今日は曇り。
青空が恋しくなり、2週間程前に写した青空をデジカメから探し出した。
娘が言う。
「日本より空が青い」と。
友人とも話す。
「空の青さが違う」と。
空と言えば
智恵子は東京に空が無いといふ、
本棚から、ホコリをかぶった本を引っ張り出した。
「高村光太郎詩集」 伊藤信吉編
新潮文庫・昭和25年11月20日 発行
昭和43年2月20日33刷改版
昭和50年1月10日44刷
購入したのは昭和50年9月30日
(このころ、私は買った日を本に書き込んでいた。)
昭和50年、1975年…
私は何歳だったかはおいといて。
うろ覚えの詩を改めて読んだ。
智恵子抄 高村光太郎
「あどけない話」
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山(あたたらやま)の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。
(昭和3年5月)
「人に」
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
花よりさきに実のなるやうな
種子(たね)よりさきに芽の出るやうな
夏から春のすぐ来るやうな
そんな理窟に合はない不自然を
どうかしないでゐて下さい
型のやうな旦那さまと
まるい字をかくそのあなたと
かう考へてさへなぜか私は泣かれます
小鳥のやうに臆病で
大風のやうにわがままな
あなたがお嫁にゆくなんて
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
なぜさうたやすく
さあ何といひませう――まあ言はば
その身を売る気になれるんでせう
あなたはその身を売るんです
一人の世界から
万人の世界へ
そして男に負けて
無意味に負けて
ああ何といふ醜悪事でせう
まるでさう
チシアンの画いた絵が
鶴巻町へ買物に出るのです
私は淋しい かなしい
何といふ気はないけれど
ちやうどあなたの下すつた
あのグロキシニヤの
大きな花の腐つてゆくのを見る様な
私を棄てて腐つてゆくのを見る様な
空を旅してゆく鳥の
ゆくへをぢつとみてゐる様な
浪の砕けるあの悲しい自棄のこころ
はかない 淋しい 焼けつく様な
――それでも恋とはちがひます
サンタマリア
ちがひます ちがひます
何がどうとはもとより知らねど
いやなんです
あなたのいつてしまふのが――
おまけにお嫁にゆくなんて
よその男のこころのままになるなんて
(明治45年7月)
「レモン哀歌」
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
わたしの手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
トパアズいろの香気が立つ
その数滴の天のものなるレモンの汁は
ぱつとあなたの意識を正常にした
あなたの青く澄んだ眼がかすかに笑ふ
わたしの手を握るあなたの力の健康さよ
あなたの咽喉(のど)に嵐はあるが
かういふ命の瀬戸ぎはに
智恵子はもとの智恵子となり
生涯の愛を一瞬にかたむけた
それからひと時
昔山巓(さんてん)でしたやうな深呼吸を一つして
あなたの機関はそれなり止まつた
写真の前に挿した桜の花かげに
すずしく光るレモンを今日も置かう
(昭和14年2月)
10代の私はこの詩を読みどう思ったのだろう?
もう1冊、引っ張り出した本
「小説 智恵子抄」 佐藤 春夫
角川文庫・昭和37年2月20日 初版発行
昭和43年1月30日 19刷発行
昭和57年1月30日 改版26版発行
購入日 57.9.25
今夜読むことにしよう。
さて、ミルキーの今の気分は
<寝かせてちょ~だ~い>
なんか毎回そんな顔やね~