子ども医療講座 (改訂版)
第2回 「子どもだって一人の人間だ」 (改訂版-2続き)
4)子どもに期待をかけないで。
子どもに期待をかけないでください。子どもの数が少ないと、どうしても子どもに期待をかけてしまいます。しかし、お父さんとお母さんが作った子どもですから、両親より飛び抜けて優れた人ができる訳ではありません。自分と同じになればいいと思って下さい。身長も、成績も、性格も、病気もそうです。みんな受け継いでいます。
早期教育というのがありますが、「才能が伸びる」というのは思い違いです。世界的には早期教育について判っていて、元ソニーの井深大(いぶかまさる)さんが書いていますが、早期教育した時に早くそこまで到達できますが、そこから先伸びるわけではないというのが正しいです。だから大人のレベルに早く到達するかもしれませんが、そこから伸びるわけではありません。よく言われることですが、小さい時は神童で、小学校では天才、中学では秀才、大人になったらただの人になってしまうことが多いです。早く到達できるのですが、そこから伸びることはまれです。
ある人に言わせると、天才というのは2,000人に1人の確率でいると言います。だけど天才というのは、1%の才能と99%の努力で達成されます。だから多くの人は努力しないから天才は滅多に現れません。努力は本人の強い意志とそれを支える環境です。自分の意志がない限りそこまでいきません。
あるお相撲さんの話ですが、高校生で日本のアマチュア横綱をとって、将来横綱を期待されて相撲界に入りました。高校、大学時代に取ったタイトルは20幾つにもかかわらず、小結にもなれないで引退しました。当然横綱になる素質があった筈なのになれなかったのです。その原因は、稽古が嫌いで努力をしません。幕内力士は1千5百万以上の年収は保障されますから、楽に生活できます。それでこの位でいいやと思っていて努力をしなかったのです。折角の能力があっても小物で終わる人も少なくありません。
5)子どもの食欲を奪わないで。
☆子どもの食欲を奪わないで下さい。食事は楽しく食べるものです。お腹がすいたその空腹感を満たすのは楽しいことですが、食べなさいというと、食べたくなくなります。私の小さいころは食べなさいなんて言われる前から、食べちゃいました。なぜかというと食べ物がなくて、いつも飢えていましたから。しかし今の子は、いつでも食べたい物は食べられる時代です。要するに、贅沢さえしなければ、食事はしっかり食べられる時代です。今は、飢えで死ぬということは、滅多にありません。しかし、この30年で大きく変わり、子どもが満足な食事ができなくなり、子ども食堂が全国に作られる時代になりました。
まれですが、飢え死にしたという新聞記事も見られます。
☆沢山食べれば大きくなるというのは、これは思い違いです。
昔は大きくなる素質がある子が、食糧難のために食べられなくて大きくなれなかったのです。その子が、成長が止まる前のある時期、沢山食べられるようになるとどんどん成長します。ところが今は食糧事情が豊かですから、欲しいだけ食べられる時代です。そうすると大きくなる子は沢山食べます。つまり身体がどんどん大きくなるので、お腹がすいて沢山食べます。ところが元々小さい子は、体が必要としないからお腹がすかない。だから少ししか食べない。少ししか食べないから大きくなれないのではありません。
大きくなる素質がないから、少ししか食べないのです。それを無理に食べさせようとするから、ますます食べなくなります。でも子どもはどんなに少食でも必要最小限の物は必ず食べます。少食の子はカロリーが少ないから動かない。動くとカロリーを消費するからお腹がすくから。脳を回転させることもカロリーを使うので、あまり考えなくなります。
少食にならないようにするためには、食事は時間で決めず、お腹がすいた時が食事の時間です。お腹が空いた時にお腹一杯食べる習慣をつけましょう。食事を時間や量で強制しないことです。お腹一杯になったらお終い。お腹がすかなかったら食べなくていい。お腹をすかせるには目いっぱい遊びまわらせることです。これを小さいうちからやっていると良いのです。日本の栄養学は、戦後から思い違いをして現在まで続いています。でもそういうやり方ではうまくいかないのです。時間を決めたり、量を決めたりするのは間違いです。朝食を食べないことも同じです。
乳幼児期に無理やり食べさせようとすると、食物アレルギーになります。飽食の時代になって食物アレルギーが増えました。食べ物の好き嫌いも同じ原因で、食べることを強制したり、食べているのを見て嫌な思いをすると嫌いになります。母親が嫌いだと、嫌いになります。食物アレルギーを防ぐために、離乳食を遅らせることも誤りです。それで減らせたでしょうか。早期の離乳食がアレルギーを生んだのではありません。むしろ早期の離乳は、指しゃぶりや何でも口に入れることを無くします。誤飲事故の予防です。
自然界の動物たちは栄養学を知らなくても餌さえ豊富にあれば肥満にも栄養失調にもなりません。つまり動物たちも人間の身体も、自分の身体が必要とするものをおいしく感じるようになっています。ちょうどよくなると、満腹するようになります。だから自然界には太り過ぎのライオンもキリンやしま馬はいません。
ところが人聞に飼われると食欲が狂ってきて、太り過ぎや痩せ過ぎがでてきます。拒食症のコアラや肥満の猫などがそれです。
せっかく食糧があってもストレスで食欲がおかしくなってきます。強制されたり、制限されたりすることがいけません。相撲の関取の世界は、食べることが仕事の世界ですが、自分で食べようとしてもどうしても食べられない関取もいます。無理に食べさせると吐いてしまいます。私も普段あまり食べないのですが、若い時にアイスホッケーの冬の合宿を赤城山頂の湖でしたことがありました。激しい運動と寒さで消耗し、一回の食事に丼で3杯食べ、夜食でラーメンかお汁粉を食べました。それでも太らず、家に帰ってから食べ続けてしまうために太ります。家に帰っていかに食べる量を減らすかが体重維持の問題でした。
自然界のようにのびのびとしていればいいのです。そうすると太り過ぎにも痩せ過ぎにもならず、少食も偏食もおきません。食物アレルギーも起きません。
その例をあげます。福島で原発事故を被災し、東京へ避難した幼児が私たちの所へ相談に連れて来られました。いろいろな食品にアレルギーがあるから困ったと母親から聞かされていましたが、母親が病気になり、東京へ避難したことで離婚されて母子家庭でしたので、児童相談所へ入りました。それでその子の状況を聞いたら、こちらでは何でも食べていますという返事でした。母親と離れて、食べるものがそれしかなかったらアレルギーが無くなったのです。
6)三つ子の魂、百まで。
三つ子の魂百までというけれど、三歳までに良い習慣をつけさせましょう。実は大人もそうです。お腹がすいた時にお腹一杯食べて、すかない時には食べないという習慣をしていると本来ストレスさえなければ、自然に良い体型を保って栄養失調や栄養が偏ることもありません。でもどうしてもいろんなことに惑わされたり、ストレスで食欲がなくなったり、逆にストレス解消で食べてしまったり、楽しいことがなく食べることにしか楽しみがないと太ってしまいます。
大体3歳から6歳くらいまでに子どもの性格の半分が決まります。だから生まれてからその年齢まで、できるだけのびのびと育ててあげましょう。叱ったり、強制したりしないことです。
私も昔は間違った考え方をもっていました。子どもに我慢を教えなければいけないと思っていたのです。これは思い違いでした。我慢をさせると、子どもは大人になって我慢をしなくなります。つまり嫌だなと思うと、自分が主人公になれる大人になったら、ああいうことはすまいと思ってしまいます。あなたにそういうことはありませんか。誰でも何かしらあるのではないかと思います。嫌な思いをすると大人になってしなくなります。だから我慢をさせてはいけないのです。
例えば盲導犬の訓練の話ですが、盲導犬は、生まれた時にすぐ親から離して犬好きの家庭でのびのびと育てます。決して「お手」なんて教えてはいけません。何も教えません。ただひたすら可愛がります。そして1年くらいの時期が来たら、育ての親から離して、人間の教官と犬の教官がぴったりくっついて、2匹と1人で行動します。猛烈な訓練ですから、それに耐えるためには、何にも教えてはいけません。それまでに犬が嫌だなと感じたことがあると、途中で訓練を拒否したり、訓練に抵抗したりします。それを避けるためには、それまでのびのびさせて育てます。そうすると頑張って盲導犬になっていくのです。人間もそうです。
☆のびのび育てられた人は、大人になって頑張ったり我慢できるようになります。子ども時代に嫌な思いをすると、大人になって我慢をしなくなります。
☆子どもを怖がらせてはいけません。子どもは、小学校の低学年くらい(サンタクロースを信じている年齢)までは空想と現実の境目がありません。だから怖がらせるとそれが現実と思い込んでしまいます。小さいうちはできるだけ怖がらせない。怖い思いをさせると怖がりになります。それを経験したことがない子が恐いもの知らずになります。私には、怖いものがありません。両親がそう育ててくれたのです。親に叱られた記憶がありません。私が外で、いろいろなこと、例えばよその家の高い木に登ったり、屋根に上がったりしても、父が謝りに行き、私は叱られませんでした。空襲にもあいましたから、死と隣合わせで生きてきましたから、死ぬことも怖くありません。いつ死んでもいいと生きてきました。
☆よく臆病な子がいますが、「母親が妊娠後期から乳児期の間にパニックになると子どもは臆病になる」と言います。そういう経験があると、その時期に育った子どもは臆病になります。できるだけ妊娠している時は、母親も楽しい妊娠生活を送ることが大切です。そのために妊娠中に胎教をすることがいいので、楽しくなれば何でもよいのです。そして生まれて来る子に不安をもってはいけません。
☆これは確定していませんが、生まれつきの異常をもっている子というのは、お母さんが妊娠中に何か精神的な問題があったのではないか、夫を信頼していなかったのではないかということが疑われます。だから相思相愛で良い結婚生活を送っているお母さんの子どもはそういうことはありません。夫やその両親に気をつかったり、何かひそかに悩みを抱えていたりしていると、子どもにそれが出ることがあります。物事を楽天的に、自分の望み通りに進むと考えて人生を送りましょう。もちろん現実は厳しいですが、思いだけは楽天的に、プラス思考でいきましょう。
☆昔、未熟児網膜症の訴訟を支援していた時に、ある未熟児網膜症の子の親の一人が、ある産婦人科医の所に来て「お医者さんは何か隠しているでしょう。未熟児網膜症に効く良い薬があるのではないですか。隠さないで教えて下さい」と言ってきた。「医者の子どもには未熟児網膜症がいない。だから何か薬があるのだろう」と考え、「だけど、貴重なものだから、一般には出さないのだ」と思ったようです。
しかし、そうではなく、医者と結婚すると経済的に豊かになるから、未熟児を産む確率が減ります。特に極小未熟児と言われている未熟児を産む確率が低く、未熟児網膜症になる確率も非常に低いです。その上、未熟児として生まれたら、医師仲間の紹介で小児医療センターなどの未熟児医療施設に入院させます。そこでは、未熟児網膜症になりません。医師の子どもにいないのは、そういう理由だったのです。
☆科学史では、イギリスで有名な話があります。「美人に生まれるとその女性の産む子には体重の大きな子が産まれる」という相関関係を出した研究者がいます。これは思い違いでした。美人に生まれると、イギリスでは階級制度が未だに残っていて、1ランク、2ランク上の階級の男性と結婚できて経済的に豊かになり、豊かになると当然生まれる子も大きくなるというだけの話でした。そういう、偽の相関関係というのがいくらでもあります。
だから新聞などで、○○が○○に良いなどのデータが出したとか、CMなどに惑わされないで下さい。
☆マナーを教えるというのは幼稚園に入る4歳頃が適当と、アメリカ小児科学会は言っています。マナーの意味を小さい子どもちには理解できません。今のお母さんたちに小さい子にマナーを教えようとすることが流行っていますが、1~2歳の子には無理です。例えば物を借りる時、「貸してくださいと言いなさい」と教えます。2歳ぐらいの子に言っても意味がわからないから、見ていますとその子は、相手の子に「貸してください」と言うと借りられるものだと思っていて、相手が嫌だと言っても「貸してください」と言ってとってしまう。そういうことがあります。それは「貸してください」ということにはならない、つまりマナーがわからないのです。
7)子どもは親(特に母親)をうつす鏡。
「子どもの振り見て我が振り治せ」。子どもは親の真似をして育つ。
だから子どもにさせたければ、お母さんがやって見せることです。3歳ぐらいの女の子で、お母さんが「お邪魔しました」というと、一緒になって「お邪魔しました」と言う子がいますが、親の真似をして覚えていく。親が「これ貸してちょうだいね。〇〇ちゃん」と言うと相手がうんという。そこで「じゃお借りしますね。」ってこういうふうに言って借りて見せます。「いや」と言ったら「それではまた後でね」という。そうするとそれを子どもは見ていて覚えていくのです。
8)北風ではなく太陽になろう。
無理にやらせるのではなくやりたくなるように仕向けます。太陽のようにポカポカ照らして、上着を脱ぎたくなるようにさせましょう。北風のようにマントを引きはがそうとすると、子どもはしっかりマントにしがみつきます。
したくなるようにさせます。そのためにはどうしたらいいか。楽しそうにやってみせます。一番真似をしたがるのは、少し年上の子どもがやっているのを見せることです。楽しそうにやっているのを見せるとやりたくなります。毎日毎日見せてあげます。そうするとやりたくなります。
やりたがった時に正しいやり方を教えることが幼児教育のコツです。これは幼児教育だけではなく、何でも新しく始めるときは正しい教育を受けましょう。どんなスポーツでも自己流にしないこと。正しいやり方を教わる方が速く上達します。楽しければいいやというのならそれでもいいですが、速く上達したかったら、正しいやり方を身につけましょう。
私は医学部学生時代にアイスホッケーをやっていましたが、カナダからアイスホッケーのコーチが来て大学のマネージャーを集めて講演しました。「日本人は小さいから不利だと言うけれどそんなことはない。小回りして速く動けばいい。」と言うのです。成程と思いました。その時に教えてくれたのが、「初心者に正しいやり方をきちんと教えなさい。へんな癖がつくと、一生治りません。ただ上手にそのくせを隠すだけです。」と言いました。実際そうです。私にも癖がありまして、治らないです。ただ上手に隠すけれども、ふっとしたはずみにまた出てしまいます。
☆幼児教育もそうです。最初から正しいやり方を教えます。お箸の持ち方。鉛筆の持ち方。何でもそうです。正しいやり方をやりたがった時に教える。それが嫌ならやらなくていいのです。お箸で変な持ち方をして、それをなおすといやがって箸を放り投げたりします。そしたら持たなくていい。持ちたくなったら正しい持ち方を教えます。そうしていると、だいたい3歳で小豆の豆がつまめます。
はさみやナイフもそうです。小さいから危ないなんて言わないこと。幼稚園で料理している番組を見ましたが、4歳の子に包丁を使わせています。また別の保育所では、2歳の子にはさみを上手に使わせています。側についていて、こういうふうに使うものだと教えて、やりたかった時に上手に持たせてやらせます。教えるとそういう持ち方以外はしません。特に一年上の子に教えさせると、すぐ言うことを聞きます。はさみはこういうふうに持つものだとその子が教えると、それ以外の持ち方をしません。だから3歳になってナイフを教えたり、4歳になって包丁を教えたりしたってちっとも危険ではありません。正しい持ち方をきちんと教えることがコツなのです。教えないで、自分で勝手に使おうとすると危険です。
子どもは親を映す鏡。お母さんは子どもを見て、自分を直して下さい。小さい子は必ず親の真似をします。特に母親の真似をします。お父さんも子育てに参加している方は、お父さんの真似もします。だから、こどもにどこか問題があったら、お父さんとお母さんが相談して、まず自分たちを治すようにしましょう。でないと子どもは治らない。子どもを治したかったら、自分を治すことです。
一般的に言って、人を変えるのは難しいです。でも相手を変えたければ、まず自分が変わることです。そうすると、相手も変わってきます。人間関係は相対的な関係ですから、あなたが変われば、相手も変わります。夫を変えたかったら、自分が変わることです。つまり、夫との関係も、子どもとの関係も、貴方との相対的な関係です。常に、お互いに影響しあって生きています。それが家族であり社会です。だから自分が変わらなければ相手も変わってくれません。相手だけ変えようと思ったら無理です。
お母さんが変わったら、まず子どもが変わります。そしてできるだけ、ほめて育てましょう。ほめ上手になりましょう。これはなかなか大変で難しいことです。なぜかというと、お母さん自身がほめて育てられた経験がないからです。だから尚更子どもをほめて育てましょう。それがあなた自身を変えることになります。幸いなことに私はあまり叱られたこともほめられたことも無く、放任されたような形でしたが、それでも自分の子どもが悪いことをすると、若い時は子どもを叱ってしまいました。
だから全く叱ってはいけないというのは無理ですから、叱るのは3回に1回ぐらいにして、残りの2回はできるだけほめて育てましょう。絶対叱ってはいけないと言うと、今度はお母さんたちのストレスになりますから、時には叱ってもいいが、回数は減らしましょう。親だって人間ですから、子どもにもそう思ってもらうしかないのです。叱らず、ほめて、おだてて、育てましょう。動物の調教は、3割は餌で7割はほめること。鞭を使うと、すきあれば襲ってきます。
9)あなたも子どもだった頃を、思い出して下さい。
子どもの立場、目線に立って下さい。子どもを信じて疑わないで、嘘(うそ)はつかないで下さい。子どもだってそれなりに判るのです。よく話を聞いてあげて、必ず説明して、話をして下さい。子どもを疑うと、嘘をつくようになります。嘘をついていても、信じた振りをして下さい。嘘を信じられると、子どもは嘘をつき続けられずに、あとで必ず「あれは嘘だった」と打ち明けます。それを嘘でしょとか、嘘つきねというと、今度は繰り返し嘘をつくようになります。なぜなら嘘つきだから、嘘をついていいのです。
10)悪い子にせず、良い子にしよう。
子どもを叱る時に、子どもを全部否定するような叱り方はやめましょう。例えば「あなたは悪い子ね。あなたはぐずね。ばかね。のろまね。どじね。馬鹿ね。駄目な子ね。」など。こういう言葉はできるだけ子どもに使ってはいけません。
子どもの論理からいうと、悪い子は悪い事をしていいのです、悪い子ですから。良い子は、悪いことをしてはいけないのです。良い子は、良いことしかしてはいけないのです。ドジだねというと、ドジをしていい。なぜならドジな子だから。だからそういう言葉を使ったり、そういう言い方をしてはいけないのです。
「あなたは良い子だから、こういう悪いことをしてはいけませんよ。」と言う様にして良い子にします。そして言う通りにしたら、すかさず「あなたは良い子ね」と一言、言ってあげてください。そうすると子どもは、またしてくれます。何故なら、どんな子どもでもいい子になりたいのです。だから私の外来に来た子を、どこか必ずほめます。ほめる事によって子どもは気持ちが良いから、また来てくれるし、私の言うことを聞いてくれます。
私の診療所に代診できている東大小児科の先生たちはいろんな先生方がいますが、握手をしたり、どこか着ているものなどをほめたり、みんなそれぞれ医者によってやり方が違いますが、上手な医者は子どもをほめます。それで仲良くなり、うまく診療できます。だからお母さんたちも上手に子どもを操縦したかったら、「ほめ上手」になりましょう。そうするとお母さんの手の上で子どもは踊ってくれます。ただし、男の子は小学校を卒業するくらいまでが限度です。女の子はもう少し早く見抜いてしまい親の思い通りにならなくなります。
11)幼児教育は、やりたがった時に正しいやり方を教えるのが基本。
これから、いろんな習い事を教えることになります。習い事を教える時のコツがあります。決して強制しないこと。やめたかったらいつでもやめさせましょう。そうするとまたやりたくなり、やりたくなったら、また復活します。
ところが「やりだしたからには最後までやりなさい。」と強制する人が多いです。これは特に、お父さんたちに多い。そうするとますます嫌になってしまう。嫌になると二度としなくなります。だからやりたくなかったら、いつでもやめてよい。そうすると、時間がたつとまたやりたい気持ちが出て来て、またやりだすことがあります。だからやめたかったら、いつでもやめさせましょう。それから、「ピアノ練習した?」「ピアノ練習した?」これを毎日言うとしなくなります。習い事は楽しいからやります。スポーツもそうで楽しいからやります。楽しくなければスポーツではありません。強制訓練です。
以前、毎日新聞に載っていましたが、欧米ではスポ一ツは楽しいからやります。日本では楽しいからやるのではなく、身体を鍛えるためや健康のためにやるようです。
身体を鍛える必要はありません。日本でもスポーツ医学を専門にやっている整形外科医などの医師たちに聞けば、「人間は何も身体を鍛える必要はないです。日常生活をきちんと送っていければいいのです。」と言います。運動やスポーツは楽しいからするのであって、楽しくなければする必要はありません。運動しないと身体が衰えてしまうという人がいますが、それは専門家に言わせれば思い違いです。日常生活をきちんと送っていければいいです。高齢になって動かなくなると、体の動きを維持するために体操や歩くことが必要になりますが、決してノルマにしないで下さい。
でもこのことは昔の話になり、現代では特に都市では違ってきました。子ども時代に体を動かして走り回ることが骨を太く丈夫にするために必要になりました。私の子ども時代は、外遊びがほとんどで、遊ぶのは外でしたが、現代では家の中で遊ぶことが主になったのです。特に中学高校時代にスポーツをすることが骨を太くすると言います。それも自分からするように仕向けることです。
小児科医の山田真さんが本に書いていますが、「体育というのはなぜ始まったか。小学校で体育をして整列させていっちにいっちにと並ばして歩かせていろんな体操をする。何のためにするかというと、明治時代の西南の役の後から始まりました。政府軍はお百姓さんが中心の軍隊でしたから、進軍の時に前進できない。普段、種蒔きや稲刈り、田植えなどみんな横へ横へと進んでやっているため、並んで前進できかったのです。武士は前に進めます。それで、百姓の部隊は武士に勝てなかったのです。そこから体育を始めました。」と言う。だから軍隊生活や、集団生活をするうえでは体育は必要ですが、人間が生きていく上では必要がありません。でも今は、大都市で日常生活を普通に送るだけでは、子どもは発達していけなくなったのです。
12) できるだけ子どもの立場に立って下さい。自分が子どもの時にはどうだったろうか。いつも自分が子どもの時のことを思い出して、子どもに接してあげて下さい。子どものしつけのポイントは叱らないこと。危険なことをした時には、叱らなければいけないと私も若い時は思っていました。でもそうではなかったのです。
アメリカの小児科学教科書に書いてありますが、危険なことをしてほしくなかったら、子どもの目を見て何十回でも「これは危ないからしないでちょうだい。」と言う。3、4歳を過ぎたら、判ってくれます。これで言うことを聞いてくれたら、一人でいても決してしません。叱られていうことを聞くのであったら、叱られないところでこっそりやります。そうすると事故につながります。
危険なことは親がやっているところを見られてはいけません。子どもは必ず真似をする。子どもだからやってはいけないが、大人だからやっていいというのは子どもには通用しない。子どもはみんな大人と同じだと思っていますから、同じことをやる。
13)着せすぎにしないように。
着せ過ぎにしないようにしよう。昔は、「子どもは風の子」といって、みんな薄着だったのですが、最近は「かぜをひくといけない」と言って、一生懸命着せようとします。「寒いから着ていきなさい」というと、子どもが病気に対して関心が強くなり過ぎてしまいます。病気に神経質にならないで育てましょう。
寒いから風邪をひくことはありません。寒いからかぜをひくのではなく、冬乾燥するとウイルスが繁殖しやすいからです。南極の観測隊では、しばらくかぜをひく人がいませんでした。極地ではウイルスは生存できません。所が誰か隊員の一人が風邪のウイルスを南極の観測基地内に持ち込み、それからかぜを引く人が出るようになりました。基地内は暖かいからです。ウイルスが持ち込まれ、誰かがそれを持っていて、体調を崩した人が感染して、かぜをひくのです。
14) 「そんなことしたら病気になるよ」と言って子どもがしていることをやめさせようとするのはやめましょう。逆にして欲しいことを言いましょう。「こういうふうにしましょう」とか、「こういうふうにしたらいいよ。」と言いましょう。決して命令してはいけないし、子どもを脅かして言うことを聞かせようとすることもやめましょう。命令すると子どもは反発します。選択肢のーつとしてこういうこともあるということを教えましょう。その中のどれかを選択させるようにします。
15) 子どもには、薄着を嫌う子と、薄着をしたがる子とがいます。これは強制できません。
最近は厚着にする方が多い。それは赤ちゃんの時から親が厚着にさせるからですが、いくら厚着にしても嫌がる子と、親の言うなりになる子といます。しかし子どもに厚着をさせない方がいいです。子どもは一般に体温が高めですから寒さに強いです。だから、親より一枚薄着にさせるのが標準です。でも子どもが寒くて着たがったら着せて下さい。暑がったら脱がして、できるだけ薄着にさせて下さい。薄着保育をやっている保育所もありますが、嫌がるのを無理に強制するのもお勧めしません。薄着が嫌な子は着せなさい。薄着の方がいい子は薄着でいいです。最近減っているのですが、一時男の子に毛糸のパンツをはかせるお母さんが多いでした。毛糸のパンツを、男の子にはかせるのはやめましょう。
女性は「お尻が冷える」と言いますが、男はそんなことはないです。男の子のオチンチンがなぜ外に出ているかというと、睾丸の温度を低くするためです。睾丸というのは、温度がある程度低くないと働きません。その為暖めない方がいいので、生まれる直前にお腹の中から外に出てきます。だから毛糸のパンツはだめです。
小さい時から厚着にしていると、大人になっても厚着の習慣になってしまいます。だからできるだけ薄着にした方がいいのですが、嫌がるのを無理にはしないで下さイ。
16)朝食を食べなくても構わない
朝の食事を食べなくてはいけないと言う人がいますが、これも思い違いです。食べたくなければ食べなくていいです。というのは1日2食だって構わないのです。鎌倉時代頃までは朝と夜の1日2食が普通でした。それから現在でも相撲取りは1日2食だし、1日2食健康法を推進している民間のグループもあります。その人たちは2食しか食べませんがそれで健康です。体操の内村選手は、体重をコントロールするために、一日一食でした。
17) もう一つ、昔テレビや女性雑誌に出ましたが、「ブックスダイエット法」を提唱している九州大学藤野名誉教授は、「一日一回しっかり食べてあとは適当にする」というダイエット法を提唱していました。朝はできるだけ水分だけの食事で、昼は軽く食べ、夕食をしっかり食べます。そうする方がうまく痩せられます。朝食を食べることにこだわらないことです。子どもは朝お腹が空かなかったら、食べる必要がありません。お昼にお腹が空いたらいっぱい食べます。それで構わないです。
18) 朝しっかり食べさせたかったら、早起きをさせて運動させます。運動して時間がたつとお腹がすきます。食べないと動けないというのは思い違いです。お相撲さんは、朝食べずに稽古をしてから食事をします。昔私は高校時代に陸上ホッケー部に入っていましたが、夏の合宿では「朝マラ」と言って朝食前にマラソンをしました。と言っても距離は短かったですが。食べないと動けないというのは思い違いです。
19) またお父さんやお母さんが早起きをしないと子どもは早起きをしません。子どもだけ早起きさせるのは無理です。子どもに早寝早起きをさせなさいと言うけれど、親が遅寝でしたら早く寝させることは難しいです。子どもは親の真似をして生活しています。
親が遅く寝て早く起きる生活をしても、それは子どもにはまねをできません。子どもは体力を回復するためには、一定時間寝る必要があるからです。遅く寝たら早く起きられません。最近の子はなかなか早寝をしないというのは、大人の生活がそうだからです。
また小さいうちは、くたくたになるまで昼間遊ばせれば、早く眠くなります。しかしそういう体を動かして遊ぶ場所が少ないのです。走り回らせたり、外で遊ばせたりしないと、家の中で遊んだぐらいではくたくたに疲れません。屋外で身体を動かす遊びをすれば、くたくたになるけれど、そうはならないのが現状です。前にいた診療所は、待合室を広くとって椅子席の周りをゆったりとさせたら、子どもたちが走り回り困りました。それだけ走り回る場所が少ないからです。