トサカレンカク(Irediparra gallinacea novaehollandiae) Comb-crested Jacana
オーストラリア10日目。
この日は日本人ガイドの松井さんに午前中だけ近郊を案内して頂くことになっていた。
まずはセンテナリーレイク(Centenary Lakes)へ向かう私達。
セントラルに寝床を移してからも車があるうちはセントラルのごく周辺は後回しにしていたため、ここではまだ一度もフィールディングしていなかった。
水路の脇を歩いていると、ヒメミツユビカワセミがマングローブの根の暗がりにとまっていた。
また明るい林を通る道の木ではイチジクインコが数羽でイチジクの仲間の実を食べていて、そのうちセキレイみたいな声で鳴きながら直線的に飛んでいった。背の高い木の樹冠にいたアカメテリカッコウは予想していたよりも遥かに小さくて、スズメを一回り大きくしたほどしかない。このテリカッコウはハシブトセンニョムシクイによく托卵するらしい。
目立つ立ち枯れの木にとまって何やら捕まえたばかりの獲物に舌鼓を打っていたオーストラリアチゴハヤブサはスマートな日本のチゴハヤブサに比べて何だかもっさりしている。
池に居たであろうシャイなタカサゴクロサギは、見つけた時にはすでに木の上に避難していて、全身が私達に見られるようになるとすぐさま飛び立っていった。
ひらりと舞い降りたクロモズガラスはButcherbirdと物々しい名前をしているけれど、太い嘴に真っ黒な体をした見た目は決して名前負けをしていない。
私達の正面を堂々と横切ったカンムリカッコウハヤブサは胸から腹にかけてトケンみたいな横斑があり、翼の広さと尾羽先端の黒帯にドキッとさせられる。
そしてマングローブやその他の雑木が激しく茂る区画に差し掛かった時、とんでもないことが起きた。
なんとその枝が一際絡み合った場所に、とてつもなく可愛くて美しいケープヨークオーストラリアムシクイ(Malurus amabilis)の群れがまさに通りかかったのだ!
ケープヨークオーストラリアムシクイの英名はLovely Fairy-wren。名前の通り可愛すぎて妖精と見まごうばかりのこの鳥の雄成鳥は、上背と頭頂から側頸に向けてエスチュアリー状に食い込む様に輝くメタリックブルーをしていて、肩羽は赤茶色、という見るだけで鼻血が出そうな羽色をしている。全身淡褐色のセアカオーストラリアムシクイの雌タイプと異なり、このケープヨークオーストラリアムシクイの雌タイプは耳羽が落ち着いたツヤ消しインディゴブルー、頭頂から尾にかけての上面がアジサイ色をしていて、和風で素晴らしい。
このケープヨークオーストラリアムシクイは雄が1羽、雌タイプが5羽程度の小群であっと言う間に通り過ぎて行ってしまった。
茂った潅木から真っ赤で尾の長いアサヒスズメが飛び出して数秒間辺りを見回したのを見た後、採石場跡に水がたまって出来たという池にやってきた。
このリリーパッドの繁茂した池の水上を、その長い趾を駆使して優雅に歩き回っていたのは、トサカレンカクであった。
こんなに趾が長いと、そのうち蹴躓いて転びやしないかと心配になるけれど、これが中々どうして器用にペタペタと歩くものである。
この日は他にも多種類の鳥を見たのだけれど、特にこの中でもケープヨークオーストラリアムシクイとアサヒスズメの2種についてはガイド無しには見られなかったろう。
キバタン(Cacatua galerita galerita) Sulphur-crested Cockatoo
このキバタンは何をしているのか、足を軸にくるくる回り続けて遊んでいた。
鳥以外はというと、ひらひらと頼りなく飛ぶパプアトラシャクや、前翅がウスバシロチョウよりもずっと透明なウスバジャコウアゲハ、またかなりの高度を飛翔するミドリトリバネアゲハの雌、翅を閉じた時に前翅の白色部がカギ状の形をしたムモンアオタスキシジミ、それから複数種類のトンボを見かけた。
Northern Dwarf Tree Frog(Litoria bicolor)
本種には分布も重なるEastern Dwarf Tree Frog(Litoria fallax)なる類似種がいるのだけれど、黒色部が濃くて前脚の後方にまで明瞭に見られることからおそらく L.bicolor の方であろう。
メガネオオコウモリ(Pteropus conspicillatus) Spectacled Flying-fox
最後に 私達はオオコウモリのねぐらを見に City Place を訪れた。
ここではこのメガネオオコウモリと昨日大群で飛翔しているのを見たオーストラリアオオコウモリが街路樹に大勢ぶら下がって休んでいて、その数の多さからねぐらの木はコウモリの生る異様な光景になっていた。
その中でもこの翼が黒くて目の周りがメガネ状に淡褐色のメガネオオコウモリは英名通りにすごくキツネ顔をしている。ちなみに、フライングフォックスと言えばまず藻類食のコイ科魚類の方を思いついてしまうのは私だけ?
お昼頃に松井さんと別れた後、私達は教えてもらった青果市場へと向かった。
この市場は毎週末に開催されるもので、スーパーなんかで買うよりもずっと安くフルーツが手に入る。
私はこの中でも黒色の縦斑がないスイカとパイナップル、プラム、それからありったけのマンゴーを買い込んだ。それからこれらをユースホステルに持ち帰った後、共用の大冷蔵庫で冷やしてからむしゃこらと昼飯代わりに満腹になるまで食べたのだった。
【2010/03/12/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
オーストラリアオオコウモリ(Pteropus scapulatus) Little Red Flying-fox
楽しかったグレートバリアリーフのクルーズは、本当にあっと言う間に終わってしまった。
そして桟橋から歩いてユースホステルに帰る途中。ふと空を見上げると、その西日の空はとんでもないことになっていた。
ねぐらから飛び立ったもの凄い数のオオコウモリ達が音もなく空を埋め尽くし、大河のごとく太い帯になって流れていくではないか!ボルネオで見たドラゴンダンスも凄かったけれど、コウモリの大きさがその比ではない。西日に照らされているからといっても、翼が透けて赤褐色味を帯びていることからオーストラリアオオコウモリの方であろう。
何が凄いって、ここは街のど真ん中、セントラルなのだ。
何も知らない子どもがこんな光景を見たら、街に宇宙人の大群が攻めてきたのではないかと勘違いして、この世の終焉を覚悟しかねない。
こりゃすごいのなんのと騒ぎ立てる私達を尻目に、現地の人々はこんなの毎日のことだと言わんばかりで、他に歩みを止める人は誰も居なかった。
やがて日本では「通りゃんせ」が流れるかわりにここオーストラリアでは「ピョン、プツツツ...」と音のする歩行者用信号機の青色点灯にやっと気付いた私達は、上を向いたまま、また歩き出した。
【2010/03/11/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
クロアジサシ(Anous stolidus pileatus) Brown Noddy
先程まで照りつけていた太陽が、ほんの少しの間、雲に隠れた時。
私の隣にいた1羽のクロアジサシが盛大にあくびをした。
あくびというのは人から人に伝染してしまうものだけれど、この時私は確かに、クロアジサシのあくびにつられて大きなあくびを1つしてしまった。
なんということだろう!あくびの伝染に科学的根拠があるかどうかは知らないけれど、この時、もしかしたら世界で初めて「鳥から人へのあくびの伝染」が確認された。
こりゃすごいと驚いていると海から上がってきた友人が、メガネモチノウオを見たことと海に入ればよかったのにということを私に告げた。むむ、それは羨ましい。
セグロアジサシ(Sterna fuscata serrata) Sooty Tern
セグロアジサシはクロアジサシより内陸に集結していた。
静止時にはたまに下の写真みたいに翼をガキョンと下にずらした姿勢をとるのだけれど、これと頸が短くて翼と尾が長いところがとてもカッコ良い。
カツオドリ(Sula leucogaster plotus) Brown Booby
カツオドリが地面に立っているという光景は、それはそれは新鮮なもの。
飛翔時は脚を格納して無駄のない流線型のフォルムになりクールだけれど、こうして巨体に見合わず短い脚でちょこんと佇んでぼんやりと口を開けていると、何だか可愛らしい。
ベンガルアジサシ(Thalasseus bengalensis torresii) Lesser Crested Tern
オオアジサシに混ざってごく僅か、ベンガルアジサシがいたのは見逃さなかった。冬羽のこの個体は、魚を咥えてしばらく自慢げにしていた。カモメならばこんなことをしていればすぐに横取りされてしまうところ、アジサシはそのような争いはしないみたいである。
ベンガルアジサシは日本でも記録のある鳥。
この白化クロアジサシにかまって砂洲への最初の渡し舟を逃したことで、少なくとも1、2種は見逃した。それから運と私の鳥探し能力が足りないためにさらに2種が見られなかった。このうちヒメクロアジサシは探したけれどこの時は砂洲の端から見える範囲には居なかったのは確か。
【2010/03/11/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
ギンカモメ(Larus novaehollandiae novaehollandiae) Silver Gull
太陽の照りつける白い砂洲の上。
深紅の嘴に銀色の背面をした美しいギンカモメ成鳥の鋭い眼光が、私を捉えた。
ギンカモメは、黒くて太陽からの熱を蓄えそうなクロアジサシ達を尻目に涼しそうに佇み、そのうち赤い眼瞼をつぶって休み始めた。
ここに来る観光客達は皆、シュノーケリングや水遊びに興じているけれど、私のような若者はここでは水着にすらならないし初めからそのような物など持ち合わせていなかった。時間制限付きでなければ最高の透明度を誇る海を覗いて色とりどりの魚達と戯れたのにな、なんて言っても、きっと人生の中でまたこの砂洲に来たとしても、多分その時も海には入りそうにない。鳥に心奪われてまたフラフラと陸をさまよっていることだろう。
カツオドリ(Sula leucogaster plotus) Brown Booby
カツオドリは、とにかく大きい。
手前のクロアジサシやセグロアジサシと比べるとその巨大さがわかるのだけれど、これがまた私からそう遠くない距離に腰を落ち着けているものだから壮観なのだ。
例えば私は西表島には何度も行っているのにその航路でカツオドリが船の横に並んで飛んでくれた、なんて経験は一度もなかったから、この近さは相当嬉しいもの。
オオアジサシ(Sterna bergii cristata) Crested Tern
ふと目線を上げると、丁度飛んできた夏羽のオオアジサシが波打ち際に華麗に着地するところだった。
オオアジサシは日本で3度見たことがあるけれど、どれも豆粒遠かっただけに、この近さはニヤケが止まらないレベル。
後頭のツンツン具合など、格好良さが留まる所を知らない。
【2010/03/11/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】
クロアジサシ(Anous stolidus pileatus) Brown Noddy
オーストラリア9日目。
白い砂浜、降り注ぐ太陽の光。ここは、グレートバリアリーフに出来た砂洲(Michaelmas Cay)。
出航前、港に停泊している船に乗って待っているだけでカンムリミサゴが大きな魚を運んで飛んで行ったりソデグロバトがマングローブ林から飛び立ったりと忙しいもので、目移りが止まらない。さらに船が発進すれば、パリーナや誘導灯のような障害物という障害物にカツオドリやオオアジサシがとまっているものだから首を左右に振りすぎて筋肉痛になるかと思った。さらに沖では、はるか洋上を格好いいコグンカンドリの雄が波間を滑るように飛んで行ったのを確かに見た。
皆さんは、自分が一定数以上の野鳥に取り囲まれた時にどうなってしまうか、自ら予想がつくだろうか。私はもちろん平静で淡々と鳥を探し続けられるなどと考えていたのだけれど、そんなことは到底無理だった。
仮にも繁殖地の端っこに踏み入ろうと言うのだから、私もイメージしてみなかったわけではない。けれど、実際にこの砂洲に放り込まれてみるとどうだろう。私はおびただしい数のクロアジサシに取り囲まれるという状況の中で完全に思考停止してしまい、ただ口をぼんやりと開けたまま一歩も動かず、かなりの間立ち尽くしていた。まるで時を忘れてしまったかのように。
人に対しておよそ警戒心というものが皆無のクロアジサシ達が手を伸ばせば明らかに届く程の距離に所狭しと並び、クゥーワクワと口々につぶやいている。
この島は、天国か何かなのだろうか。
【2010/03/11/オーストラリア Cairns,Australia;Mar. 2010】