近況を聞くなかで、てっきりお店のチラシを依頼されるのかと思った。日南海岸鵜戸神宮に近い宮浦に居を構える仏師・橋口弘道さんからの電話だ。お店の名は「天部屋」、入口のドアには手の形をした木彫りの取手が付いている。店内に入るにはまず握手だ。ドアを開ければ氏の作品の他、織物、陶器などが迎えてくれる。氏の作品である仏像は、権威的なものはなく、野仏のようなものがほとんど。どれも優しさに溢れている。もうひとつ目を引くのは、大きな梁に刻まれた木彫り紋様。橋口さん手彫りのものだ。唐草模様的で、とても伸びやかで必見だ。
ところで、氏からの依頼はチラシではなくハガキだった。縁あって京都の三千院に、今春、六地蔵を納めたのだと言う。納めた六地蔵は「わらべ六地蔵」。電話の翌日、原稿と写真が届いた。「わらべ六地蔵」と言うだけあって、かわいく優しい地蔵さまだ。私の直感は、地蔵様のモデルは、氏の奥さんそのもの。後で伺ったが、その通りだった。
さてハガキの写真面、傾き等を直してトレミング。色が少し赤見だったのが気になったが、修整は最小限にとどめ、かわいさ・優しさを失わないように配した。気を使ったのはむしろ宛名面。こちらは墨1色。墨100%だときつい感じなので、文字にもアミをかけ、少し淡くした。切手の部分には、写真面の六地蔵から顔部分を丸く取り出して、こちらも薄く配置した。その上に、切手を貼るのがもったいないほどに仕上がった。
後日、休日のドライブも兼ねてハガキを届けるために「天部屋」へ。氏は、前庭で石を相手に、お地蔵さまを制作中。そして、傍らには氏の息子さん。これからは天部屋の主なのだという。
そう、「天部屋」は古い店名、新しい店名は「テンベア」。看板も新しくなっていた。それ故、作ったハガキにも勿論「テンベア」の文字。店内レイアウトもすっきりしていた。これからの展開が楽しみだ。
宮崎市から行けば、鵜戸トンネルを抜けて約1kmの左側、小布毛井公民館のとなりだ。新しくなったテンベアの看板が迎えてくれる。金・土・日のみというが、さわやかな風を感じること間違いなしだ。
都城市立美術館の前庭には、氏の不軽菩薩(ブロンス)が展示してある。