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生きづらい女子たちへ コロナ禍での女性のホームレス化〜シェアハウスという落とし穴

2020年09月09日 | 社会・経済

雨宮処凛(作家、活動家)

  Imidas 連載コラム2020/09/02

 新型コロナウイルスの感染が再び拡大し始め、東京での感染者が連日200人を超えるようになった2020年7月後半頃から、困窮者支援の現場は再び「野戦病院」の様相を呈している。

「ネットカフェにいたけど、とうとう所持金が尽きた」

「もう200円しかない、どうしていいかわからない」

「何日も食べてない」

 そんなメールに、猛暑の中、支援者たちは緊急出動する。住む場所がない人には緊急宿泊費と数日分の生活費を渡し、後日、生活保護などの公的な制度につなぐのだ。

 3月、貧困問題に取り組む30ほどの団体で「新型コロナ災害緊急アクション」を立ち上げて約半年。活動を支えるのは、「反貧困緊急ささえあい基金」に寄せられた寄付金だ。これまでに600世帯、1000人以上に約2000万円の直接給付を行い、多くの命をギリギリのところでつないできた。

 私もボランティアの一人として緊急出動することもある。支援者と出会っていなければ、今頃、東京の路上で餓死していたかもしれない。そんな人々に多く出会ってきた。

 その中には、公的な制度から排除されてしまう外国人も多くいる。働くことが認められていない「仮放免」で在留資格がない人も多い。体調を崩したり、歯痛を訴える人も多いが、健康保険がないために病院にも行けないという人も少なくない。一刻も早く帰国したいが、就労を禁じられているので飛行機代を稼ぐこともできない。

 そんな現実を知れば知るほど、困窮する外国人には公的な支援制度が必要だと切に思う。というか、そもそも日本人外国人問わず、国が十分に役割を果たさないから、民間の支援団体がボランティアでフル稼働しているのだ。

 もともと、この活動は「つなぎ」のはずだった。少し経てば、国から支援策が打ち出されるだろうから、とにかくそれまで、なんとか死者を出さないようにという思いで始まった。が、コロナ禍が始まり半年が経とうとしているのに国は有効で十分な支援策を一向に打ち出そうとしていない。

 そんな状況を受け、8月19日、「新型コロナ災害緊急アクション」は政府交渉を行った。外国人への支援が緊急に必要なこと、生活保護を申請したら保護決定を早くすること、また住民票のない人にも特別定額給付金10万円を給付することなどを、厚生労働省、総務省、国土交通省 、文部科学省、法務省などに要求し、交渉したのだ。しかし、先方は「検討します」と繰り返すばかり。

「死んでも仕方ないってことですか?」

 3月から休みなしで外国人支援に駆けずり回る人々が声を荒げた。辞任を発表する直前、安倍晋三首相が147日休んでいないなどとと話題になったが、困窮者支援の現場では、支援者たちが3月頃からまったく休みなしでフル稼働している。安倍首相には数千万円の歳費があるが、支援者たちは休みなく働いても1円にもならない。

 さて、今、現場で動いている人の多くが08年の「年越し派遣村」などでの支援経験者だ。私もその一人。よって「失業してホームレスになりそう」という人たちの支援のノウハウが蓄積されている。しかし、そんな中、当時と違うのは相談者に女性が多いこと。

 08年、リーマンショックで派遣切りされた人の多くは製造業派遣の男性だった。よって年末の「年越し派遣村」には、寮を追い出されるなどした男性たちが500人以上、集まった。しかし、コロナ禍の今、全国一斉で何度か開催してきたホットラインに電話をかけてくる人の男女比は、私の印象では半々ほど。また、SOSメールをしてくる人の3割ほどが女性だ。

 それもそのはずで、まずコロナ不況は非正規を直撃したわけだが、働く女性の55.3%が非正規(厚労省)。ジャーナリストの竹信三恵子氏は、『ビッグイシュー日本版』20年8月15日号のインタビュー「“女性活躍小国”日本で起こっていること」で、以下のように語っている。

〈……特に対人サービス業は非正規の女性が多く、もともと不安定なところに業界が痛手を受け、短期雇用の契約を結んでいた彼女たちが真っ先に切られたというわけです〉

 同インタビューには、男女別従業員の構成比も掲載されている。それによると、医療・福祉の72.8%、宿泊業・飲食サービス業の58.9%、生活関連サービス業・娯楽業の57.5%を女性が占めているとのこと。そんな女性非正規は、前年同月と比較して3月には29%、4月には71%も減少しているという。どうりで女性からの相談は多いわけだ。

 ちなみにこれを裏付ける数字もある。「新型コロナ災害緊急アクション」に参加するNPO法人「POSSE」(ポッセ)と、「POSSE」が連携する「総合サポートユニオン」には、3〜8月まで2869件の労働相談が寄せられているという。うち派遣労働者からの相談は424件。そのうち65.6%を女性が占めるという。雇い止めの相談だけで約30%になるという。

 ちなみに、非正規女性の平均年収は154万円(18年国税庁調べ)。これでは貯金も難しい。これまで私が対応した相談者の中には、フリーランス女性も多くいた。ヨガやジムのインストラクター、エステティシャンなど。また、風俗の仕事をしていたものの、2月から客が激減。それなのに高額な寮費を請求され続けているが払えず、近々追い出されるという相談も受けた。この女性は、3.11(東日本大震災)の時にも同じような目に遭っている。被災地ではないものの客が激減する中、寮費を払えずに追い出されてしまったのだ。寮にある荷物を取り戻すことはできなかったという。

 コロナ不況の中、多くの女性たちが喘いでいる。

 少し前の日本では、職を失ったことくらいではなかなかホームレス化しなかった。貯金があったり実家に帰ったり、はたまたしばらく滞在させてくれる友達がいたり。

 08年の「年越し派遣村」の「村長」だった「反貧困ネットワーク」事務局長の湯浅誠氏は、このようなものを「溜め」と表現した。貯金や頼れる人間関係、泣きつける家族(家族福祉)や手厚い福利厚生などの企業福祉があったからそうならなかった。しかし、失われた30年の中でそれらは急速に消え去り、今や誰もがホームレス化してもおかしくない。そして今、女性までもが路上に出る危機に晒されている。

 新型コロナウイルス感染症による経済停滞が始まり、真っ先に路上に出たのは居住が不安定な層だった。仕事がなくなったネットカフェ生活者や職場の寮を追い出された人々。一方で、ちらほらと見かけたのは「シェアハウス」を追い出されたという人だ。保証人不要、敷金礼金ゼロを謳うなど初期費用も安く、女性限定の物件などもあり近年もてはやされているシェアハウスだが、コロナ禍の中、1カ月の滞納で追い出すなど利用者にかなり不利な条件での契約が一部でまかり通っている。

「新型コロナ災害緊急アクション」にも、そんなシェアハウス住まいの人からのSOSが届いているのだが、その中には、あまりにも入居者に不利な契約を結ぶシェアハウスもあった。20代女性からのSOSを受け、連日、緊急出動している「反貧困ネットワーク」の瀬戸大作氏が対応したケースだ(「コロナ影響で顕在化した悪質シェアハウスの実態」20年6月20日)。

 それによると、1カ月でも家賃を滞納したら家賃保証会社が債務請求を繰り返す旨の内容が明示され、実際、コロナでバイトが激減し、家賃を1カ月滞納してしまった女性には、連日督促電話がかかり、訴訟を起こすと脅されていた。また、契約には、2年間住まずに転居する場合、退去時費用として計10万円が請求されるなどの記述もあったという。それだけではない。契約書とは別に「肖像権承諾書」の同意書も締結させられていた。

 なぜ、シェアハウスに住むにあたって肖像権云々という言葉が出くるのか? 一方、入居してインタビューを受けると初回月賃料無料になるものの、2度目のインタビューを受けなければあとで返還請求されるということだった。

 女性限定シェアハウスのサイトを見ると、オシャレでキラキラした毎日を切り取ったような写真が並ぶものが多い。入居者は、シェアハウスでのパーティーや交流に触れ、「ここに住み始めてよかった」などとインタビューで答えている。そんなものを見ると「シェアハウス、いいかも……」なんて思うが、一部のインタビューはこういうからくりのもとでなされているのかもしれないと思うと、途端にすべてが嘘っぽく見える。

 このような、居住に関する脱法的な手口は何も新しいものではない。リーマンショックの前後は、「ゼロゼロ物件」が「貧困ビジネス」と大きな批判を受けた。敷金礼金ゼロを謳うものの、家賃を数日でも滞納したら鍵を交換されてそのまま締め出されてしまったり、高額な違約金を請求されるなどが相次いだのだ。このようなことがまかり通った背景には、ゼロゼロ物件の契約が賃貸契約ではなく、「施設付鍵利用契約」などのトリッキーなものだったことがある。鍵の利用権に部屋が付いているという契約だったのだ。

    このようなやり口は当然大きな批判を受けたものの、その後、不安定居住として問題となったのは「脱法ハウス」。レンタルオフィスや貸し倉庫を2〜3畳のスペースに仕切り、貸し出すものだ。初期費用も安く家賃も普通の賃貸ワンルームよりは安いが、もともと倉庫だったところを居住用として貸し出しているので、消防法や建築基準法などに照らすと違法性が高い。この脱法ハウス、国交省 が調査と規制に乗り出したことによって閉鎖されていった。

 さて、この10年間、このようにゼロゼロ物件や脱法ハウスが批判されてきたわけだが、シェアハウスは批判されることなく、市場はどんどん拡大していった。一般社団法人「日本シェアハウス連盟」によると、19年の時点でシェアハウスは全国に4867棟、部屋数は5万6210室。私の周りにもシェアハウスに住む人は多いし、そこでの交流を楽しみにしている人もいる。

 しかし、残念ながら一部には悪質なシェアハウスも存在する。

 国交省はシェアハウスの入居者や入居経験者にアンケートを行い、市場動向調査結果 を公開している。それによると、回答者の5割強が女性、また4割が20〜25歳とのこと。事業者も5割弱が「圧倒的に女性が多い」と回答し、最多年齢層として25〜30歳と答えている。

 入居者の就業形態はというと、正社員が32.8%、学生が28.3%、アルバイトが12.2%。入居時の平均月収は「収入なし」がもっとも多く18%、15〜20万円が16.9%、10〜15万円が16.6%となっている。入居した動機については、回答者の4割以上が「家賃が安いから」と答えている。

 そんなシェアハウスの家賃は、個室だと5〜6万円が29.0%、4〜5万円が24.6%、6〜7万円が18.8%。

 先ほど非正規女性の平均年収が154万円であることを書いた。が、正社員でも20代女性であれば年収200万円台というのは一般的だ。よくシェアハウスは「若い女性に人気」と言われるが、若年女性の中にはシェアハウスに住むしか選択肢がないという人も多くいる。また、一般の賃貸物件のように入居審査が厳しくないのも魅力だろう。

 現在、非正規で働く人々やフリーランスは、賃貸物件の審査に落ちることが少なくない。よって一般の賃貸に住みたくてもシェアハウスしか借りられないというケースもあるだろう。

 そんな「女性の非正規化」「貧困化」というニーズに応えるようにして増え続けてきたシェアハウス。ここがわずかな滞納で追い出されるなど「ホームレス化の入り口」にならないよう、注視していきたい。そして住んでいる人は今一度、契約内容を確認してみるといいだろう。

 4月頃から、都内の各地の炊き出し(ホームレス状態の人に食事をふるまう場)に行っているのだが、リーマンショックとの大きな違いは、炊き出しに女性が並んでいるということだ。一人で、夫婦で、カップルで。そんな光景を見ると、女性には女性に特化した支援が今すぐに必要だと、切に思う。


 今日も30℃超え夜温も20℃超えの暑さ。ところが、明日から気温がドドッと下がり、25℃にも届かない予報。さらに週末からの最低気温は10度前後、いよいよ秋の到来である。家の周りでは、稲刈りが始まった。