ハイカーズ・ブログ(徘徊者備録)

「あなたの趣味はなんですか?」
「はい、散歩です」

「こうなる前からですか?」
「いいえ」

小説・万年五段の妻

2007-12-29 09:36:12 | 武道関連
「おい、年末22日23日ちょっと東京へ行ってくるで」
「何寝惚けた事ゆうてんねん、クソ忙しい時に」
「居合や、イアイ」
「あんた、七月にすかたんしてからしょぼくれて、あれだけ毎日やってた素振りも全然せんようになってからに、もうやめたんかとおもうてましたがな」
「あほぬかせ、居合はわしのライフワークや、男のロマンやがな、道を求めてんや」
「道なんて求めんでええから、もうちょっとましな職もとめてーな。マロンは喰えるがロマンでは喰うていけんで、生活費ちゃんと入れてや」
「いれてんがなー」
「しかし、七月は落ち込んではりましたな。趣味とゆうんは、気分を晴らして生活を楽しゅうするもんと違いますのんか、趣味で気鬱になってどうしますねん。そんなもんやめなはれ」
「趣味やあらへん、修業や修業、人間形成の道やがな。そんなこというさかい、お前は大阪イアイ道界一の悪妻やと評判なんや」
「だれがそんなことゆうてまんねん」
「この世界はな、ふつうなら遠慮して言わんことも、率直に忠告してくれるサムライの繋がりなんや」
「あんた、自分の女房が侮辱されてよう黙ってましたな、一発ぐらいどづいてくれましたんか」
「そやな、本間のサムライやったら前後考えず、その場で斬りつけてな武士道にもとるな。せやけどお前の知っての通りわしアカンタレやろ」
「まあええわ、よしわかった。ほんなら皆でいっしょにいきまひょ」
「観光ちゃうで」
「なにゆうてまんねん、この前みたいにまた失敗して、帰りに電車にでも飛び込まれたらかないまへんがな。賑やかに娘も孫も連れて行きましょ」

「結果は別にして、今日はようできてましたな」
「お前にわかるんか」
「わかりますがな、地方の大会のたびに旅行つれてったるとだまされて、体育施設めぐりをさせてもらいましたよって、目だけは六段やな」
「それでどやねん」
「素人を感動させたらほんまもん、気がでてました」
「お前に気がわかるんか」
「わかりますがな、伊達に太極拳やってまへん」
「へー」
「ま、これからもわてや家族をほったらかして、好きなことしたらよろしい。たまに賞をもろうて、子どものように喜ぶ顔を見せてくれたら、わてもうれしいわ」
「お前も、わしと同じでようおべんちゃらせんけど、ええ女房や、あげまんや」
「へー、おおきに」


つづく