不機嫌な太陽 ―気候変動のもう一つのシナリオ― No.1
2008 スべンスマルク&コールダー
§0 この本の概説
この概説が、著者が書いたこの本のまとめです。
0章 概説
温暖期と寒冷期の繰り返し
気候変動は過去から繰り返し起こっている。過去数千年の間に温暖期と寒冷期が、交互に起こっていることから「宇宙線が気候に関与していそうだ」と考えた。最後の寒冷化の頂点の「小氷期」の後、現在の温暖期になった。この「小氷期」は「マウンダー極小期」と呼ばれる太陽の黒点が異常に少なかった時期、すなわち太陽の磁気活動が弱い時期と一致した。
地球は、太陽の磁場が宇宙線を跳ね返すことにより守られている。この磁場が弱くなった時に、宇宙線が多く地球に到達する。最後の「氷期」が1万1500年前に終わった後にも、このような小氷期(寒冷期)が9回起こっている。その時に、歴史では冷害による食糧難が起こっている。
気候変動には太陽が大きな役割を果たしている。スべンスマルクは「宇宙線が世界の雲の量に影響を及ぼすことにより、気候を直接左右している」という。
宇宙線について
宇宙線粒子は1秒間に2回ほど、我々のからだ(身体)を通過している。宇宙線は上空へ行くとずっと多くなる。
宇宙線の遮断層は、1)太陽の磁気、2)地球の磁場(地磁気)、3)空気(大気)である。これにより、宇宙線は遮られているが、宇宙線の中で最もエネルギーの高い荷電粒子ミューオンという電子は地磁気の影響を受けない。そのため地磁気が減っても、低空でのミューオンは増えず、低い雲が増加せず、寒冷化は起きない。
雲について
気候変動を起こすのは、地球の巨大な領域を覆う雲であり、特に海洋上の雲が重要である。地球の全周は約4万kmである。高い雲の一部は温暖化効果をもたらすが、海抜3000m以下の低い雲は地球を寒冷化させる。宇宙線が少ない時は低い雲は少なくなり、地球は温暖化する。20世紀の100年の間に、太陽の磁気遮断層が2倍以上強くなった。それにより宇宙線と雲が減少したことで、地球温暖化が説明できる。雲は宇宙線を介して太陽に左右されるので、太陽が気候変動の主要原因である。炭酸ガスの影響は極めて小さい。
雲の形成実験
大気中に浮遊する「極微細粒子」が存在すると、それが凝集して雲凝縮核ができ、その表面上に水の小滴を作り、水分が凝縮して雲を作る。その極微細粒子は、硫酸と水の数分子からなる小滴である。1996年その極微細粒子が急速に生成されることが発見され、2005年に実験で実証された。それは、「宇宙線が空気中に電子を放出させ、その電子が分子の凝集を促進し、極微細粒子を生成し、それが集まって大きな極微細粒子となり、それが雲を形成する。電子がこれらの仕事をする時に速い速度と高い効率でされている」。
天の川銀河内での太陽系の周回
宇宙線が、爆発した星から放出されて地球に到達し、地球の3つの遮蔽層をくぐりぬけて地球の低空の大気迄到達して雲を作り、気候に影響を及ぼしていたのである。宇宙線の変動によって、地球にいろいろな気候の変化を生じていた。
地球への宇宙線の流入量は、太陽の状態によって変化するだけでなく、太陽系が天の川銀河のどの位置にいるかによっても変化している。
太陽は地球を伴って、天の川銀河の中心の周りを周回する軌道に乗って、星の間を通過している。その時に、時々暗黒領域に入ることがある。そこは熱くて明るい爆発性の星が少なく宇宙線が少ないので、地球の気候は温暖になる。この時期を温室相と呼ぶ。
逆に、星の光が明るく宇宙線が強い時には、地球は氷室相(氷河期)に入る。
〇天の川銀河の明るい「渦状腕」を太陽が通過することにより、地球の大きな気候変動が起きることがこれで説明された。地球上に動物が生存した5億年の歴史の間に4つの腕を通過し、温室相から氷室相への切り替えが4回起こっている。
[腕(スパイラル・アーム)とは、銀河系公転運動において『恒星系および星間ガスの渋滞』によるらせん腕型の偏在部分が生じる。ウィキペディアより] (図参照)
〇それでその時にいた恐竜の一部の小さな恐竜が、体温を保持するために羽をはやして、その後、鳥に進化したという。
スターバースト
約23億年前と7億年前の2回、「全球凍結」が起こった。これは熱帯までも氷河や氷山であふれ、地球全体が凍結したのである。これは、天の川銀河が他の銀河と軽く接触することにより、天の川銀河でスターバースト(星の誕生や死が頻発したすさまじい状態)が誘発された時期と同じ時期に起こった。宇宙線が極めて多くなり、雲が地球を覆い、世界を暗くしたために、地球全体が凍結したのである。〇これに対して、その度に生物が緊急の適応をして、大きな進化をし、最後の全球凍結期に動物が出現した。
他方、地球が誕生した初期の頃は太陽も若く、光量も少なく、地球も温暖だった。太陽は宇宙線を払いのける能力が今よりはるかに強かった。〇それで38億年前のグリーンランドの岩石から、最古の生物が発見されている。生物が棲みやすい条件が創り出され、それ以来生物は、常に変化する気候に耐えて適応してきた。生物の歴史は、宇宙線の強烈な時と少ない時との間で、生物圏は拡大と縮小との間を揺れ動いていた。
近くで超新星爆発 (二足歩行の人類の登場)
最近では過去300万年前からの間に、数個の星団が超新星爆発を続いて起こし、すぐ近くにいた太陽と地球を奇襲し、宇宙線が強くなった。この大異変が、アフリカの乾燥化を引き起こし、それにより石器の製作と人間の初舞台(二足歩行の人類の登場)が誘発された可能性がある。(日経サイエンス2022年8月号の「気候が形作った人類進化」参照)
§1 雲の形成
雲はどのように形成されているのか
概説では、地球の気候変動は宇宙線によって左右されているという。それは、宇宙線によって地球の下層の雲の形成が左右され、下層の雲が増えると大地の寒冷化をもたらし、南極だけは温暖化をもたらす。下層の雲が減ると温暖化し、南極だけは寒冷化するという。 そこでまず雲はどのように形成されるかについて取り組む。本書の順を変えて説明します。(黒部)
4章(原文) 雲の形成を呼び込む原因は何か
雲は、水蒸気が冷えて凝縮した時に形成される。水蒸気は、空気中に浮遊している極微細粒子の表面上に凝縮する。最も重要な極微細粒子は、硫酸の小滴である。硫酸の小滴が形成されるメカニズムは完全には解明されていないが、輪郭が分かり、宇宙線により促進されることが分かった。
1節 霧や雲の過去の形成実験
エイトケンの雲の研究で、「空気中に漂流する極微細粒子の表面上に、水蒸気が凝縮して小滴となるので、もしも極微細粒子が存在しないなら、地球は雲や霧を作ることができない」という結論を出した。
ウィルソンの霧箱の研究
ケンブリッジの物理学者ウィルソンは、容器中の空気を急に膨張させて高い過飽和の状態にすると、水の小滴が僅かに生じることから、この凝縮を促進したのは電荷ではないかと考えてX線照射をした。X線照射は電荷の大軍を生じるからである。実験用の霧箱内にX線を照射すると、小滴の雨で満たされた。さらに、個々の粒子が霧箱内をヒューと飛ぶと、その背後に電荷の軌跡を残し、それにより小滴の飛跡が生じることを見出した。
スベンスマルクの研究
スベンスマルクはウイルソンの研究を知らなかった。しかし、地球の大気は巨大な霧箱のように作用し、宇宙線が増加するとそれに応じて、凝縮して雲となる量が増加すると考えた。
用語について 空気中に浮遊する小さな対象を、エアロゾルまたは粒子と呼ばれるが、粒子では紛らわしいし、粉塵は個体を表すもので、雲凝縮核は主に液体の微細の滴である。それで極微細粒子を用いることとした。
§2 雲の核または種(シード)になる極微細粒子の形成
固体状の極微細粒子
粉塵は、乾燥した土地、砂漠や海岸から風が吹き上げて、自然由来の固体状の極微細粒子の大部分を占める。半乾燥地帯や乾燥地帯では、農業がこの粉塵を増やす。これはアジア、アフリカでは常に起きている。同様のものに、雷や火山の噴火や自然発火による森や草原の火災による煤煙もある。人による山焼きや野焼きは先史時代から土地運用の為に行われてきた。南アジアの乾季に木材や石炭の燃焼により「褐色の煙霧」が生じ、アラビア海からベンガル湾に広がっている。
隕石のような宇宙塵、花粉症を誘発する花粉粒子、バクテリアや菌類の胞子も豊富に存在し、かなり高い高度まで上昇する。空気中で際限なく起こる化学反応は、多くの元素や化合物を巻き込み、最後は極微細粒子になる。靄(もや)は、樹木から放出された炭化水素の水蒸気が、日光によりスモッグ状物質に変換されたもので、車の排気ガス中の炭化水素から作られる都市の光化学スモッグと同じである。
火山爆発に由来する極微細粒子
火山は、鉱物灰および硫黄ガスを放出する。鉱物灰はすぐ落下するが、硫黄ガスは硫酸の微細な小滴や、他の化学物質の細片に変換される。火山爆発による硫黄の大部分は、高い成層圏に入り、そこからゆっくり降下し、世界中に拡散する。ムンクの「叫び」に描かれている赤色の夕日は、1883年にインドネシアのクラカタウ火山(ジャワ島とスマトラ島の間にある火山島)の爆発によって、遠く離れたノルウェーの大気まで汚染し、引き起こされたものである。1991年にフィリピンのピナツボ火山が爆発した後、地上からのレーザー光線で調べたら、成層圏から戻ってくる散乱光が100倍も増加していた。その後徐々に減少して1996年に正常値に戻った。この火山の爆発で成層圏中に排出された硫黄の量は、約1000万トンと言われた。
液状極微細粒子
海洋は、硫黄の生成の巨大な水性火山である。海洋は低い空気中に大量の硫黄を放出する。最初は、硫化ジメチルと呼ばれる化合物[(CH₃)₂S]で、水蒸気として海面上に浮上する。その発生源は、海水の表面を漂流している藻類からなる微細な植物プランクトンで、それを小魚などが捕食して細胞をつぶし、その内容物が微生物に分解されて、硫化ジメチルが排出される。硫化ジメチルの水蒸気は、硫黄に近い悪臭がする。多くの海鳥にとっては、硫化ジメチルの臭いは餌を意味し、朝にその臭いがする方向へ行くと、小魚などが沢山ある所にたどり着くことができる。硫化ジメチルは日光によって空気中で化学反応し、硫酸の微細な小滴に変換されて、その臭いは日中には消失してしまう。 窒素酸化物は、雷の放電の中で作られたり、土中の微生物によって放出されて、化学変化により硝酸の小滴となる。窒素は、多くの生物によりアンモニアとして放出され、アンモニアは硫酸と組みやすく、硫酸アンモニウムの極微細粒子を作る。
2節 雲凝集核の補給の必要性
極微細粒子の重要度
水蒸気やガスから作られた超微細粒子は小さ過ぎる。それで水蒸気などから作られた超微細粒子が凝集して100倍くらいになると、理想的な雲凝集核になる。 硫酸の小滴は、雲形成に最も重要である。海上では硫化ジメチルだが、陸上の硫黄の発生源は、人間活動(主に化石燃料の燃焼)により生ずる亜硫酸ガスである。硫黄の産出量は、発展途上国の経済成長により約1億トン/年に近い。それは工業地域に集中し、風下の数千km先まで拡散されるが、世界の大部分は影響を受けない。
地球の表面の半分以上は大海原で、その上空の雲は、硫化ジメチルから作られた硫酸の小滴により形成される。海洋上の硫黄の総量は、陸上の半分以下かも知れないが、雲凝集核の最大の自然発生源は海洋上にある。 その硫黄のライバルは、海の塩である。暴風雨の波により跳ね上げられた細かい水しぶきに由来する、適当な大きさの塩化ナトリウムの粒子は、雲凝集核の約10%しか供給できないが、硫酸小滴が凝集している期間には、利用しうる水を硫酸の雲凝集核と張り合って奪ってしまう程である。
氷の核
水である雲の小滴が、積雲(わた雲)の上昇気流により冷たい空気の流域に運ばれると、凍結して雪片やあられ(霰)状の粒となる。また水蒸気が高い高度に運ばれると、液体をとびこして直接氷の結晶になることもある。それが高い位置に形成される巻き雲である。どちらの場合も、多種類の極微細粒子が、氷の核となり、その表面上に水が結晶化する。 氷の基となる氷の核は、放浪している水分子を取り込んでいく。自然には粘土に由来するカオリンの微細片が氷の核になる。それは冷たい雲が氷粒子を作るのを促進し、氷の粒子になると水の小滴よりも落下しやすくなる。通常は雪片もあられの粒子も、地上に着くまでに溶解する。
雲凝集核
雲を形成する極微細粒子は、次第に消失してしまう。それは①雨、あられ、または雪により、空気から洗い落とされるか、②最も高い雷雲(積乱雲)中の上昇気流により成層圏内に吹き上げられるか、③重力により地表にゆっくり降下するかである。従って、雲を形成する極微細粒子は連続的に補給しなければならない。
高性能の検出器により数nm(ナノメートル=100万分の1mm)しかない超微細粒子の数を記録することができ、新しい雲凝集核の大群が創造されていることが判った。これを雲凝集核の爆発的生成という。 ヘルシンキ森林研究所のクルマーラらが、この雲凝集核の爆発的生成をずっと監視してきて、それによると、例えば春の日には極微細粒子の数は、夜の間に徐々に減少し、朝の10時に突然上昇しはじめ、真昼までにほぼ10倍まで上昇し、それから数時間は横ばい状態であるが、その間に成長してサイズが大きくなり、日没時から数が減少し始める。 陸上の大気の雲形成領域における1リットルの空気には、数百万個の雲凝集核が含まれている。外洋上でも1リットルに10万個存在する。このため気象学者は極微細粒子は常に大量に存在すると考えて、宇宙線が雲の形成量を変化させていることを考えない。
3節 パナマ沖の低空での超微細粒子群の大量形成
雲のシードのシード
雲を形成する今までの理論によると、雲を形成するには硫酸シードが必要であり、それには蒸気の形態をした硫酸分子が高い濃度で存在し、そして個々の硫酸分子は、必要な水分子を数個取り入れて、硫酸分子を1つずつゆっくり集めて小滴となる。 ところがある日、余りにも大量もの極微細粒子が太平洋上で見つかった。そこは人工の大気汚染と混同されないから、雲の形成から消滅までの全過程を研究するのにうってつけだった
パナマ沖での極微細粒子生成の調査
1996年のある日、NASAの研究用哨戒機オリオンはガス、水蒸気、および小さな極微細粒子を検出できる計器を取り付けて、パナマの南側の太平洋の海面上を低空飛行し、ハワイ大学のクラークたちは、空気中の硫化ジメチルの化学変化を追跡した。哨戒機が高度160m迄降下し、予想通り硫化ジメチルが大量に存在することが検出された。硫化ジメチルが、水蒸気と太陽の紫外線が関与する反応で、最初は亜硫酸ガスに、次に硫酸の蒸気に変換されることが判った。この硫酸分子の数は、凝集するには少な過ぎた。 ところが午後2時になると、大量の超微細粒子に遭遇し、2分間に1リットル当たりほぼ0から3000万個へと急上昇したが、同時に測定した硫酸分子の数は低いままだった。 この超微細粒子の爆発的発生も、地球の半分以上を占める海洋上での雲凝縮核の主な発生源が、このように短時間に生成することも説明できなかった。
新しい理論による説明(イオン・シーディング説)
空気中で帯電した分子、原子、および電子(まとめてイオンという)は、雲凝縮核を形成するためのシードとなっているというイオン関与説は、1960年代からあった。1980年代カリフォルニア大ロサンゼルス校(UCLA)の大気物理化学者レーズは、硫酸の微細小滴のイオン・シーディングが、実現可能であることを計算していた。そこで1998年に公表されたパナマ沖での発見に飛びついた。このイオン・シーディング説は、宇宙線を雲形成のメカニズムの中に持ち込むことになった。宇宙線はイオンの主な発生源であった。
飛行機雲の研究
ロサンゼルスのユウ・ファンクンとリチャード・ターコは、飛行機雲を研究した。航空機の航跡の雲凝縮核の形成は、従来の理論よりずっと速く、燃料の燃焼によって生じた荷電した原子や分子が、極微細粒子の生成と成長を助けていることが明らかである。ユウとターコは、2000年には、宇宙線によって生成されたイオンは、雲凝縮核の形成、それを基にした雲の形成を助けることができると認めた。硫酸の蒸気分子は、電荷が存在するとより低い濃度において凝集できるようになる。イオンは、イオンによって生じた初期の極微細粒子を安定化し、さらに凝集してより大きな微細片になる。パナマ沖での超微細粒子群の大量の形成が証明されたのである。
4節 CERNでのカークビーの実験計画
カークビーの構想
ジュネーブのCERN(欧州原子核研究機構)の素粒子物理学者カークビーは、スベンスマルクの発見に関心を持ち、宇宙線の増加と雲の増加の因果関係を証明しようとした。実験では、特別な箱の中に大気と雲の条件を再現し、そこにCERNのビームを当て、その影響を測定する計画を立てた。この実験にクラウド(CLOUD=雲)と名づけた。(Cosmic Leading OUtdoor Droplets―宇宙線が通った後の屋外に残された小滴―)
実施への準備
CERNの陽子シンクロトロンの実験ホール内で、シンクロトロンの装置が、所定数量に制御された高速粒子を実験用の霧箱に供給し、それを霧箱の周囲に配置した計器が、加速器から出た粒子ビームにより引き起こされた現象を監視し、この霧箱内に形成される液体の小滴は、光の散乱によりその存在が検出される。3Dカメラによる高速度撮影装置で監視した。 そして、宇宙線が雲凝縮核の形成に役割を演じていることを裏付ける結果が出た。この時期にパナマ沖でのデータが公表され、ユウとターコがそれを説明し、それを含めて、この研究チームは2000年4月に提案をまとめ、それはスベンスマルクの考えと一致していた。
CERNの方針決定の推移
CERN(欧州原子核研究機構)の内部委員会は、結論を出すことを迷った。2001年に、欧州地球物理学会、欧州物理学会、欧州科学財団らがワークショップを開き50人の専門家で、「イオン、エアロゾル、および雲の間の相互作用」を概観し、「宇宙線によるイオン化が気候に重要な役割を果たしているか」への賛成は半数で、カークビーの研究プロジェクトへは満場一致で支持されたが、別の研究に巨費を投じる決定をしたので3年間研究は凍結され、2005年に再開することができた。
5節 空気箱の地下室への設置
スベンスマルクのSKY構想
スベンスマルクはデンマーク国立宇宙センターで、ユウとターコの超微細粒子群の大量発生を説明できる理論を使ってSKY実験を始めた。SKYはデンマーク語の雲である。 宇宙線粒子の中で最も重い電子であるミューオンは、建物も人体も通り抜けて地殻中に消失していくが、その一部が地下室にある大きな実験箱に入り、中をヒューと飛び、窒素分子と酸素分子から電子をたたき出してイオンを生成する。地下での実験は、宇宙線以外の影響を避けるためである。クラウドの実験が凍結されて、SKYの実験が立てられた。
6節 瞬間に起こった極微細粒子の生成
最初の実験
デンマーク国立宇宙研究センターのSKY実験装置の中にろ過された空気と微量の亜硫酸ガスとオゾンが入れられ、紫外線が照射された。そこでパナマ沖の太平洋上で発見された自然現象と同様の超微細粒子の発生が再現された。紫外線は硫酸の急速な発生を促進し、少ない分子数で急速に集まって凝集塊になった。形成された極微細粒子群は15分以内に最大数に達した。その数は、1リットル中に2000個で、連続的に計測していたので、累計1リットル中に数千万個となり、太平洋上で計測した数に匹敵する。
ガンマ(γ)線照射した実験
次にガンマ(γ)線源を箱内に入れてイオンを増やすと、極微細粒子の大量の生成を誘発した。しかも箱内に入れた直後に大量に検出された。 そこで箱内全体を均一に照射できるガンマ線源で照射した。その結果、空気中に解放された荷電粒子の数が多いほど超微細粒子の生成数も多いことが明確になった。イオン数を増やせば、極微細粒子も増える(イオン密度の平方根に比例する)。このことは、宇宙線数が少ない時の方が、極微細粒子の生成に大きい影響を及ぼすことを意味していた。イオン・シーディングは実際に起こった。
7節 雲を作る種(シード)の種は電子である
新しい生成機構
極微細粒子からなるクラスター(群れ)は電子が中心となって生成される。1つの酸素分子に1つの電子がくっついて、その酸素分子が水分子を引き付ける強さを持つことができる。その酸素分子の周りに数個の水分子が集まって、1つの水クラスター(群れ)を作る。この水クラスターは、オゾンにより活性化され、それに亜硫酸ガスが加わると硫酸を作り出し、その硫酸を蓄積していく。 電子はクラスターの接着剤であり、消費されずに次々と移っていき、数個の硫酸分子を集めたクラスターができると、そのクラスターはどんなに小さくても安定した状態になる。そのクラスター上の電子は、別の酸素分子に移って水の分子を集め、新しいクラスターを作る。電子は消費されずに触媒として作用する。
このクラスター生成過程は非常に速く進行する。瞬時に作られた大量の分子クラスターは、紫外線を点灯することで増加した硫酸分子を取り込んで大きくなり、70個の硫酸分子を集めると約3ナノメートル(nm)になり、超微細粒子として認識されるようになる。 これが大気中で起きると、この超微細粒子は成長して、雲の凝集核になり、それがシード(種)の働きをして雲が形成される。雲のシードのシードは電子であった。それも宇宙線によって空気中に解放された電子であった。 2007年にデンマーク国立宇宙センター所長のクリステンセンは、「多くの気候科学者は、宇宙線と雲と気候のつながりは無いと考えていた。SKYの実験により、宇宙線が気候に影響を及ぼす機構が示された。これを根拠に、宇宙線と気候の繋がりを、国際的な研究課題の中に組み込むべきである。」と解説した。
まとめ 雲に関するスベンスマルクの説は、次のようになる。
気象衛星の観測により、地球を覆う雲の量が、数年間の間にリズミカルに増えたり減ったりする変化は、太陽の黒点数が減ったり増えたりする変化、つまり、正確には太陽風の影響が減ったり増えたりする変化と一致することが明らかとなった。これは太陽風の変動により、星間空間からやってきて地球に到達する宇宙線の数が、増えたり減ったりするからである。
このSKY実験により、宇宙線により解放された電子は、硫酸分子同士が凝集するのを促進する触媒的作用をすることが分かった。この硫酸分子が凝集したものが、雲凝縮核の最も重要な供給源である。星から雲、雲から気候という一連の説明は完成した。 SKYの実験は、宇宙線強度の変化が、明確に雲量変化をもたらすという低い高度での大気の状況を再現することに成功した。雲はこの世に水をもたらすが、寒冷化をもたらす能力を持っている。
(注:これは、この書の要約と解説とまとめを、多くは原文の引用ですが、一部は短くまとめたり、書き直したりしています。詳しくは原著をお読み頂きたい。図は後ほど掲載します。黒部)