私の病原環境論または適応説は、現代社会での病気をよく説明してくれるので、私もその考え方に同調したものです。ヒポクラテスの時代から続いているものですが、途切れ途切れで、続いて来ました。
現代社会で問題になっているのは、病気の増加と医療費の増加です。それを減らす為に、先進国各国はいろいろな方法を考えて来ましたが、一番まずいのは日米両国です。アメリカでも今子どもの医療が問題になっています。日本も、救急医療と共に小児医療も、精神医療も問題です。
遺伝子学的には、日本人は特に神経質な人が90%を占めていると言われ、その対象が病気に向けられています。あいさつ一つとって見ても、健康や病気への注意が多いと思います。しかし、そのことが病気を増やしていることも考えられます。つまり、一種の自己暗示をかけているようなもので、病気になりやすくなります。
しかし、自然環境対策が進み、現代の環境対策は、社会環境で、そこから派生する情緒的、心理的環境です。現代遺伝子学は、ヒトゲノムを解明したが、実際の臨床、つまり病気の治療に、予防に、余り貢献していないと科学誌に書かれていました。まさにその通りだと思います。それは、余りにも細分化された遺伝子だけに注目し、それが環境によって変化することを見落としているからです。環境と遺伝子との相互関係を考えるべきです。
心療内科もしくは心身医学では、病気と性格との関連が知られていますし、ストレスの関与も大きいということは、もう当然のように語られるようになりました。心筋梗塞や心臓病は、ワークフォリックな仕事人間に多く、癌は我慢強い人に多いと言います。また、アレルギーも心理的精神的影響の濃い病気で、やはりストレスから発病することが多いのです。現代社会がいろいろな病気を産み出しています。精神病も同じです。すべてその人の遺伝子とそれを発現させる環境によって病気になるのです。
例えば、感染症でもそうです。人と病原微生物との適応関係によって、発病したり、しなかったりします。その人間の側の要因の一つにストレスがあります。子どもや特に赤ちゃんのストレスがどこにあるのか、なかなか判りませんでしたが、今は判っています。もちろん一人一人によって異なりますが、それは持って生まれた遺伝子と母体内から始まる成長過程での環境によって作られるものなのです。あるデータでは、麻疹は接触すると99%発病すると言われていますが、1%は発病しないようです。そのデータはありませんが、ある疫学者は30万人の人口をもつ都市には麻疹は常在していると言いました。最近は、予防接種のためか、発病する人は減少しましたが、ワクチンを2回打っても発病する人がいます。そして、その感染源が判らないのです。多分、健康保菌者が存在するのではないでしょうか。細菌では、判りますが、ウイルスはなかなかそれがつかめていません。
人は自然に病気に対する抵抗力を身に着けています。それが発揮されないと発病するのです。そこには人と病原体との適応関係も関与します。その仕組みはまたこの次にします。