ちわきの俳句の部屋

メカ音痴おばさんの一念発起のブログです。
人生の後半を俳句にどっぷりと浸かって、…今がある。

〝冬の月〟と〝寒月〟と〝寒の月〟

2020年11月28日 | 俳句

 今日はお天気は良かったのですが、意外と風が冷たくて、夕方日が暮れかかるとぐっと冷えてきました。それもそのはず、最高気温が14度で、最低気温は4度なんですもの。

 外に出てみたらナント月の美しいこと!名月にも十三夜にも決して引けを取りませんよ。しかし、やっぱりこれは秋の月ではなく「冬の月」ですね。歳時記には、〝さえざえと冷えきった大気のせいか、それとも寒さに震えるこちらの心持ちのせいか、冬の月は他の季節に比べて小さく引き締まって見える〟と書いてありましたが…

 写真は、今日28日の月です。30日が満月ですので13夜月になるでしょうか。明日も明後日も最高気温は13度と低いのですが、最低気温が7度ですから今夜よりはましかと。天気予報も晴のようす。きっとお月様が今夜以上に美しいことでしょう。これからもっともっと寒くなって、最低気温が零度近くになってくると、間違ってはいないのですが、〝冬の月〟では物足りなく感じると思いませんか。そこで「寒月」や「月冴ゆ」「月氷る」というような季語がちゃんとあるんですよ。

 「寒月」は「寒の月」とも詠みます。でも〝カンゲツ〟という音読みの方が一段と冷厳な感じの月に思われるでしょう。意味的には全く同じものなんですが、短詩型の俳句にとってはこの音の響きというのはとっても重要な働きをするんです。

  寒月を鏡にうつす狂女かな          高桑闌更

  荒海に人魚浮きけり寒の月          松岡青蘿

 ふたりとも江戸中期の俳人。高桑闌更(たかくわらんこう)は、加賀金沢の人で、中興期の芭蕉復帰運動に大きく貢献しました。松岡青蘿(まつおかせいら)は、播磨国姫路の人で、蕪村とも交流があったそうです。

 この二つの句を比べてみると、「寒月」には一点の隙も無いような厳しさ、片や冷たいけれどどこか包容力のある「寒の月」だと思いませんか。前句には〝鏡〟と〝狂女〟、後句には〝荒海〟と〝人魚〟と、それぞれ酷な取り合せになっています。しかし、童話的な人魚に比べると狂女の方が現実味があってすさまじい感じを受けるに違いありません。だとすれば、例えばこれを、〈寒月の荒海に浮く人魚かな〉とか〈狂ひ女の鏡にうつす寒の月〉などに変えてみた句を読んで、比較してみて下さい。いかがですか?

 このように意味は同じでも句のイメージが全く違ってくることがお分かりでは。これが、俳句の大事なところなんです。言葉というものは単なる「伝達のため記号」のようなものではなく、心と心を通い合わせるもの、即ち〝言霊〟なんですよ。だから発声の高低によってもその言葉の順番によっても、伝わる温度や強度などが違ってくる…そう言葉は生きているのです。そして、その力を借り、それを駆使して、自分の心を伝えようとするのが俳句なのです。ならば、一字も一音もおろそかには出来ないんですから、鑑賞する方も一字一音も見逃さずに読み取って下さいね。お願いします。

 写真の1枚目、2枚目は今日の6時頃、同じ時間なのにズームで撮ると暗くなりました。3枚間は昨夜…というよりこれも6時半ごろなんですが、雲が多かったからでしょうか。この程度ならまだまだ「冬の月」で良いような気がしますね。

  (しずか)なるかしの木はらや冬の月        与謝蕪村


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4 コメント

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Unknown (ちわき)
2021-01-16 23:40:36
風の盆さん、こんばんは!
晦という字は月が隠れて暗い闇夜を指しているのですが、陰暦というのは月の満ち欠けで決まりますよね。
ですから、私たちが日々目にしているお月様と自然の季節の移り変りというのも自ずから連動するのかも知れません。
俳句も元々陰暦の中で広がった文芸ですので、その中で季語というものも培われてきたんです。
それが明治の初め頃から陽暦に変わって、いろいろと戸惑うことが多かったのではと思います。
その一番のひずみが出たのがお正月にちなんだ季語なんです。
それで歳時記の編纂も、春夏秋冬の四季の部と新年という部を作って5つに分類したんですね。きっと苦肉の策だったのでは…と思いますが。
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寒月 (風の盆)
2021-01-14 19:37:08
寒月などと言うと、漱石の吾輩は猫であるの登場人物だな
<今日28日の月です。30日が満月です>
太陽暦では月末が満月というのもあるんだな

いつか晦日の件で晦とは暗い月であるとか
やはり、陰暦じゃないと自然と合わないな
ひょっとすると、論理も陰暦と自然はピッタリかも・・

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Unknown (ちわき)
2020-11-30 02:51:30
ミルクさん、コメント有難うございました。
どちらの句も事実を詠んだものではないような気がします。人魚は想像上の動物で、いわゆるアンデルセンの人魚姫のように世界にも伝説が生れています。日本では聖徳太子の時代の文献に出てきますよ。古くからあったんですが、〝ジュゴン〟のことをそういったとも言われていますね。
言葉によって人間の脳は映像を描きますが、寒月から入るともうそこには冴え冴えとした冷たい夜の世界が広がるでしょう。その月を鏡に映して見ている女が…ところがその女は狂っている…まるでドラマの世界でしょ。でもありそう…。
荒れた海を煌々と照らす寒々とした月…何かがきらりと…人魚かも。こんな幻想的な夜には人魚が出てきてもおかしくない…そんな夢物語かな?
俳句は文学ですから架空のイメージでもいいんですよ。事実の報告ではありませんから、ミルクさんのよく書かれている昔語り…説話の世界も詠んで良いです。が、17文字なので読む人を納得させられるかどうかということでしょう。
ちょっと分かりにくかったですかね。
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こんばんは (ミルク)
2020-11-29 18:11:18
何度か、読み比べてみましたが、語順が違うと、よく伝わらない気がします。
 <荒海に人魚浮きけり寒の月> 人魚という架空の人? 生き物?も詠んでいいのですか。

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