2015年5月31日
この日は生涯で忘れられない日になった。
あの日からもう気が付けば10日以上も過ぎていた。
無理もない。この歳にして経験のない事に直面し、
何だかんだとあったのだから。
あまり詳細を書くと僕が誰だか特定されてしまうので書かない(笑)
いや、特定されても何ら恥じるような生き方はしていないけど、
これまでの備忘録を「僕」が誰なのかを知られながら読まれると
こっぱずかしくて困る。だから詳細は省く。
念願の一つが叶った日。それが5月31日。
前日の絶不調と大敗北がウソみたいに感じるが、翌日に優勝した。
出来過ぎた感じがするくらいだ。
これまでのある種孤独な道のり、様々な私生活での葛藤・辛酸、
過酷なトレーニング、期待されながらも惜敗を繰り返した日々、
今季こそはと作り上げた身体は過去に例を見ない怪我と病気を発症。
それでも支えてくれた人の想いに報いたくて、
そして、己の人生に悔いを残したくないという意地で以て今回の連戦に臨んだ。
本当は、30日に敗北を喫した時、完膚なきまで叩き伏せられていた。
怪我の影響がこれほどまでとは思っても見なかった。
嫁さんが撮った動画を見ると、まるで老人のような硬いスイングだった。
痛がっている、怖がっている、そんな自分が手に取るように分かるスイングだった。
更に5球目、これまでずっと共に戦って来たエースドライバーが折れた。
矢尽き、刀折れるとは正にこの事だと思った。愕然とした。
「俺は終わってしまった」と心底思った。
その日の夜は一睡もしなかった。
出来なかったのではなく、いや出来なかったのもあるけど、
瞼を閉じてしまうほど安らかな気分になんてなれなかったから。
きっと血走った目をしながら、
一人で薄暗いリビングの中央に座って微動だに出来なかった。
ただただ、自分でも自分が恐ろしくなるくらいに悔しくて、腹が立って。
31日の朝日が昇ると同時に、最も信頼する仲間から無理矢理なメールが届いた。
「お前の住所を言え、ナビにぶち込んで迎えにいく」
あまりに強引過ぎて、ちょっと惚れそうになった(笑)
朝一でクラフトに折れたエースを持って行こうにも
タイミング悪くショップは臨時休暇だった。
エースもない、身体も動かない、心も折れた。
こんな状態で何をどうしろと言うのかと思った。
だけど、仲間は言った。
「お前はドライバーを選ぶようなタイプじゃない」
「何でもいい、一本でも振れる道具があるならそれで試合に出ろ」
急遽、練習に使っていたものの攻撃力ではエースに劣るドライバーを出す。
朝駆けで近くの練習場に行き、間に合わせとも思える調整を行った。
今までの経験から、これは完全に負けパターンだ。
前日・当日は僕は練習しちゃいけない。
却って何も考えず、二日間身体を休めた方が良い。
やってしまった、と心の中で溜息つきながら、
それでも「いける!やれる!勝てるぞお前!!」と息巻いてる仲間の力を借りて
んなバカな、と会場まで車を飛ばした。
到着するも、両足は未だ嘗てないくらい痺れてる。
まともに歩けやしないのに、揃いも揃ったり強豪たち。
勝てるかこんなもん。
だけど
もうこんな思いをするのは二度と御免蒙りたいと思う自分がいた。
怪我を庇いながら、痛みに耐えながら、おっかなびっくり試合をして、
勝てるかどうかという葛藤を噛み締めて、そして結局力を発揮し切れずに敗けて、
また俺は車の中で歯軋りしながら帰るのか。
悔しすぎて涙も出ない夜を過ごすのか。
もうそんなモン、
蹴っ飛ばして殴り倒して薙ぎ払って上から唾棄して、
「二度と嫌じゃ!ボケ!」と吐き捨ててやりたいくらい、
嫌だ、イヤだ、いやだ!! い や だ!!!!!!!
腹、決まった。
本当にこれでケリを付けよう。
ダメならダメでそん時考えればいいや、俺、アホだもん。
ただし、もう踵に後退りする道幅はないぞ、と。
幸い、ペーパードライバーだけど嫁さんも同行してるし
帰りの心配も、まぁ別の意味で心配だけど、なんとかはなる。
ぶっ壊れるまで振ってやる。
その結果、4月25日のスイングを僕は超えた。
あの時、最高だと感じた更にその上を試合で会得出来た。
それは、僕の才能でもセンスでも努力だけでも成し得なかった事。
いつも支えてくれた人、僕にスイングの本質を教えてくれた人、
ずっと僕の背中を信じてくれた友、苦難を与えてくれた馬鹿野郎共、
それら全ての人間の中で、自分が覚悟を決めたからこそ成し得た事だ。
そして何より最大の起爆剤となったのは、30日の深夜と31日の早朝。
僕のドラコンの師匠、その日の優勝を持っていったあの人がくれた言葉。
「30日、敗北を喫したとは言えど、それでもお前は立派な記録を残した意味を考えろ」
「いつもの練習を思い出せ、たった一つだけ、脱力を忘れるな!」
「強い選手が何故強いか、教えてやる」
「強ければ強いほど、いつも通りの事をやってのける、それゆえ“強い”!」
あの言葉がなければ僕は、グリッドに立っていられなかったかも知れない。
強者になりたい、強者として強者を打ち倒したい、
昨日までの、今の己をも叩き伏せたい。
それが本懐、それが望みだった筈だ。
ならばその「強さ」とは?という問いに、
やはり超一流選手は、簡単に答えてきやがる。
有難い。同時に超えたい。アンタを超えてもっと上に行きたい。
その思いに火が付いて、きっと僕は目が覚めた。
だから、予選と決勝合わせて12球、全弾フルスイング出来たのだろう。
迷いなど一切なかった。
心は驚くほどに静かで、足の震えも痺れも止まり、
穏やかで、笑みまで浮かべそうな心持ちで、
失敗への不安も敗北への恐怖も、何もなかった。
こんな試合、初めてだ。
…
今回の結果を得て、僕は自分で自分に宣言した「権利」を得る事が出来た。
夢にまで見た、という言葉通り
何度も何度も夢に見てきた舞台への出場権利。
この切符を手にする事が出来なければ、
僕の夢は絶対に叶わないものなのだから。
そしてその舞台には
これまでの熾烈な戦いを見事に勝ち上がってきた、
モンスター、猛者、天才、怪物、化け物と称される
様々な選手たちが犇めき合うのだ。
身震いする。
今の僕の力がどこまで通用するのか、
或いはてんで歯が立たないのか、
どうであれ、今すぐにでも戦いたくって仕方がない。
血が騒ぐ、滾る、煮えるような思い。
あと二か月
僕は僕を磨く事に専念する。
全てはこの日の為にやってきた。
祝福も、敢えての叱責も、妬み嫉みも、陰口だって
全部飲み込ませて頂きます!!!
行くぜ、最高の舞台。
乾坤一擲!!!
っしゃぁああああ!!