渡辺武著 わかりやすい漢方薬
第四章 漢方による心身の健康法
１ 病気を予防する漢方
平という健康バロメーターは
では、漢方でいう「平」とは、人間のどんな健康状態をいうのでしょうか。
その物差しとなるバロメーターがなければ、正常だという判定もできません。
薬屋さんが病気の診断などできないし、咳が止まって治ったとか、結核が治ったとかいっても、診断をするのはお医者さんです。
漢方はもともと、病名を決めて治すという診断法を原点としたものではないのです。
ところで、実は漢方にもちゃんと物差しがあるのです。
それは人間という有機体がこわれたという最終段階を目標にした、病名という物差し以前の、つまり、病名がつく以前の危険信号や予告の事実で判定し得るすばらしい物差しです。
漢方には薬の決め方に気・血・水という分け方があると述べましたが、まず身体の状態を気・血・水のひずみでとらえます。
気というのは中枢神経系統、精神ということでとらえます。
血というのは心臓とか循環器や各器官臓器、水というのは泌尿器官の水分代謝ということで、この三つのバランスのくずれが、健康を害するということです。
血といっても心臓だけではわかりません。
心臓に流れている血液を血管の脉でとらえます。
また、身体が前に曲がっているか、横に曲がっているか、左か右かと、少なくとも三つか四つの視点からとらえます。
「健康十二則」に分けて、十二項目でさらにくわしく調べるのです。
普通は健康でもあるということを、快眠、快食、快便の三条件でいいますが、もっとくわしく知るためには、逆にひずみが出た状態であらわした方がわかりやすいでしょう。
たとえば、気剤の場合は、中枢神経薬を与えるのは、平常心でいられない人ですが、逆にいえばいらいらしたり、ちょっとしたことで上がったりする状態をいうのだし、末梢神経薬が必要な快眠という条件は、夢を見るとか眠れない状況だし、感覚器官薬は眼・鼻・耳などの異状なとき、呼吸器官用薬は息づかいが荒くて余分に気を出している状態に適用するわけです。
各四項目のチェックで、気が正常であるかどうかがわかるわけです。
血毒とか血症が出るときは、心臓や循環系だから脉や大便で調べます。
食欲がなくなったり、熱が出たり、出血したりしたら、代謝機能が衰えてくるのだから、頭を冷やしておきます。
カッカしたままおくと脳出血を起したり、眼底出血を起します。
これが、血剤が必要かどうか、血証がるかどうかを知る基本です。
水の停滞の場合は、精力がなくなり、内分泌、ホルモンのバランスがくずれるのだから、ホルモン剤をやる必要があります。
水分代謝では大便、小便は食べたものを排泄するわけですから、これが回数が少なかったり、滞っていて重荷になっているかどうかでチェックします。
それと、皮膚が乾いているか湿っているかも重要なポイントです。
健康なときは乾いていますが、乾きすぎてカサカサの状態もよくありません。
それにお腹がつっぱったり、おへその横に動悸が出たりするものです。
腹部の健康ということは、臍下丹田に力が入り、横に一本の健康線が通っていることでわかるわけです。
ここでしばらく、今日行われている薬剤の分類法と選定法についてのしくみを説明しておく必要があります。
前にも述べた通り、薬の薬効は適応病名による分け方と、その薬が持つ作用によって分けられますが、国家や病院・薬局・製薬会社などで薬品を科学的に管理するのに、この二つの薬効表現法を組み合せて、薬品に三連番号をつけています。
百の位は大分類で、１は精神神経薬、２は各器官臓器用薬、３は代謝性用薬です。
十の位は中分類で、それを細分類し、１１は中枢神経用薬、１２は抹消神経用薬、１３は感覚器用薬、１４はアレルギー用薬、２１は循環器官用薬、２２は呼吸器官用薬、２３は消化器用薬、２４はホルモン剤、２５は泌尿生殖器官用薬、２６は外皮用薬、そして３１は代謝用薬、３３は血液、体液用薬を示しています。
一の位は小分類で、一般に表示される薬剤の細目を表わすことになります。
たとえば、１１の中枢神経の薬の中で、１１２は催眠鎮静剤、１１４は解熱消炎鎮痛剤、１１８は総合感冒剤、１３の感覚器用薬の小分類では、１３１は眼科用薬、１３２は耳鼻科用薬、器官臓器用薬の中分類の呼吸器用薬を示す２２では、２２１となれば呼吸促進剤で、２２２は鎮咳袪痰剤を示すことになります。
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