PHP 2011年1月号 190円+税 p36より引用
酒井雄哉 (天台宗大阿闍梨)
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一歩一歩前に進もう
●無駄なことは一つもない
二十歳のころ、勤めていた職場をさ
さいなことで放棄したことがあった
な。親には言えないから、いつもと
同じように朝八時に家を出て、東京
都内をグルッと歩いて一周し、夕方
五時に帰宅する。どう考えても、無
駄としか思えない生活を送っていた
よ。しれから三十年以上もあとに、
千日回峰行の中で京都大廻りという
修行をしたんだ。深夜の一時に寺を
出て比叡山に回ったあと、京都の旧
市内をグルッと回って戻ってくると、
夜七時ごろになる。十八時間もずっ
と歩きつづけるわけで、もう年だか
ら大変だろうと言われたね。
もしそのときに、まだ七時間も歩か
ないといけないな、と思っていたら、
しんどく感じただろうね。でも僕は
京都市内を歩いていて、ふと「どこ
かでこんな感触があったなあ」と思
い出したんだ。そういえば昔、東京
の街をぐるぐる歩いていたときと同
じだな、と。(略)
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▼酒井さんは二回も千日回峰行を達
成された大阿闍梨さんだ。三十年も
前に体験されたことを思い出して千
日回峰行も楽にできたと言われる。
どんなささいなことでも無駄なこと
は何一つないといわれる。そう考え
ると「若いときの苦労は買ってでも
せよ」ということわざもなるほどと
うなずけますね。その時は苦しいと
思ってもあとで考えるとそれが自分
の肥やしになってくるわけです。
そうしてみると、今の若い世代はな
んでもある時代に育ってきて苦労し
た経験がない。さらには苦労をして
きた世代はその苦労をさせたくない
とつい余計な苦労はさせない。これ
では体験がないからあとで破たんは
目に見えています。世の中が便利に
なり過ぎて人間は一体どうなるので
しようね?
こめぞう