毎日新聞2018年4月20日
ニッポンの食卓 第2部 育ちの現場から
●やせ、肥満両極化
東京都内の中学3年生の女子は毎日欠かさず、食後に便秘薬の酸化マグネシウムを飲んでいる。ネットではスタイルの良い女性タレントの写真を付けて「ダイエット中の方へ」とのキャッチフレーズで販売されている製品だ。彼女は太ってもいないのにダイエットのために飲む。お菓子を食べ過ぎ、偏食も目立つが、親も本人もそれほど気にしていないようにみえる。
文部科学省がまとめた「学校保健統計調査」(2017年度)を分析した杉浦令子・和洋女子大学准教授(小児保健)は「小中学生の肥満は1980年代から増えていたが、00年あたりからやや下がってきている。それ以後は、やせ(痩身)が増加傾向にある」と説明する。しかし、肥満の割合は、80年代よりも高く、両極化が進んでいるといえる。
地域によって差があり、肥満は地方で多く、東北や九州の多くで10%を超える。やせは千葉、大阪、愛知など都市部で高く、12歳女子では5%前後に上る=表。杉浦さんは「やせた児童は朝食をほぼ食べない割合が高く、自己流ダイエットで朝食や夕食を抜くこともある」と指摘する。
杉浦さんも関わった日本学校保健会のサーベイランス事業報告書(16年度)によると、女子は小学生の約3割、中学生の約7割、高校生の約8割が「やせたい」と思っていた。杉浦さんは「ダイエット志向の大人の社会的な風潮が子供たちの心理や行動にも影響を及ぼしているのでは」と見る。
●将来に影響
子供時代のやせは、次世代の生活習慣病を増やす要因になる。やせたまま成人となって子供を産むと、2500グラム未満の低出生体重児が生まれやすくなる。その低出生体重児が大人になると糖尿病や高血圧、脂質異常など生活習慣病になりやすいことが内外の研究で分かっている。また、肥満も小児生活習慣病にかかる危険がある。
富山県高岡市は小児生活習慣病予防健診に熱心だ。94年から、小学4年と中学1年全員を対象に血中の脂質や血糖値などを測る健診を続けている。健診の前には子供や親に生活習慣病の学習をさせる。結果を踏まえて、野菜をよく食べて脂っこいものは食べ過ぎない▽ジュースを飲み過ぎない▽一口で20回かんで食べる--といった家庭への食事指導もする。
●健診と学習で効果
健診業務に長く携わってきたJCHO高岡ふしき病院小児科の宮崎あゆみ医師は今年2月、06年度と14年度の健診データを比較、分析した。中1女子のやせの割合は約8~9%と両年とも高く、やせの低年齢化が進んでいる。肥満は減少傾向とはいえ、小4男子で約11%、女子で約8%と依然として高いことが分かった。ただ悪玉コレステロールの高い子供は明らかに減少していた。宮崎さんは「健診を実施すると子供、学校、家族が健康に気を使うようになる。その成果があったのでは」と見ている。
長年、小児生活習慣病対策に取り組んできた青木内科循環器科小児科クリニック(福岡市)の青木真智子医師は「動脈硬化の兆しは小児期から始まる。小中学生で小児生活習慣病を発症するケースがあるが、周囲が気づいていない」と訴える。
福岡市が小4児童1万791人を健診した結果、治療を必要とする小児肥満症が約3%、脂質異常や高血糖、高血圧など動脈硬化のリスクが高いメタボリック症候群の子供は約0・5%いた。
青木さんによると、肥満児童は「ジュースを水のように飲む」「お菓子をごはん代わりに食べる」「よくかまないでのみ込む」などの特徴がある。やせ形の児童は「自分で作った食事しか食べない」「自分の体形にこだわる」などの傾向がみられるという。親が子供の体重に関心が低く、やせていることに気づいていないケースもある。
●家庭での食育も
学校保健安全法では、学校の健診で、心臓検診や運動器検診などの項目はあるものの、高血糖など小児生活習慣病の項目は対象になっていない。福岡市や高岡市のような健診を実施している自治体や学校がどれくらいあるかの調査はないが「実施しているところは少ない」(文科省学校健康教育課)のが現状だ。
福岡市医師会は医師用と家庭用で別々に肥満編とやせ編の「今日からできる小児生活習慣病の対策マニュアル」をつくり、市内の約150人の医師が活用している。青木さんは「小児生活習慣病は子供のうちに見つけて、食事や運動で改善していけば、治りは早い」と子供でも大人のような保健指導が必要だと指摘する。また、バランスの良い食事を家庭で出さなかったり、子供の好きなままにさせたりすることが不健康につながる。家庭での食育も同時に必要だといえる。【小島正美】=おわり
◆都道府県別のやせの割合
上位10道府県
長野 5.94
千葉 5.71
栃木 5.42
京都 5.36
愛知 5.24
滋賀 5.19
北海道 5.12
埼玉 5.08
群馬 5.03
大阪 4.98
下位10県
青森 2.64
沖縄 2.72
茨城 2.74
佐賀 2.75
香川 2.82
長崎 2.86
熊本 2.95
広島 3.03
山梨 3.12
宮崎 3.17
(12歳女子)=学校保健統計調査(2017年度)から。数字は%。