次は当帰芍薬散ですね。
これも今まで随分話したからあまり話すことがありません。
桂枝茯苓丸のところでも、四物湯のところでも話しました。
地黄が入っている処方は、皮膚がかなり枯渇した状態になっている時に使います。
当帰芍薬散には地黄が入っていません。何が入っているかを考えるのも大切ですが、
何が入っていないかと考えるのも面白いですね。
当帰芍薬散というのは血を補う薬でありながら地黄が入っていないのです。
四物湯の主薬は地黄ですが、実際に増えるかどうか解らないのですが
何となく造血作用のようなものがあります。
当帰芍薬散は違うのですね。血管を開いて血行を良くするだけです。
その他は、朮、沢瀉、茯苓という五苓散の主薬で水に働きます。
これに猪苓と桂枝が加わると五苓散になります。
当帰芍薬散は造血を図るのではなくて、血と水を整える薬です。
どうも当帰芍薬散の証というのは病気でそうなるというのではない様です。
もって生まれた体質をずっと引きずって、
少陰経の流れが悪いまま、血の流れも停滞しています。
当然血と水の流れが停滞しているから冷えも出てきます。
但し防已黄耆湯みたいに強い水の停滞は大抵は出てきません。
これは多分、元から持っている生命のエネルギーが少ないから、
水を沢山保てないのでしょうね。
だからどちらかと言うと痩せているし貧血気味だし、水の停滞はありますが、
ひどい水毒という感じではないのです。でも確かにどこかに水がありますし、
皮膚がカラカラということはありません。
本当に一昔前は美人タイプでしたが、今だったら何となく病弱だなという感じで、
内向的で心も体も下を向いているような感じがします。
最近はどうも、当帰芍薬散の状態で薬を欲しいと言ってくる患者さんは
いないような感じがしますね。
桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯の人は来るのです。
活発に動いているとやはり何か調子が悪いと言ってくるのです。
当帰芍薬散の若いご婦人が居たら、
今は家にじっと閉じ籠っているのではないでしょうか。
最近、当帰芍薬散という処方をした記憶がないのです。
その状態で少陰経の痛み、即ち足腰が痛み始めたとき、
初めて医療機関に来るのです。
だからそういう人には、最近は附子を加えて当帰芍薬散加附子として飲ませます。
そういう処方が必要になった段階で、かなり痛みが強くなって、
それもいやいやながら受診します。
10年も前には結構居たのですが、最近は純粋な当帰芍薬散の段階で受診した人は
ちょっと記憶にないのです。
本来は何度も言うように、三大婦人薬の一つです。
四物湯は他の薬に加味されるだけで、主薬ではないのです。
当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、加味逍遙散の三大婦人薬は、
婦人科の先生が入口でこの三つを、来る患者さんに振り分ければ、
婦人病の95%の枠はクリアできると思います。
要するに血虚タイプ(当帰芍薬散)か血瘀タイプ(桂枝茯苓丸)か
そのどちらでもない(加味逍遙散)かどれかを見極めて投与すれば95%は良いのです。
私のところでは当帰芍薬散の人は来ませんが婦人科にはよく来るのです。
例えば当帰芍薬散は安胎の薬の代表的なものなのです。
私が九州の離島にいた時、母子センターがあり、医者は私しかいないので
助産婦さんと何度も赤ちゃんをとりあげました。
我々の世代は正常分娩だったら心配しながらも何とかできたのです。
当時、この当帰芍薬散をよく使いました。
当帰芍薬散を妊娠当初から飲ませると、つわりも軽いし、妊娠中毒症も
あまり出ませんし、赤ちやんも健やかですし、産後の日立ちも良いのです。
私の妻が妊娠した時はいつも飲ませていました。
習慣性流産の人にも何人か出しましたけれど、うまくいかなかった例はありません。
前に切迫流産をした人でも、 ほとんどこれでくい止められます。
そういう意味で安胎の薬と言えるのです。
不妊治療には必ずしも当帰芍薬散は当てはまらないのです。
桂枝茯苓丸の人でも妊娠したら当帰芍薬散の体に変ります。
妊娠すると出産に備えて血液をどこかにプールするために見せかけの貧血になります。
妊娠2週間ぐらいでおきます。その頃よく風邪症状が出ますが、
当帰芍薬散や香蘇散を飲ませれば治まってしまいます。
どうも本当の風邪ではなくて、丁度、妊娠による体の切り変りのようです。
妊娠に気付かないと、強い抗生剤を使ったり、消炎鎮痛剤を使ったり、
あるいはレントゲン写真を撮ったりして大変な事になることがあります。
妊娠したら当帰芍薬散に体が切り変ります。
不妊の治療には方証一致による随証治療になります。
例えば、瘀血体質だったら桂枝茯苓丸で瘀血を取り除いてあげれば
妊娠が成立するかも知れません。
加味逍遙散で神経系をなだめてあげた方が妊娠が成立するかも知れません。
不妊治療だったらイコール当帰芍薬散というのは間違いだと思います。
妊娠が成立したらほとんど当帰芍薬散になりますが、たまに温経湯の場合もあります。
でもほとんどの場合、当帰芍薬散です。
一般内科にはほとんど当帰芍薬散の人は来ないのですが、
婦人科の場合は来るだろうと思います。
婦人科だったら当帰芍薬散と桂枝茯苓丸と加味逍遙散とを
キチンと見極めて投薬すれば95%の患者さんは満足してくれると思います。
あとの5%はどうするかというと、自分はこの患者さんで勉強できるのだと思って
取り組むのですね。何が合うだろうかと思ってね。
全部がうまくいったら勉強する必要がないのです。
私なんかも最近は難しい人が来ると張り切るのです。
第11回「さっぽろ下田塾」講義録
http://potato.hokkai.net/~acorn/sa_shimoda11.htm
https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/039-2.html