耕心館の正面玄関辺り
最近、さまざまなサイトのご投稿で、ナンバンギセルの画像を拝見していた。
特徴のある容貌がとても興味深い。ハマウツボ科ナンバンギセル属の寄生植物として知られて、キセルは煙管と表記し、その雁首(がんくび)に似た花姿からの命名なのだろう。
今年は見られないのかな、なんて思っていた。ところが、急遽、東京都瑞穂町・耕心館に行ってみようかという話が持ち上がった。
おい、おい、何処だよそこ、なんてささやく声が聞こえる。
東京都瑞穂町は多摩地域の北部に位置し、西多摩郡に属する総面積16.83平方キロメートルほどの町である。令和4年9月1日現在、総人口が32,214人とされ、実は、人口密度が約2,000人/km2と、周辺と比べてとても低いことでも知られている。
それには、大きな理由がある。一つは、トトロで知られる狭山丘陵の西端に位置していること。もう一つは、南部に在日米軍横田基地があることによる。
横田基地の総面積は7,136平方キロメートルとされるが、瑞穂町の提供面積は29.4%で、2,101平方キロメートルとされている。
国道16号線沿いに連なる福生ベースサイドストリートは「アメリカに一番近い商店街」として知られているが、福生市が基地提供面積の一位を占め46.5%、瑞穂町はそれに次ぐと言うわけ。
家人はその耕心館にある喫茶ストーリアでお茶してケーキを頂き、僕は周囲に施設された山野草園で花を愛で、その写真を撮ろうということで、両者の利害が一致したのである。
そして、その耕心館・喫茶ストーリアのエントランスで、僕たちを迎えてくれたのがナンバンギセルだったのである。

簡単な位置関係をGoogle マップを利用させて頂きご紹介。
最寄りの駅はいうと、JR八高線箱根ヶ崎駅ということになるのであろう。
僕たちは、いつも居住地・狭山から車で30~40分かけてのんびりと向かう。もちろん、公共交通は利用したことなどないのだが、Googleマップのルート検索によると駅から20分ほどと出た。狭山池公園、さやま花多来里の郷などを巡り、ちょうどよいウォーキングコースとなろう。
マップを見ると「日光街道経由」などという表記が見える。日光街道といえば国道4号線、古では江戸日本橋を起点とし、日光坊中(下野国都賀郡日光東照宮、現在の栃木県日光市山内)に至る21の宿場があったあの街道のことだが、こちらは日光脇往還(にっこうわきおうかん)を差し、千人同心街道などと称されていた街道のことである。

📷2022年9月13日:いまや、煙管なんてご存じない方の方が多くなってしまったことだろう。
さて、ナンバンギセルが迎えてくれた耕心館のことである。同館の「施設の紹介」には、次のようにある。
「周囲に塀をめぐらし、豪壮な母屋と二棟の土蔵から成るこの邸宅は、屋敷森に囲まれ、武蔵野の旧家のたたずまいを残しています。母屋の原型は、江戸時代末期の築造で、当時豪農として、その後醤油醸造業、養蚕業が営まれました。現在の2階は、演奏会・展覧会のための整備がなされましたが、養蚕のための家屋構造が確認できます。離れ和室は、大正時代に増築されたもので、特に和室の書院障子の木組みなどは、大正時代の建具の実例として貴重なものです。」
山野草は「屋敷森」のそこかしこに100種ほどが自生、もしくは育成されており、四季折々に花を楽しむことができる。

📷2022年9月13日:スズムシバナの白花だ。自然界では、こちらの色の方が珍しいはずだが・・・。

📷2022年9月13日:オーソドックスな青紫の花はすでに盛りを過ぎているかのよう。
一見すると棟門のようにも見える軒の深い正門を入ると、左右にキツネノマゴ科イセハナビ属のスズムシバナが植栽されていた。白花が多い。手入れをしていらっしゃる方の好みなのかな。
オーソドックスな青紫の花も見つけたか、盛りを過ぎている印象だね。

📷2022年9月13日:力の限り咲いてきたツリフネソウも、もう終焉へと向かっているようだ。
ツリフネソウ科ツリフネソウ属の一年草とされるツリフネソウ、なんとも奇天烈な花姿だなぁ~といつも思う。自然は類稀なるデザイナー、ヒト属をあっと驚かせてやろうとばかりに意匠を凝らした花を作り出す。

📷2022年9月13日:ヤマシャクヤクの花の実である。完熟すると黒くなるという。
不稔と完熟が織りなす赤と黒のハーモニー、秀逸なる造形美とみるか、醜悪なる悪鬼の化身と慄くかは見る側の心の持ちようによるのだろう。

📷2022年9月13日:最後の輝き! 三年ぶりにレンゲショウマと出会った。
多分、ここにはあるだろうと思って、期待して訪れた。しかし、時期的なことを考えると花を拝めるか疑心暗鬼であったのだが。
この三年ほど見ることのなかった花を眺める、ふっと肩の力が抜ける、そんな感じを味わった。やはり、いいものだなぁ~。
屋敷森の辺りで見られた草々

📷2022年9月13日:丈高き木々の下に数多くの山野草が息づいている。

📷2022年9月13日:あの自然毒で有名なトリカブトである。ユニークな花姿、魅入られるようだ。
自然界にはさまざまな危険が潜んでいる。動物でも、植物でも、綺麗なモノほど毒があるとされる。
植物には全草毒だよってやつがかなりある。キンポウゲ科などは代表格だ。アコニチン、アコニンなどのアルカロイド類系の化合物とされる。
ご多分に漏れず、このトリカブトもキンポウゲ科トリカブト属なのだ。若芽の萌え出る頃、ニリンソウと間違えて誤食するケースがしばしば見受けられるという。注意したいものだ。

📷2022年9月13日:樹下では、八角蓮が実を結んでいた。
ハッカクレン(八角蓮)という。メギ科ハッカクレン属(ホドフィルム属)の多年草とされ、思いの外可憐な花を付ける。
この季節だから、それほど花は多くなかった。それでも、久々の耕心館は十分に目を楽しませてくれた。季節がもう少し進めば、秋の野の花も幾分かは増えることだろう。また日を改めて訪れてみようと思った。