今日のうた

思いつくままに書いています

ふたりご 1

2015-01-01 20:49:54 | ⑯第一歌集 『ふたりご』・その他
あけましておめでとうございます。
ブログをお読みくださいましてありがとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

短歌を始めてもうじき11年になります。
ひと区切りをつける意味で、2013年10月に上梓しました第一歌集『ふたりご』の一部を、
書き記しておこうと思います。

2004年から2013年までの歌を、ほぼ作歌順に収めています。
2007年~2013年までに「題詠blog」に投稿した歌は、かなりの数になります。
それらを普通の章立てに入れられるものは入れて、入らなかったものは
「題詠blog2007~2013」に収めました。
お読みくだされば幸いです。


  地球を感じよ

空砲の鳴る畑道(はたみち)をゆく朝(あした)やらねばならぬこと何もなし

つややかな辛夷(こぶし)のつぼみに触れたれば仔犬のような温もりのあり

抱擁のごとく芒(すすき)に巻きついて荒れ地に葛のつるの幼き

ゆるき風わが身に受けては押しかえし太極拳を庭に舞いおり

山おおい送電線をものぼりゆく葛という字を子は嫁(か)してもつ

超音波画像に胎児と会える子の涙は枕につつっと落ちぬ

赤黒き顔ぬめぬめとひかりいる羊水を出(い)で二時間経(た)つも

たんぽぽの綿毛のような髪を撫でひしと抱(いだ)けば乳の匂いす

みどりごの重みの腕に残りいき ぬるき風ふく地下鉄ホームに

〈すしのこ〉の匂いがすると女子(おみなご)の髪をむすめは拭きてまたかぐ

意志をもち歩き初(そ)めたる孫ちひろ地球を感じよその足裏(あなうら)に


  新毛斯 

一瞬に真鯉あらわれ泳ぎくる鈍色(にびいろ)のさざなみ押し分けながら

強風に羽ばたきいたる雲雀(ひばり)の子たちまち凧(たこ)のごとく落下す

風にゆれ凌霄花(のうぜんかずら)ひとつ落つ母に背(そむ)きし夏の思わる

リウマチの指に包丁重ければ果物ナイフに菜(な)を切る母は

木棚より新毛斯(しんモス)ひと巻き引き出(い)だし母は裁(た)ちにき曲れる指に

                             新毛斯=綿織物。

割烹着(かっぽうぎ)のポケットにいつも入ってた母が拾いし輪ゴムが二、三

茄子(なす)の実の地につくままに朽ちてゆく ひとつの町に母は生きたり

生前に母はノートに記(しる)しいき「香典返しは敷布(しきふ)にすること」

火屋(ひや)の母 灰となりたるその中に人工関節あかく光れり

                             火屋=火葬場。

母の頭(ず)のまろきかたちを覚えおり髪洗いいし右の手のひら

ひゅるひゅると気管支の鳴る秋の夜は母の胸にて泣きたきものを

煮こぼれし醤油のにおい立ちこめて誰かの子供でいたき夜なり


  シュプレヒコール

三十年返しそびれしままの本『ゴドーを待ちながら』われの書棚に

                   『ゴドーを待ちながら』=ベケットの戯曲。

サナトリウムに憧れていし若き日の一時期 喘鳴(ぜんめい)という言葉を知らず

曼珠沙華(まんじゅしゃげ)のまっ赤な花が咲いていた おもいで少なきはたちの恋は

愛しさの風化するまであとすこしメタセコイアの針の葉を踏む

西日受けバターの溶けるアパートが初めてわれの砦となりき

冬空に拳(こぶし)をかざす花梨(かりん)の実シュプレヒコールも遥けくなりぬ

メルシーのラーメンいまも健在と婿は言いたりGABANが置かれ

                            ギャバンの缶コショウ。

ラーメンの汁飲み干して汗ぬぐうこの煮干し味三十年ぶり


  子と過ごす夏

人間を南瓜(かぼちゃ)のように積むHONDAラッシュ・アワーのタイのハイウェー

散歩することはないのか バンコクの路傍にねむる痩せた犬・犬

巨大なる足裏みせる涅槃仏(ねはんぶつ)タイの暑さはかなわぬ、かなわぬ

全裸にて少年ひとり飛び込みぬ夕陽かがやくチャオ・プラヤ川に

ピシピキと薪の火はぜて煙立つ いつかは終わる子と過ごす夏


  朝の蓮池

音階の狂ったオルガンめく音にウシガエル鳴く朝の蓮池

朝の陽(ひ)に睡蓮の葉の揺らぎいて鯉のうろこのひかり浮かび来(く)

睡蓮の葉をくわえたる鯉は今ヘディングするがに縁(へり)をちぎりぬ

雨の日のわが間脳はゆるびいてとろとろとろとろ魚のねむり


  次女の引っ越し

玄関にピンクのサンダル置きしより娘のいるごと華やぎ初(そ)むる

ひとさし指くちにふくみて眠る児(こ)とエレベーターに乗り合わせたり

むらきもの心の置き処(ど)のなき昼はひとり茶漬けに山葵(わさび)を入れる

               むらきもの=「こころ」にかかる枕詞(まくらことば)。

みどりごのよだれのような粘液にまみれたる手にアロエベラ剥(む)く

いちだんと重くなりたる孫を抱く夢のなかでも成長しており












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