油屋種吉の独り言

日記や随筆をのせます。

MAY  その72

2020-11-18 15:21:27 | 小説
 突然、空が真っ暗になった。
 ひゅんひゅんと弓が空を切るような音が空
から降ってきて、森の中で響きはじめた。
 たまらず、ニッキは耳を抑えた。
 敵の円盤が何らかの攻撃を始めたらしい。
 だが、ニッキは冷静だ。
 そばにやっかいなケイがいる。
 決して、腰の拳銃から手を外したりするこ
とはない。
 「ねえ、真っ暗じゃない。どうしたんでしょ
うね、これって。それにこの音、鼓膜が破れ
そうだわ。ニッキもメイも、わたしといっしょ
に安全な場所に移動しましょうよ」
 ケイはニッキにまとわりつくのをやめ、ふ
たりに向かってそう言った。
 「そうだな」
 ニッキはぽつりと言った。
 ケイの目的を見抜いていたニッキは、メイ
をケイから引き離そうとした。
 バリバリ、バリバリッ。
 ふいにすさまじい音がした。
 遠くからだと、それは光の柱が地面から突
き立っているとしか見えない。
 青く、紅く、そして最後は白っぽくなる。
 まるでいくつものかみなりが、すぐそばで
落ちたようだ。
 ニッキとメイが歩いて来た道に沿って、そ
れは地面を刺しつらぬきながら近づいて来る。
 「とんでもないな、これは。ケイ、こんな
ことはしたくはないが、きみのためだ」
 ニッキはそう叫ぶと、ケイの体を両手でか
かえ上げ、林の中へ運んだ。
 「ニッキ、やめて。わたし、ずっとずっと
前からあなたのことが……」
 放り投げられた衝撃で、ケイの体は、雪の
中にめりこんだ。
 雪が鼻や口になかに入って来て、ケイは話
すことができない。
 それどころか、空気さえ思うように吸えな
い状態になった。
 ケイはしゃにむに首を横にふり、
 「何すんのよ、ニッキ。わたしを殺す気」
 「しばらくそうやって、じっとしているん
だな。味方と信じていたものにやられたくな
いだろ」
 ニッキはメイをうながして、すばやく道か
らはずれた。
 「ニッキ、わたしたち、いったいどうなっ
てしまうの」
 「それはぼくにもわからない。運を天にま
かせよう」
 光の柱というより、それは火の柱というべ
きものだった。
 まるでマグマが天から降ってくるようだ。
 そばにあるものをみな、次から次へと焼き
尽くしていく。
 さいわいなことに、火の柱はいったん通り
すぎた。
 だが、ほっとしたのもほんの少しの間、そ
れは、再び戻ってきはじめた。
 「さあ行こう」
 「どこへ」
 「あそこさ。あの洞窟」
 「行けるかしら」
 洞窟まではかなりの遠回りになった。
 森の中が荒らされ、木々が散乱している。
 その上に雪が降りつもっている。
 ニッキが先頭になり、用心深く前に進みは
じめた。
 雪をかき分けたとたん、にゅっと小枝がや
りのように突き出してくる。
 うっかりすると、ひどい傷を負いかねない。
 こんな時こそ、首につるした石の力を借り
たいもの、とメイは手でさぐった。
 だが、それは見あたらない。
 きっとどこかで失くしてしまったのだろう。
 悔しくて、メイは涙がこぼれた。
 「ニッキ、待って。わたしも連れて行って」
 なんとか、雪の中からはい出したのだろう。
 後方で、ケイの声がした。
 (そうしたいのはやまやまだが……。今は
できない)
 ニッキはこころの中でケイにわびた。
 洞窟に入りこめば、ケイの口を通じて、敵
にきらきら石のすべてが明らかになってしま
うかもしれない。
 それに、火の柱が、洞窟の壁を木っ端みじ
んに粉砕してしまう恐れもあった。
 ニッキはいちかぱちかの大勝負にでたので
ある。
 せまい入り口をふたりして、はあはあ息を
弾ませながら抜け出し、闇の中で、火柱が通
りすぎるのを待った。
 ニッキは大いなるものに祈った。

  
 
  
コメント
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