嘘つき男と泣き虫女
アラン・ピーズ&バーバラ・ピーズ
藤井留美 訳
ーーーグレアムの場合
グレアムは会社を定年退職した。
そしてわずか2週間後には、プー
ルも庭もあって、海がすぐ前に広
がる美しい家を買い、妻とともに
そこに引っ越した。この家でグレア
ムは、現役時代の休暇と同じような
享楽的な暮らしを送るつもりだった。
しかし忙しい仕事の合間にひねり出
した休暇と、引退したあとの余生は
まったく別物だったのだ。(中略)
グレアムは急行列車から、いきなり
鈍行列車に乗り換えたようなものだ
った。以前は時間を節約するために、
一度にいくつもの用事をこなしていた
ものだ。いまはたったひとつのことでも
なるべく引き延ばして時間をつぶさなく
てはならない。ビジネスの助言を求めて
くる人がいるかと期待したが、そんな
電話はついぞ来なかった。最初のうちは
現役時代の友人とも連絡は取っていたが
それもだんだん感覚があいてくる。昨日
までは誰からも一目置かれていた自分が
今日はもう透明人間になっていた。
自分の存在意義を見失ったグレアムは、
妻のルースに構ってもらいたがるように
なった。彼女に付きまとって、あれこれ
口をだす。「昼ごはんはなんだい?」という
のが口癖になった。--------
今日も得意先から携帯に連絡があり、注文
の話でしたが、「すでに定年で辞めておりま
すので、会社の方へ直接連絡をお願いし
ます。」と答えておいた。当分こんなことが
あると思う。辞めてからはスケジュールが
1日単位となり、一つ用事を済ませれば
その日1日の行事は終了となり、案外気楽に
過ごせます。散歩も日課のひとつです。半年
立ちましたが、何とか過ごせています。