。 昔は才気煥発のしっかり者で、エネルギッシュな人だったのですが、そういった面は、随分なりを潜めていました。「こうして二人で、映画を観るとはねぇ。」「だって私の座右の銘は…」「"鉄は熱いうちに打て!"でしょ?」こちらを眺めながら、いたずらっぽく笑っていた彼女を、今も覚えています。
新年会、お花見、母校の新校舎見学、それからラストとなった夜のお出かけ…仲間内で集まる機会で、顔を合わすことは度々あったものの、共に映画を観たのは、この時一度きり。「春樹さんはね、ボストンに住んでいたことがあって馴染みがあるのよ。私も隣町にいたものだから。」「独特の世界観だよね。海外でも読まれているそうだから翻訳向きなのかな。映画は、よく観に来てるのん?」「そうねぇ。。。ちょっと前だと『悪人』っていう作品が良かったわ。」「ああ、それY子ちゃんもオシてたよね。」
大学から別の道を歩んでいたので、その頃の想い出話も含め、食事を摂りながら小1時間程お喋りしました。国際結婚、渡米、帰国、そうして離婚。細かい事情が語られることは結局なかったのですが、傍目から見ても激動の人生だったことは、想像がつきます。蓄積された身体や心の疲れは、ハンパなものじゃなかったでしょう。いつか…話してくれる時が来るといいがなぁ。そう考えていたのは、私だけじゃなかったと思う。が、しばらくして突然の病で、あの世へ旅立ってしまった。
「さっきのレストランね、亡くなったお友達と食事した所なの。」「そっかー」「カウンターに並んで座って、いろんな話をしたよ。お母さんね、彼女のことを何でもできるスーパーウーマンだと思っててん。そうしたら」「なになに?」「私、メカオンチなのよ~って」「あはは。」「それで、むっちゃ親近感が湧いてしもた。」「いいお店だったよね。お料理も美味しかったし。」「うん。店員さんと本の話ができたレストラン♪初めてだったわ。」
不思議な体験だったけど、嬉しかったな。沢木耕太郎さんかぁ。いつか手に取ってみよう。(^^)
「行きたい所へ行き、会いたい人に会う。」それが、友を亡くして以来、じんちゃんの座右の銘となりました。万物流転。ご縁もまたしかりですものね。さて今年は、どんな出会いが待っていることやら…