くらし下流化ニッポンの処方箋
「非正規率47%」どうする母子123万世帯の未来
藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事
毎日新聞経済プレミア 2017年7月19日
再び、女性の貧困(3)
日本でシングルマザーの貧困率が高い背景には、育児の制約から長時間労働を伴う正社員の仕事に就きにくく、賃金水準が低いパート・アルバイトなどの非正規雇用への就業が多いこと▽出産に伴って退職した後の職歴空白が、離婚・死別後の再就職を難しくしていること--などの理由があります。
子供がいて就労収入は1カ月約15万円
厚生労働省が5年に1度実施している「全国ひとり親世帯等調査」(旧名は全国母子世帯等調査)の最新2011年版によると、全国の母子世帯数は推計で123万8000世帯。このうち仕事に就いている母親は80.6%で、就業形態は正社員39.4%▽パート・アルバイト47.4%▽派遣社員4.7%--でした。
厚労省の2011年全国母子世帯等調査から
前回調査時(06年)と比べて正社員は3.1ポイント減り、パート・アルバイトは3.8ポイント増えています。年間世帯総収入は約291万円、母親自身の就労収入(仕事で得た収入)はわずか181万円、1カ月あたり15万円です。母子3人世帯なら生活保護基準すれすれです。
離婚後、男性が養育費を払っていないケースも数多くあり、母子世帯の家計を苦しくしています。日本社会では男性の方が経済的に圧倒的に有利なので、月数千円でも数万円でも、母子世帯への養育費支払いを義務化すべきです。私たちも弁護士を間に立てて、養育費支払いを求めることがあります。
このように、生活保護を受給してもおかしくないのに申請せず、低い賃金の仕事を掛け持ちまでしてやりくりしている母子世帯が少なくありません。生活保護申請の壁が高く、本人の生活保護制度への忌避感も強いからです。
私たちは、一時的に生活保護を活用して生活再建を図ることにまったく問題はないと考えています。「精いっぱいやってきたんだから、ここで生活保護を使っていろいろ仕切り直しましょう」と説得するのですが、そこで母親が生活保護申請を怖がる理由が二つあります。
生活保護をためらわせる行政と、忌避する母親
一つは、「生活保護受給がばれたら子供がいじめられるのでは?」という心配です。小田原のジャンパー事件では、生活保護関連部署の職員が、威圧的な文字を印刷したジャンパーを着て、受給者の自宅を訪問していました。示威的な訪問で近所に受給がばれるかも、という恐怖は、申請をためらわせる大きな理由です。
二つ目は、就労指導の名を借りた「余計なひと言」です。本人が一生懸命がんばってきて、限界を感じ、申請しているのに、窓口職員が「いや、それじゃダメでしょ。働きなさい」とか、「収入を上げる道は本当にそれしかなかったの?」と気軽に聞いてしまうパターンです。スキルが低い役所職員が心折れる言葉を発し、本人を傷つけるのです。
別居はしているものの、離婚が成立していない女性に必要以上に厳しい福祉事務所もあります。
DV(家庭内暴力)から夜逃げ同然で逃れ、強く離婚を望んでいるのに、新生活のため生活保護を申請しても「夫に扶養してもらえないの?」と無神経に聞く職員がいます。役所は離婚しないかぎり、同一世帯の親族間扶養義務を持ち出します。
さらに、不正受給対策名目で、男性が家庭に出入りしている形跡があると、その男性に保護してもらうことを勧めたりします。こうして働くこともままならず、生活保護にも頼れず、精神的に病む人が生まれます。
仕事と暮らしを継続するために、きちんと生活保護を活用しないと、結果的に社会保障に頼る人を増やします。
「貧困か生活保護か」の二者択一ではない世界を
困窮する母子世帯を社会保障が救い切れない現実がある一方で、近年は民間による地域共助の動きが少しずつ広がっています。各地に広がる子ども食堂や無料の学習支援塾です。
2015年に困窮者自立支援制度が始まって以降、母子世帯とその子供への支援が広がり、母親にとっては相談先が増えました。それまでは、役所に相談するか、自分1人で悩むかどちらかしかありませんでした。インフォーマルな支援ですが、このような取り組みにかすかな希望を感じています。母子世帯は低い収入でカラカラに渇いていますから、こうしたサービスなどの現物支給は必要です。
シングルマザーを対象にしたシェアハウスも各地にできています。
神奈川県には、ビル3階の住居フロアを活用したシェアハウスがあります。6畳の居室8部屋と約30畳の居間兼食堂、風呂、トイレ、台所、ルーフバルコニーを設けた、母子世帯専用のシェアハウスです。入居の際には面接があります。
母親同士で保育園のお迎えや家事を助け合い、時にチャイルドケアワーカーに手伝ってもらって仕事と育児の両立を目指します。母親に肉体的、精神的余裕が生まれ、資格取得のための勉強時間も確保できるなどの効果があったそうです。
大切なのは、このような取り組みが民間やNPO任せだけではいけない、という考え方でしょう。民間がアイデアを示し、そこに自治体のお金が流れる仕組みが必要です。貧困か生活保護かの二者択一的世界でなく、それぞれのニーズに合わせた民間の知恵と、公的制度による共助の仕組みが、さらに広がってほしいと思います。
藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が好評発売中です。ニッポンの貧困化、格差拡大の現状を細かな事例とデータで検証しています。
今日も25℃に届かず。昨日に比べるといい方。夕方になると足元からヒンヤリとした空気。
ミニトマト1段目。
幻のトマトと言われているルネッサンストマト。
コールラビ。
ズッキーニ。なりだしたらどんどん大きくなる。