日頃感じたこと、思ったこと事などを書きとめておきます。
野のアザミ
樋口英明さんの問いただし
2021-03-22 / 読書
樋口英明さんの『私が原発を止めた理由』
3月11日、東日本大震災・福島第一原発事故から10年を迎えた。なので今回は硬めの内容を書いておきたい。
「原発の耐震性は一般住宅より低いという衝撃の事実! 『原発敷地に限っては強い地震は来ない』という地震予知に依拠した原発推進 あなたの理性と良識はこれを許せますか?」
こう問いただす本が出た。著者は、2014年5月に関電大飯原発3・4号機の運転差止め判決、及び翌年4月に関電高浜原発の再稼働差止めの仮処分を決定した元福井地裁裁判長・樋口英明さんである。本の名前は『私が原発を止めた理由』。旬報社からの出版だ。
言わずと知れたことだが、日本は太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートという4枚のプレートがせめぎあうため、強い地震や大きな噴火が度々起きる国だ。世界で起きるM6.0以上の地震の内、約20%は日本周辺で起きている。時にはM9というような超巨大地震や全てを滅ぼす破局噴火さえ起きてきた国だ。そして、これからも起きる国だ。こういう国に原発があること自体、とても危険で恐ろしいことだ。
普通、世間では、原発は地下の岩盤に設置されているから地表より地下の揺れの方が小さいと思われているだろうが、この本を読めば違うということが分かる。本では、地表と地下の揺れについて、中越沖地震時の柏崎刈羽原発で観測と福島第一原発で観測された地震動を図示し、むしろ地表の方が地下(解放基盤表面)より揺れが小さかったことを明らかにしている。電力会社などが「原発は堅固な岩盤の上に直接設置されているので、やわらかい地盤の上に造られた一般の建物と比べ、揺れが2分の1から3分の1程度になる。」などと説明してきたのは間違いだったのだ。
昨今、裁判で取り上げられる機会が多くなった基準地震動のバラツキ問題では、松田式をもとに簡潔に説明している。松田式は日本で起きた14個の地震を取り上げ、活断層の長さに応じた平均的地震規模を求めたものだ。式に使った地震がたった14個ということも問題だが、その中でさえ、式から大きく逸脱する地震もあれば逆に小さな地震もある。そのようなバラツキがあるため、余裕を持ったとしても、基準地震動に松田式に求める事は根源的誤りとしている。その上で、高度の安全性が求められる原発の耐震性の基準を定めるには、「実際に起きた最大の地震のMを結んだ線」を、「最低限の」地震規模Mと特定すべきとしている。その通りと思う。
また、どの原発でも現在の基準地震動に比べ建設当時の基準地震動が極めて低いことに驚くが、これについての答えは次のようだ。1941年に河角廣という地震学者が「震度と最大加速度の対応表」を提唱し、戦後も強い影響力を持ったからだという。それによれば、震度7は400ガル程度、震度6は250〜400ガル程度とされていたのだ。しかし、阪神・淡路大震災以降の観測網整備により、震度7は1500ガル程度以上と判明したのだそうだ。震度7が400ガル程度以上と思われていたのが、実は1500ガル程度以上だったのだ。その上、地震学者さえ、重力加速度(980ガル)を超える地震はないと考えていたのに、1000ガルを超える地震が度々観測され、4022ガルというギネス掲載の岩手・宮城内陸地震さえ観測されているのが今の日本だ。本には「1000ガル以上の地震とハウスメーカー及び原発の耐震性」という図も掲載され、M6程度のどこでも起こりえる地震でさえ、原発の基準地震動を超える場合があることが分かるようになっている。地震が起きるたびに、原発の心配をするのは、もう終わりにしたい。国民みんなに読んで欲しい本だ。
本の最後には、キング牧師の言葉をが掲載されている。
「究極の悲劇は悪人の圧政や残酷さではなく、それに対する善人の沈黙である。結局、我々は敵の言葉ではなく、友人の沈黙を覚えているものなのだ。問題に対して沈黙を決め込むようになったとき我々の命は終わりに向かい始める。」
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