昨日は国立西洋美術館で始まった「ピカソとその時代 ベルリン国立ベルクグリューン美術館展」へ。コロナ前は当たり前だった週末の開館時間延長が復活していたので、色々と予定が入っていた土曜日だったけど初日に行ける!と、入館時刻を17:00-17:30に指定してチケットをネット購入した。
混雑してるんだろうなぁという予想は、いい意味で裏切られた。建物外のチケット売り場には列はなく(あたしたちはネット購入してたので並ばないけど)、当日券も残っているらしかった。「展覧会の初日だし、三連休の初日でもあるからね、夕方ってこともあるのかな?いずれにしてもラッキー」などといいつつ会場へ。
眠る男
この絵は、ベルクグリューンがコレクションを始めるきっかけとなった、と音声ガイド情報。紙とインクだけのピカソの世界、引き摺り込まれるのなんだかわかる。
ちなみに、ハインツ・ベルクグリューンは1914年ベルリン生まれのユダヤ系ドイツ人。ナチスを逃れたアメリカでジャーナリスト・美術館勤務を経て、1948年からはパリで画廊を経営。その一方で、自分のために作品の購入と放出を繰り返しながら、最終的には、ピカソ、クレー、マティス、ジャコメッティ、を中心に据えそれにセザンヌを加えた珠玉の作品で構成されるコレクションを作り上げた。ピカソとは同時代人。画家本人とも交流しつつピカソの各時代の代表作を収集して行った。
そのベルクグリューンのコレクションは、欧州各地で展示された後、1996年からベルリンのシャルロッテンブルク宮殿に面した建物で公開され、2000年にベルリンナショナルギャラリーが主要作品を購入して収蔵。その後2004年にベルリン国立美術館群の一つとしてベルクグリューン美術館と改称、今回その改修を機に97点(うち76点が日本初公開)もの作品がまとめて来日。日本国内にある作品も11点加えられ、108点で構成。
圧巻、という言葉がふさわしい展示、来年1月22日まで開催されるので、もう一度行きたいと思っている。と、語り出すと止まらなくなるのでこの辺で一部ご紹介。
裸婦(アヴィニョンの娘たちのための習作)
丘の上の集落
風景全体としては丘の向こうにまた集落があるっていう構図なんだけど、手前の建物がバラバラで、下から眺めて描いた建物とか、これは上からだよね〜みたいなのとか、実験してる様子が面白くてしばし佇む作品。
そういえば、ベルクグリューンは、作品に合わせてアンティークの額を探し出して組み合わせたと言われている。研ぎ澄まされた審美眼が選んだ絵と額縁のマリアージュ、ププって笑っちゃうような組み合わせもあったりして見どころの一つ。
マ・ジョリ
Ma Jolieとはフランス語で「私の可愛い人」っていう意味。これMoMAに同じタイトルの絵があったなぁ(でもそれはキュビズムの絵なんだけど)と思い出してMoMAのサイトに行ってみた。その解説には面白いことが載っていた。ピカソは少なくとも12の作品にこのタイトルをつけているらしい。このMa Jolieとは当時恋人だったMarcelle Humbertのニックネームだったそうで、「彼女のことをとても愛しているから、絵画の中に書き込むんだ」という手紙を残している。が、同時に流行っていた曲にMa Jolieという歌詞があり、対外的にはそっちだよん、と言いながら彼女には「君に捧げる絵なんだ」って12枚もの作品を残したピカソ様。自分の恋人としては鬱陶しくていらんけど、側から見てると微笑ましい。
ミノタウロマキア
ミノタウロスは、体は人間頭は牛の怪物、古代クレタ島に住んでいたと言われる。マキアは、戦いという意味。ろうそくを持つ少女はマリ・テレーズ、ミノタウロスはピカソ、という解釈もあるというし、「戦い」とタイトルにあるためかこの2年後に描かれた「ゲルニカ」の先取りという人もいるようだ。あたし的には、出会った当時23才も年上だったピカソとまだ未成年だった少女の出会いの瞬間、ピカソが一眼で恋に落ちたその瞬間を描いた絵、という解釈に一票だな。
踊るシレノス
ワイン大好きのわが家にとっては、ありがたくて涙が出るシレノス様。弟子のディオニュソス(バッカス)と共に、地中海地方の人々に葡萄の栽培方法を教えて回った。おかげで今日我々が美味しいワインがいただける、ってわけ。彼らの行くところ、ワインに酔っておどる集団が出来ていったらしい。くれぐれも飲み過ぎはだめですわ、ってことかしらね(笑)。
座って足を拭く裸婦
「新古典主義時代」のパステル画、ピカソが好きだったルノワールにもこんなポーズの作品がある。
雄鶏
緑色のマニキュアをつけたドラ・マール
ポスターに使われている絵。100種類以上ものバリエーションが存在している「泣く女」のモデルでもあったドラ・マールは、マン・レイの助手としてキャリアをスタートさせたシュールレアリスムの写真家。当然(?)ピカソの恋人だった。
黄色のセーター
同じくドラ・マールがモデルの肖像画。ドラ・マールは、同時にピカソの恋人だったマリー・テレーズとの間には娘がいるのに自分には子供ができないと悩み、よく泣いていたらしい。ピカソに「あたしとマリーとどっちを取るのよ!」と迫ったこともあり、恋人2人がアトリエで大喧嘩したこともあったという。「どちらかを選ぶことはできない」とピカソが答えたというけど、肘掛けに腕を預けて堂々と座るドラ。「君の方が僕の女王さまだよ」と言ってるようにも見えなくない。
ちなみに、チケット売り場など館内で使われていたのはこの絵。ドラ・マールさま、お疲れ様でございます。さすがはピカソのミューズざんす。
鶴
鶴、の向こうはマティスの作品
ジャコメッティの「ヴェネツアの女」の向こうにピカソ様
「男と女」、と「闘牛士と裸婦」、の2作品。男と女は国立西洋美術館に収蔵されている、梅原龍三郎氏によって国立西洋美術館に寄贈された作品。
ロダンの「地獄の門」
ブールデルの「弓を引くヘラクレス」
終わったらすっかり暗くなっていた。西洋美術館の建物の好きなところは、美術館の扉を出たらすぐに現実に引き戻されるのではなくて、敷地を出るまでの間、少し余韻を楽しめる空間があるところ。東博もそうだし、小さいけど近所の永青文庫もそうだ。この日は圧倒的に密度の濃い展覧会だったので、この空間が本当にありがたかったな。
今回はピカソさまだけをご紹介。他の作者の作品はまた改めて。
ありがとう・・・
ピカソ愛のなせる技でござりまする。
そんなに混みこみじゃなくゆっくり鑑賞されたようで良かったですね
私も行くとしたらこのkebaさん記事をブクマして読んでから行きたいと思います。
眠る男 踊るシレノス 緑色のマニキュア・・
あたりにとても惹かれました
やっぱり生で見ねば!
108点 揃ったところは壮観でしょうね
感受性がガツンとやられてピカソ酔いしそうですね
午前中には列ができていたという話も聞きました。
なので、夕方行ったのが良かったのかもしれません。
ピカソ様だけじゃないけど、コレクションの特徴と私の波長がシンクロした、久々すっごくハッピーになれる展覧会でした。
もう少ししたら東博の国宝展が始まりますから、あのあたりで1日過ごす芸術の秋も良いかもしれませぬ。