惑星エックスでの話し合いが不調に終わっ
たことをニッキから知らされたポリドンは、
「そうか、とにかくご苦労」
一言だけ答え、なにやら探し物でもするか
のように、机の引き出しを開けたり閉めたり
し始めた。
「将軍、何かお手伝いできることがありま
したら……」
ニッキはそう言いつのった。
「あっわるいわるい。まだいたんだな。気
づかなくてすまん」
「とんでもございません。せっかくの交渉
がうまくいかず……、再び戦火をまじえるよ
うな雲行きになってしまい、おわびのしよう
もありません」
「あはははっ、そんなこと気にするな。よ
くあることだから。敵さんもいろいろとある
ようだ。かの王がそれほど追いつめられてい
るとはな。想像すらできなかったな」
「まさにその通りです。私たちの申し出に
対しては、余裕しゃくしゃくたる態度でした
もの。だまされるのも、むりがありません」
「ああ、そうだな」
「ひょっとすると、もうかなり前から、部
下の王離れが進んでいたのかもしれません」
「うん、たぶん、そうに違いない」
ポリドンはニッキと話していても、なにか
うわの空。
ふいにポリドンは机をいじるのをやめた。
「きょうの空もようはどうだろう」
誰にたずねるともない問いを発し、つかつ
かと窓辺に寄った。
ドーム状になった空間には、地球と変わら
ぬ木々の緑が再現されている。鳥のさえずり
が戦いに疲れた人々の心を癒していた。
「火星の空はおだやかです。敵の襲来があ
れば、かなり前から察知できるようになって
いますし……」
「ああ、そうだな」
いらだつ気持ちを少しでも和らげようと思
うのか、ポリドンは、
「ああ、きみ」
と、ニッキのほうを向いて、言った。
「はっ、何でしょうか、将軍。なんでも言っ
てください。全力を尽くします」
ニッキははじかれたように、一歩前に進ん
で応じた。
「そこのな、机の引き出しをあけてくれな
いか。わたしが今、一番欲しいものが入って
いるんだ」
「欲しいもの、ですか」
「どっちだったか覚えていない。戦いが済
み、平和が訪れてからと思っていた」
「はあ……?」
ポリドンの机は右と左に引き出しが付いて
いる。
何が欲しいと、ポリドンは明確に答えてく
れない。ニッキは彼の気持ちをおもんばかる
しかなかった。
ニッキは、失礼しますと言ってから、いく
つもの引き出しをあけ始めた。
どの引き出しのなかみも、ポリドンにとっ
て重要なものばかりだった。
鉛の玉が発射できるピストルや、小型の光
線銃などは、ポリドンの身を守るべき大切な
ものだった。
ある引き出しをあけると、ぷんとやにの匂
いがした。
「葉巻でしょうか」
「ああ、それもいいな。きみも一本、とり
たまえ。薄荷の香りが疲れた神経をなだめて
くれるぞ」
「ええ、ありがとうございます。でも、私
はやりませんので」
「じゃあ、酒でもどうだ?」
「はい、それなら少しいただきます」
「今度、きみの家族といっしょにパーティ
ーだな、これは」
「はい、ありがとうございます」
ポリドンは、観音びらきになっている重い
防弾ガラスの窓を、力強く押しひらいた。
とたんに、ドーム内の空気がすうっとポリ
ドンの部屋に入りこんだ。
「どうだ?気持ちいいだろう」
「ええ、なんとも言えず、さわやかな気分
になりました」
ポリドンは机の置かれてある場所に舞い戻
り、左側の一番上の引き出しをあけた。
小さな黒色の巾着ぶくろをひとつ取り出し、
ニッキの目の前であけて見せた。
「あっ、それは」
「メイに分けてもらった。こうやって大事
にとってある」
ポリドンの顔が少し赤く染まった。
小袋がジャラジャラと音をたてる。
「確かに大切なものですね」
「ああ。そうだ。まあ、きみもそんなにあ
せらないでいい。戦いはもうすぐ終わる。い
や、終わらせてみせる」
「はい」
「巨大円盤の指揮官の見当はついているか
ら心配するな。きみも遠征で疲れたろう。し
ばらく休暇をとっていいぞ。せいぜい英気を
養うんだな」
その時、部屋のドアがたたかれた。
軽いノックがメイの入室を知らせていた。
たことをニッキから知らされたポリドンは、
「そうか、とにかくご苦労」
一言だけ答え、なにやら探し物でもするか
のように、机の引き出しを開けたり閉めたり
し始めた。
「将軍、何かお手伝いできることがありま
したら……」
ニッキはそう言いつのった。
「あっわるいわるい。まだいたんだな。気
づかなくてすまん」
「とんでもございません。せっかくの交渉
がうまくいかず……、再び戦火をまじえるよ
うな雲行きになってしまい、おわびのしよう
もありません」
「あはははっ、そんなこと気にするな。よ
くあることだから。敵さんもいろいろとある
ようだ。かの王がそれほど追いつめられてい
るとはな。想像すらできなかったな」
「まさにその通りです。私たちの申し出に
対しては、余裕しゃくしゃくたる態度でした
もの。だまされるのも、むりがありません」
「ああ、そうだな」
「ひょっとすると、もうかなり前から、部
下の王離れが進んでいたのかもしれません」
「うん、たぶん、そうに違いない」
ポリドンはニッキと話していても、なにか
うわの空。
ふいにポリドンは机をいじるのをやめた。
「きょうの空もようはどうだろう」
誰にたずねるともない問いを発し、つかつ
かと窓辺に寄った。
ドーム状になった空間には、地球と変わら
ぬ木々の緑が再現されている。鳥のさえずり
が戦いに疲れた人々の心を癒していた。
「火星の空はおだやかです。敵の襲来があ
れば、かなり前から察知できるようになって
いますし……」
「ああ、そうだな」
いらだつ気持ちを少しでも和らげようと思
うのか、ポリドンは、
「ああ、きみ」
と、ニッキのほうを向いて、言った。
「はっ、何でしょうか、将軍。なんでも言っ
てください。全力を尽くします」
ニッキははじかれたように、一歩前に進ん
で応じた。
「そこのな、机の引き出しをあけてくれな
いか。わたしが今、一番欲しいものが入って
いるんだ」
「欲しいもの、ですか」
「どっちだったか覚えていない。戦いが済
み、平和が訪れてからと思っていた」
「はあ……?」
ポリドンの机は右と左に引き出しが付いて
いる。
何が欲しいと、ポリドンは明確に答えてく
れない。ニッキは彼の気持ちをおもんばかる
しかなかった。
ニッキは、失礼しますと言ってから、いく
つもの引き出しをあけ始めた。
どの引き出しのなかみも、ポリドンにとっ
て重要なものばかりだった。
鉛の玉が発射できるピストルや、小型の光
線銃などは、ポリドンの身を守るべき大切な
ものだった。
ある引き出しをあけると、ぷんとやにの匂
いがした。
「葉巻でしょうか」
「ああ、それもいいな。きみも一本、とり
たまえ。薄荷の香りが疲れた神経をなだめて
くれるぞ」
「ええ、ありがとうございます。でも、私
はやりませんので」
「じゃあ、酒でもどうだ?」
「はい、それなら少しいただきます」
「今度、きみの家族といっしょにパーティ
ーだな、これは」
「はい、ありがとうございます」
ポリドンは、観音びらきになっている重い
防弾ガラスの窓を、力強く押しひらいた。
とたんに、ドーム内の空気がすうっとポリ
ドンの部屋に入りこんだ。
「どうだ?気持ちいいだろう」
「ええ、なんとも言えず、さわやかな気分
になりました」
ポリドンは机の置かれてある場所に舞い戻
り、左側の一番上の引き出しをあけた。
小さな黒色の巾着ぶくろをひとつ取り出し、
ニッキの目の前であけて見せた。
「あっ、それは」
「メイに分けてもらった。こうやって大事
にとってある」
ポリドンの顔が少し赤く染まった。
小袋がジャラジャラと音をたてる。
「確かに大切なものですね」
「ああ。そうだ。まあ、きみもそんなにあ
せらないでいい。戦いはもうすぐ終わる。い
や、終わらせてみせる」
「はい」
「巨大円盤の指揮官の見当はついているか
ら心配するな。きみも遠征で疲れたろう。し
ばらく休暇をとっていいぞ。せいぜい英気を
養うんだな」
その時、部屋のドアがたたかれた。
軽いノックがメイの入室を知らせていた。