私は2004年に短歌を初め、2014年に唐突にやめてしまった。
それからの6年間は短歌とは無縁の生活を送ってきたのだが、
最近になって春日真木子さんを詠んだ歌について書いたのをきっかけに、
古いノートを引っ張り出してきた。
懐かしいと同時に、いろいろなところに歌を送っていたことに
われながら驚いた。
「NHK短歌」、「NHK全国短歌大会」、「朝日歌壇」、
朝日千葉版の「歌壇」、現代歌人協会主催「全国短歌大会」などなど。
たくさん出詠してはたくさん落とされた。
それでも時に選歌されると励みにもなった。
短歌の“た”の字もわからずに初めた私だが、選歌されることで
少しずつ短歌というものが解ってきたように思う。
それまで「百人一首」を読んだことがなかったが、市民講座で
本が1冊あまっているということなので、頂くことにした。
古文は苦手だったが、内容が解らないなりに毎日音読していると、
だんだんリズムが掴めてきた。
今後、新型コロナウィルスに感染して、この世とおさらばする日が
突然来るかもしれない。そうなる前に
選歌して頂いた歌をブログに残そうと思います。
選歌してくださった方々に感謝します。有難うございます。
(1)NHK短歌(佳作は2カ月遅れで本に載ります)
①2008年3月号 高野公彦選 佳作(怒る)
噴門より入(い)りて幽門出(い)でゆきぬ夕べの怒りすこしこなれて
②2008年8月号 栗木京子選 佳作(抜)
大鰺(あじ)の腸(わた)を抜かむと入(い)る指が
やはきに触れて一瞬ひるむ
③2009年4月号 川野里子選 佳作(帰る)
帰るたびグンと伸びゐる実生(みしやう)の木
廃家となれるふるさとの庭に
④2009年5月号 栗木京子選 佳作(左)
左手に痛む右腕さすりやる永井陽子のうた写し終へて
⑤2009年6月号 加藤治郎選 佳作(恋)
〈光の春〉を教へてくれし日は過ぎて
ひだまりに夫(つま)は爪を切りをり
⑥2009年7月号 加藤治郎選 佳作(食べ物)
定型になると饒舌 あはび・烏賊・まぐろに海老とちらしに溢る
⑦2009年8月2日放送 今野寿美選 一席(煙)
ピシピキと薪の火はぜて煙立ついつかは終はる子と過ごす夏
今野評
一家でキャンプ。火がはぜる音を個性的に添えて楽しい場面を
浮かばせた。親子で過ごす夏は子が少年少女期のうちだけ。
母の率直な見きわめに情感が漂う。
⑧2010年1月号 東直子選 佳作(白)
人群れがわれに向かひて押し寄せる白き朝(あした)は過呼吸になる
⑨2010年1月24日放送 東直子選 一席(器)
永久凍土けふも融けゆくこの星の洗面器にてかほを洗へり
※歌集では新仮名遣いにしたが、やはり旧仮名遣いが生きる歌だと思う。
⑩2010年8月号 加藤治郎選 佳作(雨ーテーマ詠)
雨の日のわが間脳はゆるびゐてとろとろとろとろ魚のねむり
⑪2010年9月号 東直子選 佳作(宿)
鯉と鯉しづかに淡くすれちがふ死者のたましひ宿せるごとく
※これより新仮名遣いになります。
⑫2010年10月号 加藤治郎選 佳作(昭和ーテーマ詠)
横丁の文化がひとつ無くなりぬ銭湯で飲むフルーツ牛乳
⑬2010年10月号 東直子選 佳作(島)
団塊の星と呼ばるる島耕作すべて手に入れいかに老いゆく
⑭2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和(NHKBS)100選
打っちゃりの決まったような秋の空どこまでもどこまでもこすもす
⑮2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和 花山多佳子選(打つ)
石打ちて火を熾(おこ)したる古代人そのあつき掌(て)に触れたき夕べ
⑯2011年2月13日放送 加藤治郎選 入選(思い出ーテーマ詠)
ぎしぎしとわたしの髪を洗うのはリウマチを病む前の母の手
⑰2011年5月8日放送 花山多佳子選 入選(扉・戸)
ノックをせずに扉をあける人と居て知らぬまにわれはゆるびていたり
⑱2011年8月号 花山多佳子選 佳作(呼ぶ)
ウランちゃん、アトムと呼びし科学の子 五十年経てその姿知る
⑲2011年9月号 来嶋靖生選 佳作(山・川)
汗かきて乳房(ちぶさ)冷えゆく初夏(はつなつ)の
山にひびかう時鳥(ホトトギス)の声
⑳2011年9月号 花山多佳子選 佳作(葉)
蓮の葉の漏斗(ろうと)のような窪みへときるきる雨が吸い込まれゆく
21 2011年9月号 坂井修一選 佳作(輝)
輝ける柿の若葉はいろを増しわれにこんもり木陰をつくる
22 2011年10月号 坂井修一選 佳作(戦争)
気の弱き父が一番撲(う)たれしと共に戦争に行きし人告ぐ
23 2012年3月号 佐伯裕子選 佳作(橋)
濁流の橋脚を揉む映像がいくどもいくども巻き戻される
24 2012年4月号 花山多佳子選 佳作(穴)
口だけがひとつの穴であることの止むことのなき友のおしゃべり
25 2012年6月号 坂井修一選 佳作(子)
子の内に何歳(いくつ)のわれが棲むならむ二十年のち、五十年のち
26 2012年8月号 来嶋靖生選 佳作(涙)
超音波画像に胎児と会える子の涙は枕につつっと落ちぬ
27 2012年8月号 花山多佳子選 佳作(鏡)
四十年、黒縁眼鏡に笑いいる写真一枚残さぬ人は
28 2012年12月号 坂井修一選 佳作(電車・汽車)
身長の三分の二ほどの籠を背負(しょ)い行商のおうな電車に乗りくる
29 2013年3月号 花山多佳子選 佳作(鉄)
鉄さびが轍(わだち)のごとく残りたり形見のハサミに白布裁ちて
(2)NHK全国短歌大会
①2006年1月14日 石田比呂志選 秀作(自由詠)
空砲の鳴る畑道(はたみち)をゆく朝(あした)
やらねばならぬこと何もなし
②2006年1月14日 稲葉峯子選 秀作(題詠―光)
火屋(ひや)の母 灰となりたるその中に人工関節赤く光れり
③2006年1月14日 入選(自由詠)
風に揺れ凌霄花(のうぜんかづら)ひとつ落つ
母に背(そむ)きし夏の思ほゆ
④2008年1月26日 入選(自由詠)
大ぶりの茶碗に飯(いひ)を食(は)みてをり
旅に出(い)でたる君に代はりて
⑤2008年1月26日 入選(題詠―声)
北の果てノールカップにいま立つと夫(つま)の声きく午前三時に
Ⅱにつづく
それからの6年間は短歌とは無縁の生活を送ってきたのだが、
最近になって春日真木子さんを詠んだ歌について書いたのをきっかけに、
古いノートを引っ張り出してきた。
懐かしいと同時に、いろいろなところに歌を送っていたことに
われながら驚いた。
「NHK短歌」、「NHK全国短歌大会」、「朝日歌壇」、
朝日千葉版の「歌壇」、現代歌人協会主催「全国短歌大会」などなど。
たくさん出詠してはたくさん落とされた。
それでも時に選歌されると励みにもなった。
短歌の“た”の字もわからずに初めた私だが、選歌されることで
少しずつ短歌というものが解ってきたように思う。
それまで「百人一首」を読んだことがなかったが、市民講座で
本が1冊あまっているということなので、頂くことにした。
古文は苦手だったが、内容が解らないなりに毎日音読していると、
だんだんリズムが掴めてきた。
今後、新型コロナウィルスに感染して、この世とおさらばする日が
突然来るかもしれない。そうなる前に
選歌して頂いた歌をブログに残そうと思います。
選歌してくださった方々に感謝します。有難うございます。
(1)NHK短歌(佳作は2カ月遅れで本に載ります)
①2008年3月号 高野公彦選 佳作(怒る)
噴門より入(い)りて幽門出(い)でゆきぬ夕べの怒りすこしこなれて
②2008年8月号 栗木京子選 佳作(抜)
大鰺(あじ)の腸(わた)を抜かむと入(い)る指が
やはきに触れて一瞬ひるむ
③2009年4月号 川野里子選 佳作(帰る)
帰るたびグンと伸びゐる実生(みしやう)の木
廃家となれるふるさとの庭に
④2009年5月号 栗木京子選 佳作(左)
左手に痛む右腕さすりやる永井陽子のうた写し終へて
⑤2009年6月号 加藤治郎選 佳作(恋)
〈光の春〉を教へてくれし日は過ぎて
ひだまりに夫(つま)は爪を切りをり
⑥2009年7月号 加藤治郎選 佳作(食べ物)
定型になると饒舌 あはび・烏賊・まぐろに海老とちらしに溢る
⑦2009年8月2日放送 今野寿美選 一席(煙)
ピシピキと薪の火はぜて煙立ついつかは終はる子と過ごす夏
今野評
一家でキャンプ。火がはぜる音を個性的に添えて楽しい場面を
浮かばせた。親子で過ごす夏は子が少年少女期のうちだけ。
母の率直な見きわめに情感が漂う。
⑧2010年1月号 東直子選 佳作(白)
人群れがわれに向かひて押し寄せる白き朝(あした)は過呼吸になる
⑨2010年1月24日放送 東直子選 一席(器)
永久凍土けふも融けゆくこの星の洗面器にてかほを洗へり
※歌集では新仮名遣いにしたが、やはり旧仮名遣いが生きる歌だと思う。
⑩2010年8月号 加藤治郎選 佳作(雨ーテーマ詠)
雨の日のわが間脳はゆるびゐてとろとろとろとろ魚のねむり
⑪2010年9月号 東直子選 佳作(宿)
鯉と鯉しづかに淡くすれちがふ死者のたましひ宿せるごとく
※これより新仮名遣いになります。
⑫2010年10月号 加藤治郎選 佳作(昭和ーテーマ詠)
横丁の文化がひとつ無くなりぬ銭湯で飲むフルーツ牛乳
⑬2010年10月号 東直子選 佳作(島)
団塊の星と呼ばるる島耕作すべて手に入れいかに老いゆく
⑭2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和(NHKBS)100選
打っちゃりの決まったような秋の空どこまでもどこまでもこすもす
⑮2010年10月24日 ニッポン全国短歌日和 花山多佳子選(打つ)
石打ちて火を熾(おこ)したる古代人そのあつき掌(て)に触れたき夕べ
⑯2011年2月13日放送 加藤治郎選 入選(思い出ーテーマ詠)
ぎしぎしとわたしの髪を洗うのはリウマチを病む前の母の手
⑰2011年5月8日放送 花山多佳子選 入選(扉・戸)
ノックをせずに扉をあける人と居て知らぬまにわれはゆるびていたり
⑱2011年8月号 花山多佳子選 佳作(呼ぶ)
ウランちゃん、アトムと呼びし科学の子 五十年経てその姿知る
⑲2011年9月号 来嶋靖生選 佳作(山・川)
汗かきて乳房(ちぶさ)冷えゆく初夏(はつなつ)の
山にひびかう時鳥(ホトトギス)の声
⑳2011年9月号 花山多佳子選 佳作(葉)
蓮の葉の漏斗(ろうと)のような窪みへときるきる雨が吸い込まれゆく
21 2011年9月号 坂井修一選 佳作(輝)
輝ける柿の若葉はいろを増しわれにこんもり木陰をつくる
22 2011年10月号 坂井修一選 佳作(戦争)
気の弱き父が一番撲(う)たれしと共に戦争に行きし人告ぐ
23 2012年3月号 佐伯裕子選 佳作(橋)
濁流の橋脚を揉む映像がいくどもいくども巻き戻される
24 2012年4月号 花山多佳子選 佳作(穴)
口だけがひとつの穴であることの止むことのなき友のおしゃべり
25 2012年6月号 坂井修一選 佳作(子)
子の内に何歳(いくつ)のわれが棲むならむ二十年のち、五十年のち
26 2012年8月号 来嶋靖生選 佳作(涙)
超音波画像に胎児と会える子の涙は枕につつっと落ちぬ
27 2012年8月号 花山多佳子選 佳作(鏡)
四十年、黒縁眼鏡に笑いいる写真一枚残さぬ人は
28 2012年12月号 坂井修一選 佳作(電車・汽車)
身長の三分の二ほどの籠を背負(しょ)い行商のおうな電車に乗りくる
29 2013年3月号 花山多佳子選 佳作(鉄)
鉄さびが轍(わだち)のごとく残りたり形見のハサミに白布裁ちて
(2)NHK全国短歌大会
①2006年1月14日 石田比呂志選 秀作(自由詠)
空砲の鳴る畑道(はたみち)をゆく朝(あした)
やらねばならぬこと何もなし
②2006年1月14日 稲葉峯子選 秀作(題詠―光)
火屋(ひや)の母 灰となりたるその中に人工関節赤く光れり
③2006年1月14日 入選(自由詠)
風に揺れ凌霄花(のうぜんかづら)ひとつ落つ
母に背(そむ)きし夏の思ほゆ
④2008年1月26日 入選(自由詠)
大ぶりの茶碗に飯(いひ)を食(は)みてをり
旅に出(い)でたる君に代はりて
⑤2008年1月26日 入選(題詠―声)
北の果てノールカップにいま立つと夫(つま)の声きく午前三時に
Ⅱにつづく