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世界各国の乳幼児たちはいったいどのように育てられているのでしょうか。日本で初めてナニーの育成と派遣を手がけた株式会社ポピンズは、毎年、英米を中心に現地の保育・教育最前線への研修留学を行っています。同社取締役の轟さんが各国の乳幼児の教育事情をリポートします。ハーバード大学編は全4回です。
遊びを通じて子供の学びを促す
最初に訪れたのが「ボストン・チルドレンズ・ミュージアム」。ボストン市街地からほど近い海沿いにあります。以前は倉庫だったそうですが、改造して博物館にしてから100年以上の歴史があります。非営利団体が、大学教授などの有識者や地域のボランティアといったさまざまな人たちの協力を得て、「子供たちを育て、家族をサポートする施設」として運営しています。入場料は大人と子供(1〜15歳)16ドル、1歳未満は無料です。
この博物館の特徴は、子供も大人も実物に触れて遊びながら学べる体験型の施設であることです。当初は8〜18歳が対象でしたが、1960年代半ばに乳幼児教育も重要であると考え、乳幼児も体験できる施設に変革したそうです。館内には、自然や文化、芸術などの五つをテーマにした遊具がちりばめられています。水の力強さを感じられる「水路遊び」のコーナーや、最先端技術を備えた影絵遊びのできる部屋などがありました。
水の力強さを感じられる「水路遊び」のコーナー
地域の劇団の協力を得て、子供たちがプロの俳優と劇を体験するための劇場を模した舞台と客席があったり、ボストン市と姉妹都市の関係にある京都市から京の町家を移築したスペースなどもあったりします。英国でもそうでしたし、私どもも大切にしている「小さなころから本物に触れる」ことが意識されていると感じました。
京都市から移築した京の町家コーナー
博物館のスタッフは多国籍で、日本人も2人常駐しています。遊具の案内なども主要な言語で記載されていました。さまざまな背景を持つ子供とその家族を受け入れようとする懐の深さがあります。
最先端技術を備えた影絵遊びのできる部屋
館内には定められたルート(道順)はありません。子供たちは気にいった場所に自由に移動し、やりたいことができるようになっていました。この構成には子供たちの自主性、主体性を大事にする姿勢を感じました。そして、子供たちはその場にあるさまざまなモノを自ら工夫しておもちゃにして遊ぶことにも改めて気づかされました。
日本でも同じようなコンセプトの施設が徐々にできはじめています。それらが広まることで、「遊びを通じた学び」のメソッドが日本でも意識されるようになる日も近いかもしれません。
「親育て」で保護者と連携する米の保育園
その後視察した保育園では、米国社会らしいユニークな取り組みが行われていました。特に、保護者と保育園(保育士)が連携して子供を育てようとする点が特徴的でした。その特徴を一言で表すと、子育てならぬ「親育て」となるでしょう。
芸術をテーマにしたスタジオ
最初から親としてプロフェッショナルな人はいません。保育士もまず資格取得のために専門知識を身につけますが、現場を経験することでプロへと成長していきます。視察先では、親と保育士が連携して子育てをするための工夫が随所にあったのです。
轟麻衣子
株式会社ポピンズ取締役
東京都生まれ。12歳で英国の名門寄宿舎学校に入学。1998年、ロンドン大学を卒業後、メリルリンチ(ロンドン)に入社。シャネル(パリ本社、日本支社)などを経て、INSEAD(フランスを拠点とするビジネススクール・経営大学院)でMBAを取得。その後、デビアス(ロンドン)で勤務後、2010年、ポピンズ顧問、12年から現職。3歳と5歳児の母親。