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「原爆投下は正しい」が揺らいだ…米国若者の半数以上が「日本に謝罪すべき」

2023年09月13日 | 社会・経済

プレジデントオンライン9/13(水) 

 

■なぜ「原爆の映画」が若者に刺さるのか

 この夏、2本の映画をめぐって日本とアメリカのSNSが炎上した。ひとつは『バービー』。世界中で愛されるバービー人形の実写映画で、興行収入は13億6000万ドル(約1988億7000万円)を超え、今年公開された映画の中で世界最高収入を叩き出している。

 そしてもうひとつが、世界初の原子力爆弾を開発したロバート・オッペンハイマー博士の生涯を描いた『オッペンハイマー』だ。アメリカではこの2本の公開日が同じだったために、2作品の要素を掛け合わせた画像が「#Barbenheimer(バーベンハイマー)」というハッシュタグでSNSに大量発生した。

 その多くは、原爆投下で発生したきのこ雲を背景にバービーが満面の笑みで写っているというもの。その画像に『バービー』の公式アカウントが“肯定的な反応”をしたことで日本のSNSでは「原爆を軽視している」と怒りの声が上がり、ワーナーブラザース・ジャパンが謝罪する事態に発展した。

 『バービー』は8月に日本でも公開されたが、『オッペンハイマー』は今のところ公開の予定はない。だから作品自体を知らない読者も多いと思われるが、この作品がアメリカ人、中でも若者の間でヒットしているのだ。イタリア、ギリシャなどで遅れて公開されると、8月下旬のグローバル興行収入は『バービー』を超えたという。この後中国での公開に伴い、さらなる興収が期待されている。

 『バービー』のようなエンタメ性はほとんどなく、それどころか凄惨(せいさん)な描写が多いこの作品が、なぜここまで若者に刺さるのだろうか。

■原爆に関心を持つ若者が増えている

 特にアメリカでの観客の年齢層に注目したい。ネットメディアによれば『オッペンハイマー』の観客の6割は34歳以下の若者だという。確かに「#バーベンハイマー」効果は大きかっただろうし、クリストファー・ノーラン監督の人気も影響している。しかし彼のもうひとつの戦争映画『ダンケルク』(2017年)に比べると、『オッペンハイマー』への若者の関心はずっと高い。

 その理由は、この作品が原爆を扱っているからだ。

 内容は、オッペンハイマー博士が原爆を開発するようになった経緯と、それが実際に投下されるまでを描いた物語で、彼自身の視点で淡々と語られる。

 実はいまアメリカでは、原爆に関心を持つ若者が増えている。その理由を、筆者が出演するTOKYO FMのニュース番組「TOKYO NEWS RADIO~LIFE」(毎週土曜朝6時)で、ニューヨークの街で10人ほどの若者に答えてもらった。

■必死で原爆投下を正当化してきたアメリカ

 『オッペンハイマー』を観た理由を尋ねると、まず返ってきたのは

 「第2次世界大戦をテーマにした映画はこれまでいくつも作られてきたが、原爆を中心に据えた映画作品はおそらく初めてだから」

「歴史を扱った作品で、一見自分たちと関係なさそうだが、今でも世界は核の脅威に囲まれているから」

 ロシアとウクライナの戦争、中国の東アジアへの圧力、そして北朝鮮の度重なるミサイル発射実験……アメリカの若者はこうした状況に脅威を感じ、核戦争に対する関心を高めていることが窺(うかが)える。

 アメリカでは長らく、核兵器や広島・長崎について語られることはあまりなかった。原爆を開発したオッペンハイマー博士がアメリカ出身であるにもかかわらず、その詳細も謎のベールに包まれてきた。

 その最大の理由は、一般市民に対して大量殺人兵器を使用した唯一の国である、という否定できない歴史の汚点を抱えているからだろう。

 そのため、アメリカは必死で原爆投下を正当化しようとしてきた。映画の中では、日本に原爆を投下するかどうかを議論する場面で「原爆を使うことで戦争が早く終わり、お互いの犠牲者の数が減る」というトルーマン大統領の台詞が出てくる。実際、これがアメリカ人にとって「原爆使用は正しかった」と考える理由となっていた。

■「日本に謝罪すべき」と考える若者が半数以上に

 しかし、当時の政府資料が明るみになるにつれ、これが政権による世論操作のための根拠のないでっち上げだったという説を信じる人は増え続けている。原爆を落とした本当の理由はソビエトを脅かすためだったという考え方も広まってきており、映画でも熾烈(しれつ)な技術開発競争をしているソビエトに言及するシーンが登場する。

 こうした論調の変化に伴い、世論も変わってきている。原爆投下から70年に発表された2015年のピュー研究所の調査では、原爆使用を「正しかった」とするアメリカ人は終戦まもなくの調査では85%だったのが、2015年には56%まで減っている。中でも18歳~29歳の若者は47%と過半数を割っている。

 この割合は減り続け、2020年に調査会社「Statista」による6000人のアメリカ人を対象とした調査では、18~24歳のZ世代の52%が「アメリカは日本に謝罪すべき」と答え、「謝罪すべきでない(原爆使用は正当)」と考える23%を大きく上回った。

 これを見ても、若いアメリカ人の間で、原爆は明らかな戦争犯罪であり謝罪すべきという考え方が広がっていることがわかる。

 こうした世論の変化の中で生まれた映画が『オッペンハイマー』だったのだ。

■軍事大国の醜い側面がえぐり出されている

 映画を見た若者に話を聞くと、原爆をめぐるシーンで本当に嫌な気持ちになったという人も少なくない。

 例えば、日本に核を落とすべきか、どこに落とすべきかを政府要人が議論するシーンで、こういう台詞がある。

 「京都はやめたい。妻との新婚旅行に行った場所だから」

 これは、実際にスティムソン戦争長官がトルーマン大統領を説得した際の発言とされているが、あまりに身勝手な理由だ。こんなことで人の運命が決められてしまうのか、と驚きと怒りを覚えたという若者もいた。

 終戦後、オッペンハイマー博士は自分の行いに強い罪悪感を抱え、一転して核軍縮を訴えるようになった。だが、それを良しとしない当局は、反共反ソビエトの「赤狩り」の嵐の中で、彼が共産主義者であると決めつけ、博士は以後不遇の人生を送ることになる。そのため彼の存在はタブー視され、長く歴史の表舞台から姿を消すことになった。

 『オッペンハイマー』は軍事大国アメリカのあまりにも醜い側面が、冷徹にえぐり出された作品でもあるのだ。

■人種が多様で、情報は自分から取りにいく世代

 原爆についてもっと知りたいという若者の態度は、アメリカニズムに対する懐疑的な姿勢にもつながっている。

 アメリカ人にとって原爆投下は、大きな歴史上の汚点としてネイティブアメリカンの虐殺や奴隷制、ベトナム戦争などとも並ぶ大きな事件だ。誰もが、自分の国がこのような残虐行為におよんだことを信じたくないし、できれば触れたくない。特に愛国心を重視し、白人中心の歴史観を展開してきたアメリカでは、こうした歴史に正面から向き合うことを避けてきた部分がある。

 しかし、歴史を知らなければ問題は解決できない、先に行けないという思いが、今アメリカの若者の間に急速に広がっている。ネット時代になり、必要な情報は自分から取りにいけるようになったことも大きい。

 例えば、ブラックライブスマター運動は黒人が始めた運動だが、若者の人種的な多様化が急速に進む中、若いZ世代の白人の多くは肌の色が違う友人に囲まれて暮らしている。「自分たちの先祖が犯した罪をきちんと知らなければ、ダイバーシティの国として先に行けない」という強い思いを持つ人も増えた。だからこそ人種を超えた歴史的な運動になったのだ。

■ナショナリズム的な歴史教育が変わってきている

 歴史教育も変わってきている。アメリカでは日本のように検定された共通の教科書を使わない。ガイドラインはあるが、内容も教材も先生の裁量に任されている。

 そのため原爆についての教育もさまざまだ。たいていの小学校の授業で習うのは「Sadako & The One Thousand Paper Cranes(サダコと千羽鶴)」。アメリカ人著者のエレノア・コアが1977年に出版した、2歳の被爆者佐々木禎子の悲劇を描いた物語である。

 またアメリカには、日本人被爆者の語り部がわずかだが生存し、高校などを回って原爆の恐ろしさを伝え続けている。また、彼らのビデオなどの教材は、政府のウェブサイトも含め大量に存在し、先生が自由に使うことができる。

 もちろん先生によっては、教科書にある数行の事実だけで済ませる人もいるが、こうした教育も、2000年後半から変わってきているようだ。

 アメリカだけを正当化するナショナリズム的な歴史観ではなく、かといって悲劇だけを伝えるのでもなく、史実やそれに対する論調も含めて伝え、生徒自身に議論させる方式が採られつつある。そこには日本の犠牲者の視点や、アメリカの関係者からも投下に強い反対があったことなども盛り込まれている。その正否を教える側が決めつけるのではなく、生徒たちに判断させるのだ。

■原爆を揶揄する投稿は「無神経でひどい」

 トルーマン政権による原爆正当化は間違っていたと若者が認識するようになったのも、こうした授業が増えていることが大きい。なおこの世代は、2001年のアメリカ同時多発テロ直後のブッシュ政権が、イラク戦争を正当化するためにイラクに核があると嘘をついたことに怒りを感じている世代でもある。

 こうした教育により、加害者、犠牲者の枠を超えて歴史を冷静に見つめる世代が増えてきたことは大きい。冒頭で紹介した、原爆を揶揄するような「#バーベンハイマー」騒動について番組に出演した若者たちにたずねてみたところ、このような反応だった。

 「無神経でひどい。日本人の気持ちを考えると怒って当然」

「アメリカとは違う経験や価値観を持つ国で、どんな反応があるのかを考えなかった映画会社の大きなミスだと思う」

「深刻な戦争犯罪を笑いに変えることで、真の姿が見えなくなるのが心配」

■「世界が核戦争を起こさないために」

 さらに興味深かったのは、多くの人から、「この問題について教えてくれてありがとう」という感謝の声をもらったこと。「この映画がもっとアメリカ人の核に対する関心を高めてほしい」「世界が核戦争を起こさないための注意喚起になってほしい。そのための映画」と話す人もいた。

 まだ映画を見ていない人からも、今回の対話で観にいく気になった、もっと歴史を知りたくなったという声が聞かれた。

 見た人も、まだ見ていない人の間でも話題が広がっていく。それだけでも戦争について考えるきっかけになり、さらには、自分たちの国の歴史に真摯(しんし)に向き合うことの重要さと難しさを、同時に伝えている作品でもある。

 ぜひ日本でも公開され、皆さんがそれぞれの目で判断する機会が訪れることを願っている。

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シェリー めぐみ  ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家

早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。


良い記事でした。
これからのアメリカの変化、世界の変化が見えてくる。
未来は若者のものだ!
まず、歴史を知ることだ。