「吠える犬、噛む犬」シリーズ最終回
一時預かりの保護犬モス君を迎え、我家は3頭飼育になった。
その頃から、他犬に対して今まで吠えなかったボブやジェッシーが、散歩時に出会う犬に対して吠えるようになってきた。彼らは環境の変化や多頭になった事、慣れてテリトリー意識も強くなるなど、今までと異なる行動を見せ始めた。
そしてモス君が里子として幸せを掴んだ後、しばらくしてCACIから新たにバレンシアがやってきた。我家にとっては久しぶりの女の子。しかもこの犬種は今まで接触してきた犬達と大きな違いがあった。それは人に対してとびっきりの甘え上手。それがまたとても愛らしい。人間の男どもと同じく、ボブとジェッシーも女の子には興味津津。バレンシアをとても友好的に迎えてくれた。が、バレンシアはかなりのオテンバ娘。ボブにぶつかり稽古を強いて、体当たりや噛みつき攻撃の嵐であった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/c3/3b37252b9a00bb14935f8024928cb4e7.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/f6/8f9631f142e389c67da06f7ab283d953.jpg)
しかしこの噛みつきは犬同士のコミュニケーション遊びであるため問題無しと見た。ボブもそこそこに楽しんでいる様子。この遊びで犬が怪我をしたということも無い。家族に対して噛みつくという事も無かった。度が過ぎない程度にと注視しながら、リビングで騒いではいけないことも教え始めた。しかしスイッチが入ると思うようにならない。人間にとっても毎日が多頭飼育におけるトレーニングとなった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/24/eccef870ae9a5203fe5ebedad15c0430.jpg)
我家に来て2カ月程が経過、バレンシアが避妊手術を受けることになった。
時期的にも、家族や環境に慣れた頃に手術を行う、と考えていた。知らない家に来て、突然痛い思いをするよりもと配慮したつもりである。避妊手術は他の手術に比べると、そう難しい手術では無いように思う。もちろん麻酔も行う。しかし子宮や卵巣を全部摘出するのだ。人間だって、子宮と卵巣を全摘した場合、入院日数も長く、本人の苦痛はとても大きい。手術後の抜糸までの回復期はある程度の安静も必要であろう。
この頃にはトイレの時間的な習慣もついていたため、術後安静期間中のケアはしやすかった。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/74/8bcc2f97a26b33c7729109927a197b99.jpg)
手術後、心配して見舞いにやってきたボブに吠えるバレンシア
バレンシアの安静期間中は可能な限り側にいて、嫌がらない程度に身体に触れたり、話しかけ続けたりした。言葉は通じなくても、このコミュニケーションが彼女の信頼を得るツールの一つのような気もした。
そしてこの頃まではバレンシアが人に吠える事は無かった。
ところがある日から突然、自転車やトラック、オートバイに対して吠えるようになった。私と息子以外の家族にも吠えるようになり、5歳児の子が背中を向けたとたんに吠えながらお尻に噛みついたり、朝、二階から下りてくる家族に吠えたてるようになった。
何か理由があるはずだと思ったが、これという思い当たる事も見つからなかった。我家に慣れ、遠慮しなくなったということなのだろうか。
しかしよく観察してみると、子供が音の出るおもちゃを持って振り回していた時だったり、突然バタバタと音を立ててリビングを走りだしたときだったり。それは攻撃的な噛みつきではなく、臆病な性格ならではの防御の行動であったように思う。噛む程度も怪我をするほどではない。とはいえ、噛みつかれた子供にしてみればたまらない。
バレンシアに対してはその場で叱り、子供には臆病な犬が驚くような行動を取らないことを教えた。子供たちは順応が早く、そして何より犬好き。少し痛い思いをして泣いても、犬達と再びすぐに遊び出す。バレンシアも何事も無かったかのように、子供に対して甘えていく。子供なりに犬達との接し方を配慮しながら日々を過ごしていくようになった。
家族の帰宅時や二階から誰かが降りてきたときにも、もの凄い勢いで吠えるバレンシア。しかしよく見ると、尾を振っている。というよりも、ぐるぐると360度回転させている。
これは威嚇の吠えではなく、嬉しいのだ。これらのことから、何かでスイッチが入ると、吠えることで気持ちを表現する癖がついてしまっているように感じる。それも臆病な性格ゆえの行動であることを家族に伝えた。
バレンシアは未だに、何かあると家族に吠える状態が続いている。御主人サマは「いったいいつになったら私に吠えなくなるのか」と尋ねてくるが、何かを表現する手段で吠える犬であるため、答えは出ないと伝えた。時間と愛情が解決するとも伝えた。
とはいえ、うるさい犬だと言われながらも、バレンシアは既に家族皆の大切な一員となっている。彼女もまた既に愛おしい宝物。
バレンシアが吠えるようになったことで、ジェッシーもますます吠えの対象が広がり、散歩時には一番の吠え名人となった。犬同士で影響され、真似をすることも判った。ワンズは様々な状況で行動も変化していく。毎日がワンズとの勉強の日々。だけど彼らから得るものは大きく、犬無しの生活は既に考えられない我家となっている。
このシリーズでお伝えしたかったこと。
それは「噛む」「吠える」という行動に対して、人を大けがさせるような噛みつきや、家族に対しての日常的な威嚇吠えが続くというのであれば、専門家に相談する必要が生じるであろう。
しかし一般的には我家のように、迎えた犬の問題行動に対して、家族で試行錯誤しながら解決に向けて共に努力していく。それは”ノーマル”な事であると思う。大切なのは、コミュニケーションを取りながら、常に”なぜか”を考えてあげること。時間を急がないことだと感じている。
それでも問題行動で悩んでいらっしゃる方は、トレーナーさんに相談したり、訓練所に預けるという方法もある。
過去の経験から、犬はその習性により、何かしら人間にとって不都合な問題事が起きて当然であると思うし、一緒に解決していく姿勢を持って迎えれば、飼育放棄するなどの問題も起きないのではと思う。気づけば、いつの間にか深い信頼関係が構築されているであろう。もちろん、犬を道具同然に扱い、不要になったからと捨ててしまうような飼主は例外である。
バレンシアを保護して下さったCACIでは、放棄された猟犬類が一般家庭でも迎えてもらえるよう、ボランティアさんたちが努力しながらのケアが続いている。
もし、これから犬を迎えようとする方がいらしたら、一頭でも多くの命を救うために奮闘しているCACIのような保護ボランティア団体及び個人で保護活動され里親募集をしてるところから、保護犬を家族として温かく迎えてくださる事を心から願わずにはいられない。問題行動などで困ったときには、保護元から良きアドバイスを得ることも可能である。
尊い限りある命のために。