南斗屋のブログ

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公営住宅の公法的性格と私法的性格

2020年07月13日 | 地方自治体と法律

公営住宅というのは、市営住宅、県営住宅のような自治体が建設・運営している住宅です。

 公営住宅の場合は、「賃貸借関係」という言葉は用いず、「使用関係」という用語を用います。民間の賃貸借とは違う側面があるからです。

 公営住宅は、「公営住宅法」という法律及び自治体の条例が法的根拠となっています。

公営住宅法1条は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を建設し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とすると規定しており、公営住宅の位置づけを示しています。

この法律によつて建設された公営住宅の使用関係については、管理に関する規定を設け、家賃の決定、家賃の変更、家賃の徴収猶予、修繕義務、入居者の募集方法、入居者資格、入居者の選考、家賃の報告、家賃の変更命令、入居者の保管義務、明渡等について規定し(第3章)、また、法の委任(25条)に基づいて制定された条例も、使用許可、使用申込、申込者の資格、使用者選考、使用手続、使用料の決定、使用料の変更、使用料の徴収、明渡等について具体的な定めをしています(3条ないし22条)
これらの規定からは、公営住宅の使用関係には、公の営造物の利用関係として公法的な一面があるといえます。

入居者を決めるには一定の制限が法令で定められています。入居者の募集は公募の方法によらなければなりませんし(法16条)、入居者は一定の条件を具備した者でなければなりません(法17条)、事業主体の長は入居者を一定の基準に従い公正な方法で選考しなければなりません(法18条)。特定の者が公営住宅に入居するためには、事業主体の長から使用許可を受けなければならない旨各条例には定められています。

このように公営住宅の使用関係には公法的規制がかかっています。
 このような流れで考えていくと、公営住宅の使用関係は民間の賃貸借とは違うのだから、賃貸借契約で適用される信頼関係破壊の法理の適用がないのではないかとの考えがでてきます。

 実際、東京高裁昭和57年6月28日判決(判例時報1046・7)はこのような考え方を採用しています。この判決の事案は、都営住宅の使用者が許可を受けずに無断増築し、割増賃料も支払わなかったことから、東京都が本件住宅の使用許可を取消し、本件住宅の明渡し等を求めたとういものです。

 しかし、最高裁は、この東京高裁の判断を退け、公営住宅の使用関係については、信頼関係の法理の適用があるとの判断を示しました(最高裁昭和59年12月13日判決・民集38・12・1411)。

 最高裁の判断は以下のとおりです。
「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。ところで、右法及び条例の規定によれば、事業主体は、公営住宅の入居者を決定するについては入居者を選択する自由を有しないものと解されるが、事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、両者の間には信頼関係を基礎とする法律関係が存するものというべきであるから、公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の明渡請求事由に該当する行為をした場合であつても、賃貸人である事業主体
との間の信頼関係を破壊するとは認め難い特段の事情があるときには、事業主体の長は、当該使用者に対し、その住宅の使用関係を取り消し、その明渡を請求することはできないものと解するのが相当である。」

最高裁は、公営住宅法の使用関係については公法的規制が及ぶところがあるが、事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては民間の賃貸借契約と変わらないと考えました。
「入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、前示のような法及び条例による規制はあつても、事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく、このことは、法が賃貸(一条、二条)、家賃(一条、二条、一二条、一三条、一四条)等私法上の賃貸借関係に通常用いられる用語を使用して公営住宅の使用関係を律していることからも明らかであるといわなければならない。」

 使用関係が設定される前は公法的規制、使用関係が設定された後は私法的規律(賃貸借関係)ということになり、同じ法律(公営住宅法)に基づくものであっても、場面によって公法的規制を及ぼすか私法的な規律となるのかを変えていくというのが、最高裁の結論です。


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