現代社会とストレス
字が小さかったので大きくしようとしたら消えてしまいました。再掲します。
ハンス・セリエは1936年にストレスの発見をしてから、全身適応症候群ないしはストレス症候群について約11万もの論文が発表され、セリエ自身も30冊の著書と1500余の論文を書いた。 それらをまとめ、1956年初版の「現代社会とストレス」の改訂版を1975年に出した。その要約である。
☆現在のところ、ストレスを何かの要求に応ずる身体の特異的反応と定義しておく。
医学上に用いられるストレスの本当の意味は、身体の磨耗の度合いといえる。
身体の適応反応、つまりストレスにたいする生体の防御反応系が明らかにされた。
このような変化の総体、すなわちストレス症候群は、全身適応症候群G・A・S(General Adaptation Syndrom)とよばれている。そして、これは三段階の変化として観察されている。1、警告反応期 2、抵抗期 3、疲憊期。
ストレス中の抵抗を保持するためには、神経系と内分泌系が特別に重要な役割を演じる。
この二つの系は、神経性緊張だとか、損傷、感染、害毒などのストレスを産むもの、つまり、ストレッサー(ストレス作因、ストレス刺激)に身体をさらすにもかかわらず、体内の構造や機能を正常にたもとうと務める。このはたらきは、恒常性維持機構(ホメオスタシス)と知られている。(現在は、この二つだけでなく、ほとんどすべての身体の系統が関連して作動していると考えられ、精神身体免疫内分泌学などと呼ぶこともあるほどである。
〇 米国の細菌学者ハンス・ジンサーは、「医学史上の科学的発見というものは、古来経験的に観察され実際に用いられてきた諸々の事実を、単に明確にするとともに合目的性を付与したにすぎない場合が多くみられる。」という。
〇 科学的発見の本質と言われるものは、何かを最初に見ることではなくて、すでに知られているものと今まで未知とされてきたものとの間に固い関係をつくることなのである。
☆ 病気との闘い―――ポノス
いまから2400年ほど前、ヒポクラテスは、「病気とは、損傷に苦しむ(パトス)ということばかりでなく、闘い(ポノス)―――つまり、身体を自ら正常な状態に復帰させようとつとめる身体内部の闘争である。内部より病気をなおす自然の力、すなわち自然治癒能力が常に存在し、作用しているのである。」と語った。
現代から250年前に、ジョン・ハンターは「病気とよびえぬ偶発的損傷のもたらす状態というものが存在する。すなわち、そこに生まれた損傷が、あらゆる場合に治療の素因と手段をあたえようとする傾向をもつのである。」と指摘した。
19世紀の後半の中頃、フランスの生理学者クロード・ベルナールは、「生命あるものの最大の特徴の一つは、外界の変化の如何にかかわらず、生物が自身の内部環境を一定の状態に維持せんとする能力を有することであろう。」と指摘している。 そして、この自己調整能力がうしなわれると、病気や死が訪れるのである。
☆ ホメオスタシス(Homeostasis)―――生体の恒常性維持力
ハーバード大学の生理学者W・B・キャノンは、この生体が正常な状態で維持される能力をホメオスタシスと名づけ、同一状態、あるいは、静的な状態のままにとどめようとする力を表わしたのである。これは簡単に維持力と解してもいいと思う。
いまや、病気というものは、単に受け身の、損傷にさいなまれている事実にとどまらず、損傷にもかかわらず身体の各組織が一定の均衡を維持しようとするための闘争をも内に秘めていることが明らかになった。
1 略
☆病気とは何か。
☆ストレスとは何か。
〇ストレスの定義☆第五部 その医療での実践
セリエは、
純然たる身体疾患(身体医学)にストレス概念を応用する場合に、各種の侵襲
つまりストレスに対して、生体(人間)は同じ適応・防衛の仕組みをもって応対するという。
この分析で、ストレスに対する生体自身の防衛を強化して、病気と闘う方法を教えてくれる。
〇 ストレス中の身体変化は精神状態に作用するし、その逆も成り立つ。
身辺に生じるトラブルを分析し、我々の防衛と降伏に関する適応方法の役割を認識し、
ストレスのはたす役目を区別し、毎日の生活におけるストレスに対して、どう対処するか。身を処する上にどう役立つか。
これは哲学的な意義をもつ。
〇 ストレスは全体のうちのある部分が、自己保存(ホメオスタシス)のために払う苦闘の帰結であるとも言える。老化、個性の発達、自己表現の必要、人間の究極的な目標など、
これは、人間の個々の細胞、社会の中の個人、全動物界における個々の種においても当てはまる。
人間相互の関係を支配する情緒(承認の欲求、非難される恐怖、愛情、嫌悪、感謝、復讐など)は、我々がする行動で、他人に感謝の気持ちを起こさせることが、われわれの安全をいちばん適確に保証するようだ。自己防衛の価値をそこなわずに、自然にもっているあらゆる利己主義的な衝動を、せずに、利他主義にふりかえることができる性質はすばらしいことである。
相手に感謝しよう。
〇 到達しうる最高の目標のために闘え、
しかし、決して無益な抵抗をしてはいけない
これはセリエの助言である。
人の究極の目標は、自分自身の光に従い、できるだけ十分に自己を表現することにある。
☆1 日常生活のストレッサー
ストレスは、あらゆる要求に応じた身体の非特異的反応である。
ストレスのメカニズムは、エネルギー消費と同様に、本質的には、人間の善悪の概念とは全く無関係なのである。
人間にとっての一番重要なストレッサーは情緒的なもの、とくに苦悩をおこすたぐいのものである。
日常的な生活の中での出来事としては、ストレッサーの影響は、われわれがそれを受け入れるやり方に左右されやすいのである。われわれの行動そのものや偶然起こるものではない。
人間生活におけるストレッサーと条件づけ因子を区別することは事実上不可能である。
それ(ストレッサーと条件づけ因子)は、遺伝的因子、身体的(欠陥)因子などの体内的条件付けか、食物成分、大気汚染因子、他人との接触などの体外的条件付けかはわからない。ストレスには、有益なストレスもあるが、健康上の影響がないので、有害ストレスを単にストレスと呼ぶ。
職業
各種ストレスに関する文献からは、(セリエによるもの)
計理士
重大なお金を扱う仕事をしていると、血清コレステロールが上昇する。このストレス
は、心臓発作を起こしやすい。会計職員
精神を集中して忙しく仕事をすると言うストレスは、疲労、腰痛、腕から肩への痛みを起こす。短時間にできるだけたくさん仕事をする意欲が生じるから、
産業労働者
仕事の満足度は心臓発作の出現頻度を低下させる。また、しごとに満足していると、精神的ストレスの治療的効果もあるという。
仕事のプレッシャーは、トップ管理者および末端労働者に対してともに有害ストレスを悪化させる。
昇進の過度や遅延、使用人の個人的諸問題への管理側の無関心、なども(産業)ストレス。またこれらのストレスは、男子のインポテンツ、女子の不妊を起こしやすい。
高級官僚・重役
管理的責任のストレッサー効果。重役の責任は心身症状を伴う激しいストレスを起こす。
彼の意思決定のストレッサー効果は、主としてその反応様式に左右されるからである。
ある人は生まれつきリーダーになるようにできているし、他の人は生まれつき従う人に適している。頭の良い人の中に、責任度が高くなると、フラストレーションが強くなり過ぎて、仕事が不満になりそうだからと、昇進を拒否する人もいる。
高い地位で適格に仕事をしている人をさらに高めて不適格に達するまで、従業員を昇進させるのが普通のやり方である。(ピーターの原則)
多くの人は、自分から昇進の誘惑に身をゆだねるわけだから、雇用者に対する管理者の責任は、これらの決定を自ら下さなくてはならないことである。
交代勤務員昼夜の変化は光線によっては、余り影響をうけない。
長時間労働は、各種の職業で事故性の心臓発作を起こしやすくなる。ただし、農場主と農業労働者はなぜか例外だという。
消化器潰瘍は交代勤務者に特に多い。夜勤は疲れやすく精神ストレスを生じやすい。
しかし、交代勤務は慣れるにつれてストレスが軽減されること、交代勤務者の一番多い不満は、「社会から締め出される」ことらしいと研究者はいう。
電話オペレーター
いつも油断せずにいるため、各種のストレスを生じる。仕事そのものではなく、労働者がその仕事に反応する様式が問題になる。
医師
心臓発作は一般開業医と麻酔医に多い。皮膚科医と病理検査医に少ない。アメリカでは、研修医がもっともストレスが激しい。困難な手術に直面した外科医もストレスが大きい。
イギリスの医師は、薬物中毒、自殺、精神性の病気に特にかかりやすい。
歯科医
複雑で痛みを伴う処置の際に、患者と医師の双方にストレス性の精神症状が起こりやすい。精神安定剤の使用が予防に役立つ。
看護師
難しい患者を良心的に看護することや、集中治療室の看護がストレスとなる。
法律家
仕事が難しいと、心臓発作が起きやすいという。学んだ法律学校の質と相関が強いと言う。
演説
ある人たちにとっては、聴衆は向けての演説が相当の苦痛の原因となり、身体症状もでる。血清コレステロールが増え、脈拍数が増し、血圧も上がり、それによって心臓血管系の病気も起きやすい。
警察業務
一番強く感じられるストレッサーは、上司からけん責されると言ったようなプロフェッショナリズムの精神を脅かす事態であった。
潜水
水中の構造物撤去作業がストレスが大きいようだ。潜水夫の中には血中コレステロールの上昇がよく現れる人がいる。水圧の増加や、この職業に特有な他のストレサーによる不安作用が冷水中で強くなるという。
軍人
戦闘ストレスの最も重大な影響は、「戦争神経症」である。この発症は、遺伝的素質、戦闘集団内の士気と人間関係を高めるための予備教育および動機づけなどに強く影響される。
胃潰瘍、胃腸障害、心臓血管病などもストレスの帰結である。指令系統の変更は、いつでも、とくにストレスを強く感じやすい。
航空管制官
多忙な時期に相当のストレスを感じる。とくに夜間飛行および飛行機の発着が混んでいるピーク時に強く起きる。胃潰瘍、高血圧、心臓発作が起きやすい。
自動車運転
精神集中とくに交通混雑中を高速運転する時、いらいら、身体の位置を同じに保つことから来る身体的不快感、長期間の運転で起きる退屈感、時間通りに目的地に到着するための気疲れなどがストレスになる。さらに、車の構造にもよるが、振動や騒音など。
気候と環境
空気と水の汚染
化学物質、微生物、騒音など。過密で汚染された区域、都会化された地域、集合キャンプや刑務所。
社会的文化的ストレッサー
これについては、遺伝因子、気候、食物、流行性の病気、過密、隔離、さらに複合して起こりやすい無数の関連因子があり、分離して考えることは難しい。
文化ストレスまたは異文化ストレスがある。人間関係のストレスに極めて敏感な指標は血漿中の脂質である。
文化ストレスの指標は、抗議的自殺、反抗性他殺、泥酔によるけんか、魔法のたぐいである。
〇社会的ストレス
腎臓病の原因に社会的ストレスが大きな有意性をもって関与している。
過密、群れ集まること
雑踏状態の典型的な症状は、副腎肥大とその機能亢進、胸腺リンパ系と性腺の萎縮、妊娠率低下、消化性潰瘍、感染しやすいこと、
〇感覚喪失と退屈
非常に楽な寝床に静かに寝かせると、ストレスから自分を守り切れない。そのような状態では、「外部からの感覚刺激と身体運動を強く欲し、被暗示性がまし、条理ある思考が阻害され、不快感と憂うつ感が生じ、極端な例では幻覚や幻想、錯乱さえ起こってくる。
生物体は働くようにできあがっているから、閉じ込められたエネルギーの流出ができないと、この「喪失ストレス」への適応は極端な努力が必要になる。
〇移住 病院や老人ホーム、また家から遠く離れた学校などでの長期生活で生ずる適応困難、
孤独
孤独がアルコール症を増やす。
孤独は攻撃性になりやすい。胃潰瘍にもなりやすい。孤独の人は、コルチコイドとアドレナリン生産の昼夜リズムが乱される。
大災害
爆撃、地震、洪水、戦争、竜巻、原発事故後など・・がストレッサーで、
不安逃避、驚愕性立ちすくみ、無感動、うつ状態、従順依存性、脅迫神経症などになる。
〇ストレスと条件づけ因子
〇ストレッサーと作用因子の条件づけ効果
食事、気温変化、火傷、音、紫外線、光線、振動、空気爆発と圧搾、重力、電気、磁力、痛みと悲しみ、認識努力、各種のバイオリズム(昼夜、季節、睡眠)、生理的状態(性、年齢、月経周期、妊娠、哺乳)、遺伝、人種、免疫、低酸素症、出血、運動競技を含む筋労作、
ストレスの症状 ハンス・セリエより
〇危険な徴候
過度のストレスを体験し続けていることを、どのようにしたら知ることができるであろうか。ある程度のストレスは行動のための調子の高揚やその維持のために必要である。
有益ストレスは、快であり、人生に希望を与えるもの、危なく限度を越える前に自己の耐性を知っておかねばならない
〇自覚症状
1. 通常の刺激感受性、過度興奮性、あるいは抑うつ性。各人の体質に依存する。
2. 心臓拍動の高鳴り、高血圧。
3. のどや口腔内のかわき。
4. 衝動的な行動、情緒不安定。
5. 抑えがたい衝動から、泣き、走り、うずくまる。
6. 集中力減退、思考回避や、通常の方向感覚の消失。
7. 非現実性感情、薄弱、あるいはめまい。
8. 疲労状態を好む、「生きる楽しみ」の喪失。
9. 「浮遊不安」、つまり心配なものが何なのか全くわからないけれど、怖がっていること。
10. 情緒的な緊張と警戒、「興奮亢進」状態の感情。
11. 身震い、神経性チック。
12. 小さな音にすぐびっくりする傾向。
13. 神経性高笑い。
14. どもりや他の言語障害。これはしばしばストレスがきっかけで起こる。
15. 歯ぎしり。
16. 不眠症。常に「興奮が高まった」状態の結果である。
17. 運動機能亢進、理由もないのに動き回る傾向をいう。じっとしていられない状態。
18. 発汗。
19. 高頻度の排尿要求。
20. 下痢、胃のむかつき、嘔吐。胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、胃腸機能異常。
21. 偏頭痛。
22. 月経前緊張状態。月経周期異常。
23. 頸部や腰背部の痛み。
24. 食欲不振や過度の食欲。結果としてのるい痩や肥満。
25. 喫煙増大。
26. トランキライザーやアンフェタミンなどの指定処方薬の使用増加。
27. アルコール中毒や麻薬の常用。
28. 悪夢。
29. 神経症的行動。
30. 精神病。
31. 事故に遭いがちなこと
愛他的利己主義の原理 セリエ
「愛他的利己主義の哲学」は、・・愛と善意と感謝のインスピレーションを介して、達成感と安心感とを創り出すことを支持する。
基本概念とガイドラインは、(三つの原則は )
1.あなた自身の自然のストレス・レベルを知ること。
日常生活の危急に合致しており、また将来の安全と幸福を保証する価値があると考える仕事の量と種類に関する、人々の判断は違う。そして、この点に関しては、われわれのすべては、遺伝的素質と社会的期待によって影響を受ける。われわれは計画的に自己分析を行ない、自分が真に望むものをはっきりさせよう。伝統に関する基本的な変化と破壊の危険性に余りにも保守的にふるまうため、自分の生活のすべてに困難を感じている人が多すぎる。
2.愛他的利己主義。
われわれの隣人の善意、尊敬、尊重、支援および親愛の利己的な蓄積は、われわれの閉じ込められたエネルギーを開放し、楽しく、美しく、さらには役に立つ物事を創りだすための一番有力な方法にとる。
3.汝の隣人の愛を受けよう。
このモットーは支配的な愛とは異なり、人間の自然な構造に合致している。さらに、それは愛他的利己主義に基づくものの、倫理的に攻撃されないですむだろう。自分に対して他人が豊かな慈悲の心をいだいてくれるために、好ましい幸福感や恒常性が確保できるなら、だれもそれを拒否はしないだろう。しかも、だれでも依存する人達を攻撃したり破滅に追いやったりはしないから、事実上、責め立てられることはない。
人間は文字どおり社会的生物であるから、あなたを取り巻く過密社会の真っただ中で、独りぼっちになってはいけない。一見信用できそうでなくても、また友人がいなくても、助けてもらえなくても、人々を信用しなさい。隣人から愛されるようになれば、独りぼっちにならずにすむだろう。
これらは、細胞ばかりでなく、人々、さらには社会全体のホメオスタシスを保ち、また生存や安全、福祉のために絶え間なく戦いを続けなくてはならないストレッサーに直面したさいに助けとなる基本メカニズムの観察から導きだされたものである。これらの原則は・・・まだ、・・・いまもなお、進行中である。
しかしながら、生活の質を改善する価値が純然たる経験的観察によって確立されているテクニックもたくさんある。
字が小さかったので大きくしようとしたら消えてしまいました。再掲します。
ハンス・セリエは1936年にストレスの発見をしてから、全身適応症候群ないしはストレス症候群について約11万もの論文が発表され、セリエ自身も30冊の著書と1500余の論文を書いた。 それらをまとめ、1956年初版の「現代社会とストレス」の改訂版を1975年に出した。その要約である。
☆現在のところ、ストレスを何かの要求に応ずる身体の特異的反応と定義しておく。
医学上に用いられるストレスの本当の意味は、身体の磨耗の度合いといえる。
身体の適応反応、つまりストレスにたいする生体の防御反応系が明らかにされた。
このような変化の総体、すなわちストレス症候群は、全身適応症候群G・A・S(General Adaptation Syndrom)とよばれている。そして、これは三段階の変化として観察されている。1、警告反応期 2、抵抗期 3、疲憊期。
ストレス中の抵抗を保持するためには、神経系と内分泌系が特別に重要な役割を演じる。
この二つの系は、神経性緊張だとか、損傷、感染、害毒などのストレスを産むもの、つまり、ストレッサー(ストレス作因、ストレス刺激)に身体をさらすにもかかわらず、体内の構造や機能を正常にたもとうと務める。このはたらきは、恒常性維持機構(ホメオスタシス)と知られている。(現在は、この二つだけでなく、ほとんどすべての身体の系統が関連して作動していると考えられ、精神身体免疫内分泌学などと呼ぶこともあるほどである。
〇 米国の細菌学者ハンス・ジンサーは、「医学史上の科学的発見というものは、古来経験的に観察され実際に用いられてきた諸々の事実を、単に明確にするとともに合目的性を付与したにすぎない場合が多くみられる。」という。
〇 科学的発見の本質と言われるものは、何かを最初に見ることではなくて、すでに知られているものと今まで未知とされてきたものとの間に固い関係をつくることなのである。
☆ 病気との闘い―――ポノス
いまから2400年ほど前、ヒポクラテスは、「病気とは、損傷に苦しむ(パトス)ということばかりでなく、闘い(ポノス)―――つまり、身体を自ら正常な状態に復帰させようとつとめる身体内部の闘争である。内部より病気をなおす自然の力、すなわち自然治癒能力が常に存在し、作用しているのである。」と語った。
現代から250年前に、ジョン・ハンターは「病気とよびえぬ偶発的損傷のもたらす状態というものが存在する。すなわち、そこに生まれた損傷が、あらゆる場合に治療の素因と手段をあたえようとする傾向をもつのである。」と指摘した。
19世紀の後半の中頃、フランスの生理学者クロード・ベルナールは、「生命あるものの最大の特徴の一つは、外界の変化の如何にかかわらず、生物が自身の内部環境を一定の状態に維持せんとする能力を有することであろう。」と指摘している。 そして、この自己調整能力がうしなわれると、病気や死が訪れるのである。
☆ ホメオスタシス(Homeostasis)―――生体の恒常性維持力
ハーバード大学の生理学者W・B・キャノンは、この生体が正常な状態で維持される能力をホメオスタシスと名づけ、同一状態、あるいは、静的な状態のままにとどめようとする力を表わしたのである。これは簡単に維持力と解してもいいと思う。
いまや、病気というものは、単に受け身の、損傷にさいなまれている事実にとどまらず、損傷にもかかわらず身体の各組織が一定の均衡を維持しようとするための闘争をも内に秘めていることが明らかになった。
1 略
☆病気とは何か。
☆ストレスとは何か。
〇ストレスの定義☆第五部 その医療での実践
セリエは、
純然たる身体疾患(身体医学)にストレス概念を応用する場合に、各種の侵襲
つまりストレスに対して、生体(人間)は同じ適応・防衛の仕組みをもって応対するという。
この分析で、ストレスに対する生体自身の防衛を強化して、病気と闘う方法を教えてくれる。
〇 ストレス中の身体変化は精神状態に作用するし、その逆も成り立つ。
身辺に生じるトラブルを分析し、我々の防衛と降伏に関する適応方法の役割を認識し、
ストレスのはたす役目を区別し、毎日の生活におけるストレスに対して、どう対処するか。身を処する上にどう役立つか。
これは哲学的な意義をもつ。
〇 ストレスは全体のうちのある部分が、自己保存(ホメオスタシス)のために払う苦闘の帰結であるとも言える。老化、個性の発達、自己表現の必要、人間の究極的な目標など、
これは、人間の個々の細胞、社会の中の個人、全動物界における個々の種においても当てはまる。
人間相互の関係を支配する情緒(承認の欲求、非難される恐怖、愛情、嫌悪、感謝、復讐など)は、我々がする行動で、他人に感謝の気持ちを起こさせることが、われわれの安全をいちばん適確に保証するようだ。自己防衛の価値をそこなわずに、自然にもっているあらゆる利己主義的な衝動を、せずに、利他主義にふりかえることができる性質はすばらしいことである。
相手に感謝しよう。
〇 到達しうる最高の目標のために闘え、
しかし、決して無益な抵抗をしてはいけない
これはセリエの助言である。
人の究極の目標は、自分自身の光に従い、できるだけ十分に自己を表現することにある。
☆1 日常生活のストレッサー
ストレスは、あらゆる要求に応じた身体の非特異的反応である。
ストレスのメカニズムは、エネルギー消費と同様に、本質的には、人間の善悪の概念とは全く無関係なのである。
人間にとっての一番重要なストレッサーは情緒的なもの、とくに苦悩をおこすたぐいのものである。
日常的な生活の中での出来事としては、ストレッサーの影響は、われわれがそれを受け入れるやり方に左右されやすいのである。われわれの行動そのものや偶然起こるものではない。
人間生活におけるストレッサーと条件づけ因子を区別することは事実上不可能である。
それ(ストレッサーと条件づけ因子)は、遺伝的因子、身体的(欠陥)因子などの体内的条件付けか、食物成分、大気汚染因子、他人との接触などの体外的条件付けかはわからない。ストレスには、有益なストレスもあるが、健康上の影響がないので、有害ストレスを単にストレスと呼ぶ。
職業
各種ストレスに関する文献からは、(セリエによるもの)
計理士
重大なお金を扱う仕事をしていると、血清コレステロールが上昇する。このストレス
は、心臓発作を起こしやすい。会計職員
精神を集中して忙しく仕事をすると言うストレスは、疲労、腰痛、腕から肩への痛みを起こす。短時間にできるだけたくさん仕事をする意欲が生じるから、
産業労働者
仕事の満足度は心臓発作の出現頻度を低下させる。また、しごとに満足していると、精神的ストレスの治療的効果もあるという。
仕事のプレッシャーは、トップ管理者および末端労働者に対してともに有害ストレスを悪化させる。
昇進の過度や遅延、使用人の個人的諸問題への管理側の無関心、なども(産業)ストレス。またこれらのストレスは、男子のインポテンツ、女子の不妊を起こしやすい。
高級官僚・重役
管理的責任のストレッサー効果。重役の責任は心身症状を伴う激しいストレスを起こす。
彼の意思決定のストレッサー効果は、主としてその反応様式に左右されるからである。
ある人は生まれつきリーダーになるようにできているし、他の人は生まれつき従う人に適している。頭の良い人の中に、責任度が高くなると、フラストレーションが強くなり過ぎて、仕事が不満になりそうだからと、昇進を拒否する人もいる。
高い地位で適格に仕事をしている人をさらに高めて不適格に達するまで、従業員を昇進させるのが普通のやり方である。(ピーターの原則)
多くの人は、自分から昇進の誘惑に身をゆだねるわけだから、雇用者に対する管理者の責任は、これらの決定を自ら下さなくてはならないことである。
交代勤務員昼夜の変化は光線によっては、余り影響をうけない。
長時間労働は、各種の職業で事故性の心臓発作を起こしやすくなる。ただし、農場主と農業労働者はなぜか例外だという。
消化器潰瘍は交代勤務者に特に多い。夜勤は疲れやすく精神ストレスを生じやすい。
しかし、交代勤務は慣れるにつれてストレスが軽減されること、交代勤務者の一番多い不満は、「社会から締め出される」ことらしいと研究者はいう。
電話オペレーター
いつも油断せずにいるため、各種のストレスを生じる。仕事そのものではなく、労働者がその仕事に反応する様式が問題になる。
医師
心臓発作は一般開業医と麻酔医に多い。皮膚科医と病理検査医に少ない。アメリカでは、研修医がもっともストレスが激しい。困難な手術に直面した外科医もストレスが大きい。
イギリスの医師は、薬物中毒、自殺、精神性の病気に特にかかりやすい。
歯科医
複雑で痛みを伴う処置の際に、患者と医師の双方にストレス性の精神症状が起こりやすい。精神安定剤の使用が予防に役立つ。
看護師
難しい患者を良心的に看護することや、集中治療室の看護がストレスとなる。
法律家
仕事が難しいと、心臓発作が起きやすいという。学んだ法律学校の質と相関が強いと言う。
演説
ある人たちにとっては、聴衆は向けての演説が相当の苦痛の原因となり、身体症状もでる。血清コレステロールが増え、脈拍数が増し、血圧も上がり、それによって心臓血管系の病気も起きやすい。
警察業務
一番強く感じられるストレッサーは、上司からけん責されると言ったようなプロフェッショナリズムの精神を脅かす事態であった。
潜水
水中の構造物撤去作業がストレスが大きいようだ。潜水夫の中には血中コレステロールの上昇がよく現れる人がいる。水圧の増加や、この職業に特有な他のストレサーによる不安作用が冷水中で強くなるという。
軍人
戦闘ストレスの最も重大な影響は、「戦争神経症」である。この発症は、遺伝的素質、戦闘集団内の士気と人間関係を高めるための予備教育および動機づけなどに強く影響される。
胃潰瘍、胃腸障害、心臓血管病などもストレスの帰結である。指令系統の変更は、いつでも、とくにストレスを強く感じやすい。
航空管制官
多忙な時期に相当のストレスを感じる。とくに夜間飛行および飛行機の発着が混んでいるピーク時に強く起きる。胃潰瘍、高血圧、心臓発作が起きやすい。
自動車運転
精神集中とくに交通混雑中を高速運転する時、いらいら、身体の位置を同じに保つことから来る身体的不快感、長期間の運転で起きる退屈感、時間通りに目的地に到着するための気疲れなどがストレスになる。さらに、車の構造にもよるが、振動や騒音など。
気候と環境
空気と水の汚染
化学物質、微生物、騒音など。過密で汚染された区域、都会化された地域、集合キャンプや刑務所。
社会的文化的ストレッサー
これについては、遺伝因子、気候、食物、流行性の病気、過密、隔離、さらに複合して起こりやすい無数の関連因子があり、分離して考えることは難しい。
文化ストレスまたは異文化ストレスがある。人間関係のストレスに極めて敏感な指標は血漿中の脂質である。
文化ストレスの指標は、抗議的自殺、反抗性他殺、泥酔によるけんか、魔法のたぐいである。
〇社会的ストレス
腎臓病の原因に社会的ストレスが大きな有意性をもって関与している。
過密、群れ集まること
雑踏状態の典型的な症状は、副腎肥大とその機能亢進、胸腺リンパ系と性腺の萎縮、妊娠率低下、消化性潰瘍、感染しやすいこと、
〇感覚喪失と退屈
非常に楽な寝床に静かに寝かせると、ストレスから自分を守り切れない。そのような状態では、「外部からの感覚刺激と身体運動を強く欲し、被暗示性がまし、条理ある思考が阻害され、不快感と憂うつ感が生じ、極端な例では幻覚や幻想、錯乱さえ起こってくる。
生物体は働くようにできあがっているから、閉じ込められたエネルギーの流出ができないと、この「喪失ストレス」への適応は極端な努力が必要になる。
〇移住 病院や老人ホーム、また家から遠く離れた学校などでの長期生活で生ずる適応困難、
孤独
孤独がアルコール症を増やす。
孤独は攻撃性になりやすい。胃潰瘍にもなりやすい。孤独の人は、コルチコイドとアドレナリン生産の昼夜リズムが乱される。
大災害
爆撃、地震、洪水、戦争、竜巻、原発事故後など・・がストレッサーで、
不安逃避、驚愕性立ちすくみ、無感動、うつ状態、従順依存性、脅迫神経症などになる。
〇ストレスと条件づけ因子
〇ストレッサーと作用因子の条件づけ効果
食事、気温変化、火傷、音、紫外線、光線、振動、空気爆発と圧搾、重力、電気、磁力、痛みと悲しみ、認識努力、各種のバイオリズム(昼夜、季節、睡眠)、生理的状態(性、年齢、月経周期、妊娠、哺乳)、遺伝、人種、免疫、低酸素症、出血、運動競技を含む筋労作、
ストレスの症状 ハンス・セリエより
〇危険な徴候
過度のストレスを体験し続けていることを、どのようにしたら知ることができるであろうか。ある程度のストレスは行動のための調子の高揚やその維持のために必要である。
有益ストレスは、快であり、人生に希望を与えるもの、危なく限度を越える前に自己の耐性を知っておかねばならない
〇自覚症状
1. 通常の刺激感受性、過度興奮性、あるいは抑うつ性。各人の体質に依存する。
2. 心臓拍動の高鳴り、高血圧。
3. のどや口腔内のかわき。
4. 衝動的な行動、情緒不安定。
5. 抑えがたい衝動から、泣き、走り、うずくまる。
6. 集中力減退、思考回避や、通常の方向感覚の消失。
7. 非現実性感情、薄弱、あるいはめまい。
8. 疲労状態を好む、「生きる楽しみ」の喪失。
9. 「浮遊不安」、つまり心配なものが何なのか全くわからないけれど、怖がっていること。
10. 情緒的な緊張と警戒、「興奮亢進」状態の感情。
11. 身震い、神経性チック。
12. 小さな音にすぐびっくりする傾向。
13. 神経性高笑い。
14. どもりや他の言語障害。これはしばしばストレスがきっかけで起こる。
15. 歯ぎしり。
16. 不眠症。常に「興奮が高まった」状態の結果である。
17. 運動機能亢進、理由もないのに動き回る傾向をいう。じっとしていられない状態。
18. 発汗。
19. 高頻度の排尿要求。
20. 下痢、胃のむかつき、嘔吐。胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、胃腸機能異常。
21. 偏頭痛。
22. 月経前緊張状態。月経周期異常。
23. 頸部や腰背部の痛み。
24. 食欲不振や過度の食欲。結果としてのるい痩や肥満。
25. 喫煙増大。
26. トランキライザーやアンフェタミンなどの指定処方薬の使用増加。
27. アルコール中毒や麻薬の常用。
28. 悪夢。
29. 神経症的行動。
30. 精神病。
31. 事故に遭いがちなこと
愛他的利己主義の原理 セリエ
「愛他的利己主義の哲学」は、・・愛と善意と感謝のインスピレーションを介して、達成感と安心感とを創り出すことを支持する。
基本概念とガイドラインは、(三つの原則は )
1.あなた自身の自然のストレス・レベルを知ること。
日常生活の危急に合致しており、また将来の安全と幸福を保証する価値があると考える仕事の量と種類に関する、人々の判断は違う。そして、この点に関しては、われわれのすべては、遺伝的素質と社会的期待によって影響を受ける。われわれは計画的に自己分析を行ない、自分が真に望むものをはっきりさせよう。伝統に関する基本的な変化と破壊の危険性に余りにも保守的にふるまうため、自分の生活のすべてに困難を感じている人が多すぎる。
2.愛他的利己主義。
われわれの隣人の善意、尊敬、尊重、支援および親愛の利己的な蓄積は、われわれの閉じ込められたエネルギーを開放し、楽しく、美しく、さらには役に立つ物事を創りだすための一番有力な方法にとる。
3.汝の隣人の愛を受けよう。
このモットーは支配的な愛とは異なり、人間の自然な構造に合致している。さらに、それは愛他的利己主義に基づくものの、倫理的に攻撃されないですむだろう。自分に対して他人が豊かな慈悲の心をいだいてくれるために、好ましい幸福感や恒常性が確保できるなら、だれもそれを拒否はしないだろう。しかも、だれでも依存する人達を攻撃したり破滅に追いやったりはしないから、事実上、責め立てられることはない。
人間は文字どおり社会的生物であるから、あなたを取り巻く過密社会の真っただ中で、独りぼっちになってはいけない。一見信用できそうでなくても、また友人がいなくても、助けてもらえなくても、人々を信用しなさい。隣人から愛されるようになれば、独りぼっちにならずにすむだろう。
これらは、細胞ばかりでなく、人々、さらには社会全体のホメオスタシスを保ち、また生存や安全、福祉のために絶え間なく戦いを続けなくてはならないストレッサーに直面したさいに助けとなる基本メカニズムの観察から導きだされたものである。これらの原則は・・・まだ、・・・いまもなお、進行中である。
しかしながら、生活の質を改善する価値が純然たる経験的観察によって確立されているテクニックもたくさんある。