花追い放浪記

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キッコウハグマ

2013-11-02 | コウの花図鑑

彦岳トンネル上の岩尾根で遊んでいる最中、肩を負傷してしまった

やはり太り気味で切れのない体では、厳しい藪漕ぎは無理がある

道中、花は見られなかったが、唯一岩場にキッコウハグマが花を咲かせていた

 

キッコウハグマとホソバハグマを比較した論文では、キッコウハグマは、弱光下での光合成効率(葉の単位重量当たりの光合成速度)が高く、また葉の単位重量当たりの暗呼吸(酸素を使用しブドウ糖からエネルギーを生産する反応)速度が低く、葉を維持するコストが低いと記述されている

光の乏しい樹林下での生育に適していると考えられるのだが、日当りの良すぎる環境においては、強光障害が懸念される

光合成には、光エネルギーを二酸化炭素の還元に必要なNADPH2+とATPに変換する明反応と、それを利用して二酸化炭素を固定する暗反応がある

強光により、明反応が過剰となり、植物が備える安全装置の許容を越えると、過剰となったエネルギーが酸素の還元に使われ、活性酸素が発生する事となる

その活性酸素により、光合成装置が破壊されてしまうのが、光障害である

長崎では、林縁に自生していた多くのツクシアオイが、樹木の伐採とともに枯死した事があったが、これも光障害によるものだろう

 

キク科植物は本来明るい場所に生息し、日本に生息するキク科植物のうち、キッコウハグマのように林床に生息するものは約20%に過ぎない

キッコウハグマは、実生の段階で2~4枚の葉をつけ、開花まで最短で3年かかるが、実験的に明るい環境で生育させると、わずか3ヵ月で、野生の開花株と同等の葉数となる

このように、生育環境の違いによって、出葉様式が変化するのがキク科植物の特徴である

本葉を4 枚もつ実生の純生産は、ほかの実生に比べて著しく高く、1枚葉は4 枚葉の10%、2 枚葉は21%、3 枚葉は48% である

光環境の良い場所の実生は、より多くの本葉を出現し、大きな純生産をあげることができるのだ

キッコウハグマは秋に開花するので、開花は開花年の生育期間中の物質生産に規定されている

天候不順等により、開花年の光条件が悪い場合、開花のエネルギーを要する開放花は少なく、閉鎖花を多くつけるのかもしれない

引用)林床に生育するキク科植物の生態

 

学名:Ainsliaea apiculata Sch.Bip.

和名:キッコウハグマ(亀甲白熊)

キク科 モミジハグマ属

撮影 2022年11月 大分県

初版 2013年11月02日

記事アップロード 2022年12月05日

画像アップロード 2022年11月24日

 

以下 アーカイブ

記事アップロード 2021年11月16日

画像アップロード 2021年11月16日

 

11月に見つけた野草の花(大分県)

キッコウハグマ(亀甲白熊)

 Ainsliaea apiculata Sch.Bip.

 

キク科 モミジハグマ属

花 期 : 9~11月

生育地 : やや乾燥した林内、林縁

分 布 : 北海道(南部)~九州

RL指定 : 環境省カテゴリ:なし 大分県:なし

先般訪れた大分県の山で、キッコウハグマの花を撮影した

キッコウハグマは、九州では大変多く自生する植物で、その花は大変人気がある

だが、開放花は少なく、せっかく自生地を訪れても、閉鎖花ばかりでがっかりする事も多い

そこで、キッコウハグマの閉鎖花についての実態を知りたいと思い、論文を読んでみた

 

まず、興味を引いたのは、開放花を付ける個体の草丈は低い場合が多いという事

花茎の形態は、①開放花のみ、②開放花と閉鎖花の両方を付けるもの、③閉鎖花のみの3種類が見られるとの事

このうち①②開放花をつけた個体の花茎は5~15cmと短く、それより長い花茎の個体は主に閉鎖花だった

開花の為の資源やエネルギーをより多く必要とする個体は、茎の伸長や頭花の形成を犠牲にしている可能性がある

これは私個人の考えだが、日当りの悪い場所の個体に閉鎖花が多くみられるのも、開花の資源やエネルギーが得にくい環境に自生してるが故ではないだろうか

 

開放花と閉鎖花の両方を付ける個体は、開放花は茎の下部に、閉鎖花は上部に付くようだ

キッコウハグマの花期は、送粉者である昆虫の数が少なく、また短い茎の下部に咲く開放花は発見されにくい為、他殖が成功する確率は低いと考えられる

調査では、開放花の結実率は20%、閉鎖花は80%との事

参考までに、花の色により送粉者は異なり、キッコウハグマのような白い花の場合、ハナカマキリ、ハエ、ハナアブ等口吻の短い昆虫に好まれるようだ

 

全体では、開放花の割合は頭花の1割と少なく、しかも結実率が20%と低い為、キッコウハグマの繁殖はほぼ閉鎖花による自殖と考えられる

それは、効率が良く、花粉形成の資源や開花のエネルギーを節約でき、個体の成長への投資へ回す事ができる

実際、閉鎖花の花粉量は、開放花より圧倒的に少ないようだ

それならば、完全に開放花を捨ててしまえばよいように思えるが、キッコウハグマは、少数の開放花を残し、遺伝的多様性の低下による近交弱勢を防ぐ事を選んだのだ

参考資料 【キッコウハグマにおける開放花と閉鎖花形成の実態】

 

キッコウハグマは、草丈5~35cm程のキク科、多年草

葉は、茎の下部に付き、葉身は心形で5角形または、5浅裂する

頭花は1~7個程で、開放花の場合、茎の上部から順次開花する

頭花は、3個の筒状花からなり、先は5深裂し、先端は反り返る

 

少数の開放花を残したキッコウハグマであるが、今後他殖を止め、菌への依存を高める事により、送粉者や日射からの束縛から逃れ、暗い森の奥へと進出するよう進化するのかもしれない

ちなにみ、キッコウハグマからは、プッチニア属やスファエロセカ属の菌が検出されているようだ

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