Imidas連載コラム 2025/02/28
子どもたちを守るはずの施設で何が?
2024年9月、新宿区歌舞伎町の「トー横」(新宿東宝ビル横)に集まる子どもたちを支援する名目で東京都が開設した「きみまも」という施設内で、利用者の少女に対し下半身を触るなどのわいせつ行為をしたとして20代の男2人が逮捕された。男の一人は「時間つぶしで施設に行ってふざけあっていただけ」などと供述し、もう一人は容疑を認めていたと報じられたが、のちに不起訴となった。不起訴になった理由は明かされていない。
この施設は24年5月に開設され、専門の相談員を配置しており、名前や住所を明かさなくても気軽に利用できるフリースペースになっていた。相談員がいる施設で子どもたちが過ごせて「悪意ある大人」から距離をとれると期待されたが、不特定多数の大人が出入りして脱法行為が行われていた疑いが通報で発覚。防犯カメラの映像などから、利用者に「売春」を促すようなケースが確認されているとも報じられた。
この事件について都は「多い時は50人以上が利用しており、相談員の位置から見えなかった」などと弁明したが、50人の利用者がいたから気づけないなんてこと、現場で支援活動をしている者の経験や感覚としてはあり得ない。意図的に見ないようにしていたか、関与しようとしていなかったとしか思えない。
逮捕された一人は、遡ること5月に「トー横」で暴力団組員の男と共にトラブルを起こし現行犯逮捕された人物で、地元をよく知っていれば彼らがどんなつながりをもち、歌舞伎町で何をしているのかわかる相手だ。なぜ、そういう人たちが入り込めたのか。
あたかも女衒(ぜげん)の休憩所となり
「きみまも」に関しては、私たちは24年1月のプレオープン時から警戒していた。開設当時、大々的にメディアで報じられ「支援者による相談もOK」とあったため、私もすぐに現地を訪れた。まず入り口で驚いたのが、女性の相談員から「お名前をこちらに書いてください。ニックネームでも大丈夫です」と言われたことだ。私は40代の男性と2人連れで、さすがに青少年には見えなかったはずだが、何も言わず名前を書いていたら利用者として入れてしまうところだった。気まずさを感じつつ「歌舞伎町を拠点に支援活動をしている者で、見学させてほしい」と申し出ると快く案内してくれた。
そこでさらにショックを受けたのは、普段から「トー横」に集まる少女たちを狙って声をかけ、「売春」を斡旋することで生活している男たちが入場していたことだ。中にいたのは10人ほどだが、全員男性だった。未成年と思われるのは1人か2人で、あとは成人。それも25歳以上と思われる男性がほとんどで、とても少女たちが利用できる雰囲気ではない。
6人ほどの男性はテーブルを囲み、スマホを充電しながらゲームをしていて、椅子やソファに寝転ぶ男性たちもいた。奥にはパーテーションで仕切られたスペースがあり、相談室として案内されたが、そこにも男性が寝ていた。少女を人身売買にかけることで生活している男たちに丸聞こえな空間で、相談などできるはずないだろう。
案内してくれた人に女性の利用者について聞くと、「ほぼなくって……私たちも思っていたのと違うんです」と残念そうに言った。都は専門の相談員を配置していると宣伝していたが、この日いた3人の相談員はColabo(コラボ)の活動も知らず、同行した40代男性を青少年と勘違いしてしまう有様で、「トー横」に関わる人物や少女を性搾取する構造も理解していないようだった。だから施設にいる男性らが誰なのかも分からなかったのだろう。
私は「きみまも」が少女を性搾取する男たちの「休憩所」になっていることに強い危機感をおぼえ、すぐに与野党の都議やメディアにも視察や取材をするよう伝えたが、議員はSNSで「視察に行ってきました!」と成果をアピールし、メディアもその実態を報じることなく都の広報のような報道ばかりが続いた。
「きみまも」が開いている時間、「トー横」に来た少女を「売春」に送り出した男たちは施設内で暖かく過ごし、21時に閉館すると少女が体を売って確保した宿に向かう――。そうした状況が放置されたまま、5月の正式オープン後も性売買業者とつながる男たちや少女を搾取している男たちが出入りし続けていた。さらに、ここに来れば家出した若い女の子たちと話せるからと、「トー横」に縁がなかった成人男性たちもゲームをしに日参するようになった。
事件を認識しながらも施設利用を呼びかけ
24年9月、施設内での性加害が報じられる1週間前に、「きみまも」の実績をアピールする記事が大手メディアに複数掲載された。都は事件を認識しながらも、明るみに出る前に世間に実績を印象づけようとしたのだろう。
例えば「東京都開設の『トー横』相談窓口 2か月で延べ1600人近くが利用 最年少は男女ともに12歳 想定超える利用者数で、相談員の増員も検討」(24年8月29日)というTBSのニュースでは、「当初の想定を超える人数が相談窓口を利用していることから、都は相談員を増員することも検討している」「都の担当者は、『相談窓口には専門の知見を持ったスタッフがいるので、安心して訪れてほしい』と呼びかけている」と報じられた。
「最年少12歳」というのが複数のメディアで見出しとなり、衝撃を受けた人も多いのではないかと思うが、歌舞伎町で活動していれば当たり前のことだ。12歳の少女が虐待から逃れるために来て性搾取の被害に遭う、それが日常であり問題なのだから。少なくとも10年前からそうした状況をColaboは発信していたし、だからこそ支援活動をしてきた。
また、どの報道にも「利用者数が2か月で延べ1600人近く」とあったが、詳細な内訳までは報じられなかった。実際には10代の少女の利用者が少ないことや、毎日利用する男性が多いことから、都は多くを明かしたくなかったのではと勘繰ってしまう。
支援は質こそが大事であるから、利用者数はさして問題ではないが、Colaboが都の委託を受けて新宿区役所前でバスカフェの活動をしていた際、10代の少女だけで1晩(4時間)40人は普通に利用していた。さらに私たちはその場での関わりで終わるのではなく、数年〜十数年の単位で一人一人と継続的に関わり、行政や病院等への同行、シェルターでの一時保護、中長期的な住まいの提供、生活支援や修学・就労支援等あらゆる支援を行っている。
対して「きみまも」の利用者数は2か月間で延べ1600人で、1日あたり35人ほどが利用した計算になるが、開設時間もバスカフェより長く、成人や男性も含めてこの数である。ものすごく利用者が多いかのように印象操作されているが、居場所がなく街をさまよう少女たちの数に比べると、決して多いとは言えないことが青少年支援に関わっていれば容易に想像できる。
性暴力事件は「避けられない」と開き直る
24年8月、東京都知事は新宿区長と一緒に「トー横」を視察し、都のSNS広報で「行き場のない人が悪意のある大人に騙されないような警告を出す体制が整ってきた。どうしたらいいかわからない子どもたちや女性、若者に、居場所を提供し相談に乗ってあげることが効果に繋がれば」といった内容のコメントを流した。
9月に性暴力事件が明るみに出ると、区長は「困難な課題を抱えている若年層の受け皿での事件は避けられないことだと考えています」「屋外で起きていれば泣き寝入りになった可能性もあります」「純粋に少年少女の立直りを考えているなら居場所事業を攻撃するのは間違っています」とSNSに投稿した。
区長は「事件は避けられない」と堂々と言い放つが、そのようなことが起きないようにするのが支援者の責任ではないか。そうした被害から子どもたちを守る名目で始めたのではなかったのか。あまりにもひどい言い分だ。入り口に「もし施設内で性被害に遭っても、それは避けられないことです」と注意書きをするべきだ。しかも当の区長は、かつてColaboが行ってきた支援への妨害、デマ拡散に乗じてバスカフェと少女たちを追い出しておきながら「居場所事業への攻撃は間違い」とは、どの口がいうのかと思った。
さらには施設があったことで事件が発覚したようにも語っていたが、この事件は施設の体制や利用者への無理解、専門性の欠如などが招いた性暴力事件である。まずは被害者にお詫びし、利用者のケアを徹底し、実態調査と再発防止を都に求めるべき立場にあるのではないか。そして「純粋に少年少女の立直りを考えているなら」というのも気持ち悪い。自分たちは善とか、純粋に青少年支援を考えているとかと言うが、少女たちの人権を尊重し、歌舞伎町を中心とする少女性搾取の構造を変えようという姿勢が全く感じられない。
虐待などを背景に家に帰れなかったり、傷ついている子どもたちを支えたりするには、場所をただ開放すればいいわけではない。これでは「トー横に屋根を付けただけ」なのだ。SNSで「きみまも」を「公営トー横」と表現する人もいて、その通りだなと思った。
本末転倒な東京都の改善策
事件後、都は「きみまも」について一度に利用できる人数を20人ほどに絞ったほか、身分証の提示を求めたり、相談員の他に警察OBを配置したりなど管理体制を見直したと報じられた。しかし実は、事件が明るみに出る少し前には、ホームページ上で利用を登録制にすると発表していた。それによると利用登録には本人が確認できるものや連絡先(携帯電話番号、住所など)の提出が必要とあり、都はそうすることで再発防止ができると説明しようと考えたのだろうが、これでは本末転倒だ。
なぜなら開設当初に匿名利用可としたのは、公的支援に拒否感をおぼえる青少年とつながるためだったからだ。家に帰れず性搾取の被害に遭っている少女たちは、そもそも身分証を持っていないことが多いし、個人情報を知られることに強い警戒心を持っている子がほとんどである。そうした状況を行政もようやく理解したからこそ「名前や住所を明かさなくても気軽に利用できる」とし、Colaboのバスカフェのようにスマホの充電ができたり、軽食が食べられたりする休憩場所を開設したはずではなかったか。
警察に補導されることを恐れて、人目につかないところを転々として生き延びている子どもたちが、警察OBが配置された監視カメラ付きの施設に行くわけがない。それでも利用したい人はいるかもしれないから、やればいいと思う。しかし、これでは決して虐待や性搾取の中にいる少女の支援にはならないことを、理解する必要があるだろう。
怪しい男たちによる「支援団体」が急増
若年女性支援事業は、Colaboのような女性主体の民間支援団体が活動を通して実態を示し、必要性を訴え続けたことで制度化された。22年には日本で初めて――世界的に見ると遅すぎるが、女性支援の根拠法「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律(女性支援新法)」が成立し、しかしそれに伴いColaboに対するデマ拡散や妨害はこれまでにないほど深刻化した。背後には性売買業者やそれにつながる権力者たちがいる。24年の新法施行を前に、私たちの社会的信用を落とそうと必死だったのだろうと思う。
残念ながらその攻撃は成功している。若年女性支援が注目され、予算化される見通しが立ったころから、怪しい男性たちによる団体が複数立ち上がった。歌舞伎町だけでも片手で数えきれないほどにはある。半グレ組織とつながる人物が関わる団体も多く、彼らは「女性支援団体」を名乗り始めた。少女たちに声をかけたり、食事を与えたりしながら、彼女たちをコントロールし、そこで被害に遭った少女たちからの相談を受けることもあった。
つい最近も「トー横」に集まる少年少女の「支援団体」を名乗る団体の元代表の男が、17歳の少女にホテルでみだらな行為をした疑いで逮捕された。被害に遭った少女とは歌舞伎町で出会い、食事を提供したり、交通費として現金を渡したりしていたという。
現場に行けば、誰がどのような活動をしているか、どのような目線で少女たちのことを見て、どのような関係性を作り、どのような支援をしているのかがわかるはずだ――と私は思うが、それがわからない人が大半なのだろう。実際に、そうした団体を取材した人や、視察をした議員らが、そのような団体を持ち上げていることが被害を温存・拡大させてきた。
それだけ、若年女性支援とは何かが日本社会は理解されていないのだ。少女たちの置かれている現状や抱えているもの、性売買業者やその周辺の関係者たちの巧妙な動きや、それを支える搾取の構造、背景にある女性差別の問題への深い理解、さらには女性たちがどのような暴力の中で生きてきて、どれだけの傷を抱え、回復にどのような時間と支援が必要なのか――。今起きている問題や構造への理解がない、知らない、「専門家」を名乗る人たちに専門性がない状況がある。そうしたことを見抜いている性売買業者らが、「支援」の名を借りて福祉にも入り込んでいる。それに気づかず行政が誤った支援をすることも繰り返されている。そして善意の民間団体も、彼らのことを見抜けずに連携を始めている。これがトー横キッズ「支援団体」での性暴力事件が相次いでいる背景だ。
今、日本で何が起きているのか。なぜ若年女性支援が必要なのか。公的支援の在り方や支援現場の実態はどうなっていて、どのような議論がされてきたのかを知り、これからの社会を共に考えてほしい。