国家基幹技術の一つとして期待が高まっているX線自由電子レーザー計画の進捗状況を報告するシンポジウムが12日、都心で開かれた。「世界が注目する日本の技術 コンパクトX線レーザー」というタイトルからも、計画推進者たちの自信が読み取れる。
この計画は、本来、レーザーにはならないと考えられていたX線をレーザーにしてしまうという挑戦的なプロジェクトである。389億円の国費が投入される。これまでのレーザーより波長が短く、光のパルスがフェムト秒(千兆分の1秒)のオーダーというとてつもない短さのため、現在、不可能な生体や化学反応中の触媒表面で起きている瞬時の変化なども超超高速度写真で見るかのごとく観測可能という。
来年3月完成予定の加速棟の基盤工事では、最大長さ52メートル、直径約1.5メートルのコンクリート杭を136本打ち込んだ。0.1ナノメートルという波長領域のX線レーザーを扱う装置を載せる基盤が、わずかでもふらついたりしては話にならない。完ぺきな基盤工事が求められたということだろう。
今回のシンポジウムのタイトルには「コンパクト」という形容詞が使われている。まさにここに日本の計画の特徴が現れていることをアピールしたいためと思われる。真空封止型という独自のアンジュレータを採用、X線を出すために電子を加速する磁石を真空チェンバー内に収納していることで、装置全体の小型化を可能にした。当然、建設コストが大幅に節減できる。このアンジュレータ方式は、建設が進むX線自由電子レーザー施設のすぐ隣で稼働中の大型放射光施設「Spring-8」で既に採用済み。競争相手である米国、欧州連合(EU)の計画が、磁石を真空チェンバーの外側に置くアンジュレータを採用しているのと決定的に異なるところだ。
この真空封止型アンジュレータを可能にしたのが、日本で発明され世界のトップシェアを持つネオジム磁石である。これを真空中に配列する方式を採用することで、磁石列を電子ビームのすぐそばに近づけることができ、結果的にX線を発生させる電子ビームのエネルギーを低く抑え、施設を小型化することが可能になった、という。
このほかにも高性能、小型化のために日本独自の技術的工夫が取り入れられていることが、今回のシンポジウムでもあらためて強調されていた。
来年3月に加速器棟と光源棟が完成するのに続き、翌2010年3月にビーム輸送トンネルが完成、同年5月に最後の実験棟が完成する予定となっている。石川哲也・理化学研究所 X線自由電子レーザー計画合同推進本部プロジェクトリーダーは「来年のシンポジウムでは、世界に誇る施設の全体像を明らかにできると思う」とシンポジウムを締めくくるあいさつの中で語っていた。
石川氏によると、日本のX線自由電子レーザー計画が着々と進んでいることは、米国、欧州連合(EU)にも大きな影響を及ぼしているという。米スタンフォード線形加速器研究センターの計画は日本より1年早くスタートしたが、途中もたついて日本に追い越される状況になっていた。日本の計画の進展具合を見て、あわててまた急ぎ出したという。また、ドイツ電子シンクロトロン研究所に施設を建設する計画を進めていたEUは、日本の小型装置の優位さを認め、日本の方式を購入した方がよいのではという声も出始めているという。金融危機の打撃が大きいEUの計画は中断の可能性もあり得る、というのが石川氏の見方である。
さて、では順調に進んでいるように見える日本の計画に課題は全くないのか。科学技術・学術審議会による昨年8月の中間評価は、計画に大きな期待を示すとともに進展状況にも及第点を与えていた。一方、「現時点では期待される成果や技術的見通しがあいまいな点もある」、「現在の利用推進研究課題の状況やプロトタイプ機における成果などの情報を産業界にも適切に発信し、産業界における利用の機運を高めていくことが求められる」などの注文も付けていた。
石川哲也・プロジェクトリーダーによると、既に産業界から施設の活用について相談を受けているが、産業への応用に関してはより積極的なかかわりが必要との考えを明らかにしている。「最近、基礎研究と応用研究や実用開発の間の距離がどんどん縮まっており、従来の基礎研究の成果を応用研究に回し、さらに実用開発につなげるというスキームのみでは立ち行かなくなっているように感じる。X線自由電子レーザーでは、もちろん旧来型のアカデミックセクターが開発した手法などを産業界が利用する方式は大いにあるだろうが、一方で産業界の問題に対して、アカデミックセクターが最初から関与しながら開発を進めていくやり方が重要になっていくと思われる」。要するに従来のような産学連携のやり方の延長ではなく、最初から応用、実用を想定した研究施設の設計、研究課題の設定を考える必要もある、ということだろう。
間もなく動き始める茨城県東海村の大強度陽子加速器「J-PARC」でも、基礎研究とともに産業界の利活用が同じように重要視されている。これから動き出す大型研究施設がこうした社会の要請にどう答えられるか、学界、産業界双方の取り組みにこれまでよりはるかに大きな関心が注がれるのではないだろうか。
この計画は、本来、レーザーにはならないと考えられていたX線をレーザーにしてしまうという挑戦的なプロジェクトである。389億円の国費が投入される。これまでのレーザーより波長が短く、光のパルスがフェムト秒(千兆分の1秒)のオーダーというとてつもない短さのため、現在、不可能な生体や化学反応中の触媒表面で起きている瞬時の変化なども超超高速度写真で見るかのごとく観測可能という。
来年3月完成予定の加速棟の基盤工事では、最大長さ52メートル、直径約1.5メートルのコンクリート杭を136本打ち込んだ。0.1ナノメートルという波長領域のX線レーザーを扱う装置を載せる基盤が、わずかでもふらついたりしては話にならない。完ぺきな基盤工事が求められたということだろう。
今回のシンポジウムのタイトルには「コンパクト」という形容詞が使われている。まさにここに日本の計画の特徴が現れていることをアピールしたいためと思われる。真空封止型という独自のアンジュレータを採用、X線を出すために電子を加速する磁石を真空チェンバー内に収納していることで、装置全体の小型化を可能にした。当然、建設コストが大幅に節減できる。このアンジュレータ方式は、建設が進むX線自由電子レーザー施設のすぐ隣で稼働中の大型放射光施設「Spring-8」で既に採用済み。競争相手である米国、欧州連合(EU)の計画が、磁石を真空チェンバーの外側に置くアンジュレータを採用しているのと決定的に異なるところだ。
この真空封止型アンジュレータを可能にしたのが、日本で発明され世界のトップシェアを持つネオジム磁石である。これを真空中に配列する方式を採用することで、磁石列を電子ビームのすぐそばに近づけることができ、結果的にX線を発生させる電子ビームのエネルギーを低く抑え、施設を小型化することが可能になった、という。
このほかにも高性能、小型化のために日本独自の技術的工夫が取り入れられていることが、今回のシンポジウムでもあらためて強調されていた。
来年3月に加速器棟と光源棟が完成するのに続き、翌2010年3月にビーム輸送トンネルが完成、同年5月に最後の実験棟が完成する予定となっている。石川哲也・理化学研究所 X線自由電子レーザー計画合同推進本部プロジェクトリーダーは「来年のシンポジウムでは、世界に誇る施設の全体像を明らかにできると思う」とシンポジウムを締めくくるあいさつの中で語っていた。
石川氏によると、日本のX線自由電子レーザー計画が着々と進んでいることは、米国、欧州連合(EU)にも大きな影響を及ぼしているという。米スタンフォード線形加速器研究センターの計画は日本より1年早くスタートしたが、途中もたついて日本に追い越される状況になっていた。日本の計画の進展具合を見て、あわててまた急ぎ出したという。また、ドイツ電子シンクロトロン研究所に施設を建設する計画を進めていたEUは、日本の小型装置の優位さを認め、日本の方式を購入した方がよいのではという声も出始めているという。金融危機の打撃が大きいEUの計画は中断の可能性もあり得る、というのが石川氏の見方である。
さて、では順調に進んでいるように見える日本の計画に課題は全くないのか。科学技術・学術審議会による昨年8月の中間評価は、計画に大きな期待を示すとともに進展状況にも及第点を与えていた。一方、「現時点では期待される成果や技術的見通しがあいまいな点もある」、「現在の利用推進研究課題の状況やプロトタイプ機における成果などの情報を産業界にも適切に発信し、産業界における利用の機運を高めていくことが求められる」などの注文も付けていた。
石川哲也・プロジェクトリーダーによると、既に産業界から施設の活用について相談を受けているが、産業への応用に関してはより積極的なかかわりが必要との考えを明らかにしている。「最近、基礎研究と応用研究や実用開発の間の距離がどんどん縮まっており、従来の基礎研究の成果を応用研究に回し、さらに実用開発につなげるというスキームのみでは立ち行かなくなっているように感じる。X線自由電子レーザーでは、もちろん旧来型のアカデミックセクターが開発した手法などを産業界が利用する方式は大いにあるだろうが、一方で産業界の問題に対して、アカデミックセクターが最初から関与しながら開発を進めていくやり方が重要になっていくと思われる」。要するに従来のような産学連携のやり方の延長ではなく、最初から応用、実用を想定した研究施設の設計、研究課題の設定を考える必要もある、ということだろう。
間もなく動き始める茨城県東海村の大強度陽子加速器「J-PARC」でも、基礎研究とともに産業界の利活用が同じように重要視されている。これから動き出す大型研究施設がこうした社会の要請にどう答えられるか、学界、産業界双方の取り組みにこれまでよりはるかに大きな関心が注がれるのではないだろうか。