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スギー使い道の乏しい、花粉をまき散らすスギの新たな「価値」

2018年05月24日 | 野菜・花・植物

森林文化協会ブログ  

ケボニー化処理
   進み始めた、スギ材の価値を上げる研究

日本林業の課題の一つに、スギ材の用途開発がある。

   ハフポスト2018年05月18日

   日本林業の課題の一つに、スギ材の用途開発がある。スギ材も建材としての需要が減り、安価な合板やバイオマス燃料に供される割合が増えている。林業家には利益が少ない上、材質を高める努力が報われないため、再造林はおろか森林経営さえ諦めてしまうことになりかねない。だから高付加価値を持つ用途が求められるのだ

とはいえ材価を高くする用途は簡単には見つからない。スギ材は軟らかくて強度が低い上、含水率が高く寸法安定性に不安がある。また野外では腐朽しやすい。そこで注目されるのが改質して機能を高める方策だ。木材の欠点を化学的に補い、用途を広げるとともに高価格化しようというものである。

 針葉樹材を硬くする技術

 熱処理や圧縮、薬品の含浸などいくつかの技術がある中で、新たに登場したケボニー化処理が注目されている。軟らかい針葉樹材をハードウッドに変えられるものだ。これをスギ材に適用できないかという研究が昨年よりスタートした。その中間報告によると、スギの意外な可能性が見えてくる。

   ケボニー化処理は、カナダのマーク・シュナイダー博士が1990年代に発明した技術である。それをノルウェーのケボニー社が2009年に実用化した。

 技術的にはフルフリルアルコールを木材に含浸させ、木質細胞内部にフラン樹脂を生成させるものだ。すると腐朽に強くなり、硬度を増して寸法安定性も飛躍的に高まる。フルフリルアルコールはサトウキビやトウモロコシなどから抽出した天然性物質であり、人体に無害で廃棄後もリサイクル可能と、環境面からも優れた素材になるとされる。

ただ、どんな木材でもケボニー化が可能なのではなく、樹種によって向き不向きがある。ケボニー社が実用化できたのは、現在のところラジアータパインやオウシュウアカマツなどに限られていた。

 実験で好結果を示したスギ材

 ところが建材輸入を手掛けてケボニー化木材を知った岡山の小原冨治雄氏の要請でスギを試してもらうと、フルフリルアルコールは芯まで浸透した。もし浸透にムラがあったら機能もばらつくから、スギの浸透性の良さは非常に画期的だった。オウシュウアカマツは表面しか浸透せず、ラジアータパインも辺材部分だけなのだ。そこで京都府立大学や奈良県森林技術センターとケボニー化スギの性能などを実験するプロジェクトをスタートさせたのである。

   今年2月に発表された中間報告では、ケボニー化したスギは、重量が無処理スギ材より4割ほど増えて、表面硬度は板目の面で1~2割増、柾目面は3倍になった。耐磨耗性も高まっている。また見た目は濃茶色に染まって艶やかになり、チーク材を思わせるようになった。

寸法安定性は、水分や乾燥に対する収縮率や膨潤率で示すが、全体を通して2%強で無処理材のほぼ半分だった。含水率も半分程度に下がっている。不思議なのは、それでいて水分をよく吸収することだ。どうやら生成されたフラン樹脂は仮導管などの空隙に詰まるのではなく、細胞壁だけを厚くしたようである。そのためスギ材の持つ調湿機能は保たれるのだろう。また水を弾かないから、しっとりとした木質を感じさせる触感なのだ。

曲げ強度や曲げヤング率といった材質の指標も、大きな変化は見られなかった。若干粘りが落ちたものの、十分に木材としての特徴を残している。

 生物劣化抵抗性と鉄腐食性についての実験も行われた。腐朽菌(オオウズラタケとカワラタケ)に対しては強い抵抗性を示し、質量減少率はほとんどなかった。また鉄のクギに対する腐食もほとんど起きないという結果が出たのである。

 興味深いのは、同じケボニー化処理を施したラジアータパインやオウシュウアカマツも一緒に実験して比べたところ、スギの方が良い数値が出ていることだ。

まだ実験段階ではあるが、スギ材はケボニー化処理に非常に適した木材である可能性が高いのである。

 世界に広がるハードウッド市場

 世界に目を向けると、木材資源は不均衡な状況が強まっている。針葉樹材は植林が進んで資源量は安定しつつあるが、家具のほかフローリングなどの内装材、デッキなど野外で使用される外構材に使われるハードウッド(主に広葉樹材)は枯渇気味だ。特にイペ、チーク、マホガニーといった熱帯産ハードウッドは、天然林から違法伐採されたものが多く、使用自体が問題視されるようになった。

そこで針葉樹材を改質してハードウッドに近づける研究もいろいろ試されているが、一長一短だ。強度が落ちたり、フェノール樹脂などを使うため室内向きでなかったりで、用途に限界があった。スギには向かない技術もある。WPC(木質プラスチック複合素材)も代替材として多く出回っているが、木材とは似て非なるもので、見た目や触感、性能もかなり違う。

 もしスギのケボニー化が実用化できたら、新たなスギ材需要を生み出せるかもしれない。すでにケボニー化木材は、欧米で海辺のデッキや極寒の地の建築物に使用されている。楽器やカトラリーにも使われるようになった。性能だけでなく、違法伐採を抑えることで地球環境への貢献も評価されているようだ。

 しかもケボニー化木材の価格は、現在のスギ製材と比べて6~7倍になるから、原木価格も上げられることが期待される。スギの資源量は十分あるため安定供給が可能であることも重要だ。市場は国内だけでなく、世界中に広がっているからである。日本の林業家にとっても一筋の光明になるのではないか。

もちろん研究は始まったばかりである。様々な条件下での長期的な耐腐朽性や寸法安定性などを確認する必要がある。だが、スギの付加価値を高めることは、真の意味で林業の成長産業化につながるのではないだろうか。