一昨日、買い物から帰ると、斜め向かいに住むタナカさんが、自宅前の落ち葉を片付けていた。
そして、私が車から降りると、困ったような表情で駆け寄って来た。
「ちょっと奧さん、誰にも言わないでねぇ、、」
誰にも言わないでねは、近所の情報屋タナカさんの口癖だ。
「どうしたんですか?」
タナカさんは小声で話し始めた。
「隣の男の子、ライター持っててタバコ吸ってたよ。家の脇で吸ってて、吸い殻を投げて足で踏んでたのを見たよ」
「えー」
隣の男の子というのは小学校4年生だ。
1番上の子が中学生のお姉ちゃん、末の3番目が小学1年生の女の子。タバコを吸っていたというのは真ん中の子だ。
母親は30代半ばぐらいのシングルマザーだが、なんというかまあ、あまりガラのよろしくない、なるべく近寄りたくない感じの人だ。
タナカさんから、
「誰にもいわないでねぇ、派手な男が出入りしてるよ」
と聞かされている。
そして更にタナカさんから、
「誰にも言わないでねぇ、隣のお母さん、真ん中の男の子に馬乗りになって叩いていたよー」
とも何度か聞いている。
それを聞いて、もしかして虐待!?と疑ったが、子ども達は元気そうだし服も小ぎれいだし、ただ単にガラの悪い母親ゆえの怒り方なのだろうと思う。
そしてタナカさんが続けて言った。
「お母さんに教えようかなと思ったけど、また男の子がお母さんから乱暴されたら可哀想だし、男の子が大きくなって、自分も何されるかわからないから怖い」
ああ、確かに。
ここは知らないフリをしておきたいところだが、男の子がライターを持っていたというのが気になる。
ホントに困った一家が引っ越して来たもんだ。
あー、お金があったらウチがどっかに引っ越したいよ。
あ、お金があったらインプラントも入れたいよ。
それとあれよ。レディスアデランスも。
それと、ダンナをクズ病院から転院させたいし。
それとぉ、
て、いくらあっても足りんな。
どっかからお金降って来てくれ。