
疎経活血湯
1.主な効能
手足、身体、腰、膝などのしびれ、麻痺、関節痛、筋肉痛に用いられます。
これらの疾患は痺証や風湿の病と呼ばれてきました。
痺証という名称が出てきたらこのような疾患だと思って下さい。
2.出典・処方名の由来中国の明代『万病回春』が出典で、
陰陽五行の理論を重視した学派に属します。
そのため、関節痛、しびれの病態生理に基づいた理論的な処方構成が特徴です。
中でも命名の通り、「経絡」「瘀血」に関する病態生理が重視されています。
まず、疎経についてです。
経絡とは、身体の中の気血の主要な通り道です。
通り道の主要な通過点、分岐点、いわば電車でいう駅にあたるものを経穴、
俗にツボと呼ばれています。
この経絡の気血が不足すれば、十分な気血が筋、関節に届けられず痛みとなります。
これが、『黄帝内経』で述べられている「栄えざれば則ち痛む」です。
経絡の気血の運行が、痰飲や瘀血によって阻害されれば、
これも十分な気血が筋、関節に届けられず、同様に痛みとなります。
これは「通じざれば則ち痛む」です。
疎経とは、経絡の気血の運行を円滑にする、気血を疎通させるという意味
から来ています。
次に、活血です。活血とは、瘀血を取り除く作用を言います。
駆瘀血と同様の意味ですが、瘀血を取り除く生薬には瘀血を取って
出血を止めるものや、血だけでなく、気を巡らせる作用を有したものがあります。
そのため、血を活き活きとさせるという活血という言葉は、駆瘀血に加え、
より豊富で微妙なニュアンスを含んでいます。
3.生薬構成の漢方的解説(薬能)
瘀血、血虚に原因がある場合、痛みが夜間に悪化することや、
症状が身体の左側に多いとされています。
東洋医学的には、血の病は左側、気の病は右側に出やすいとされています。
『万病回春』には以下の記載があります。
「遍身走痛し、目軽く夜重きは、これ血虚なり」
「遍身走痛し刺すがごとく、左足痛み特に甚だしきを治す。左は血に属す。
多くの酒色の損傷、筋脈虚空するにより、風寒湿熱を被り、熱は寒に包まれ、
すなわち痛み筋絡を傷る。これ昼軽く夜重きをもって、
よろしく疎経活血を以てす、これ白虎歴節風にあらざるなり」。
白虎歴節風とは、現在にいう関節リウマチを主に指しています。
色欲や飲酒過多などの不摂生によって、
全身に気血を巡らす経絡の血が不足します。
正気の不足した経絡は、外邪からの侵襲に対して弱くなります。
そこに外からの邪気、例えば風邪、寒邪、湿邪、熱邪が侵襲し、
経絡の気血の運行が滞ります。
経絡は筋肉に気血をもたらしているために、
通じなくなった筋は気血が不足し痛みを生じます。
さらに瘀血を伴うと夜間に悪化するのです。
夜間は一日の陰陽で言えば、陰の時間です。気血で見れば気は陽、血は陰です。
このため夜間には血の病が顕著になりやすいとされてきました。
また夜間睡眠時には、体表を守る衛気が体内に入ってくるために血に病、
この場合は瘀血ですが、それがあると正気と邪気が血分において、
夜間により激しく争うために症伏が強く出るのです。
それでは疎経活血湯の生薬構成を見てみましょう。
疎経活血湯は名前の通り、活血に重きを置いています。
しかし関節痛、身体痛、しびれ、麻痺などを生じる疾患は
古来より痺証、風湿の病と言われており、
風邪と湿邪が経絡の運行を阻害することが原因と考えられています。
そのために生薬の分類の中に、祛風湿薬と呼ばれ、
特に経絡の風湿の邪を取り除く生薬があり、
痺証では必ず祛風湿薬を中心に方剤が構成されてきました。
疎経活血湯では、祛風湿薬として、防已、防風、威霊仙、白芷が用いられています。
白芷は鼻詰まりを通す要薬として頻用されますが、ここでは
経絡の風湿の邪を取り除いて通りをよくする作用として用いられています。
また祛湿作用を高めるために、さらに蒼朮、茯苓、竜胆草を組み合わせています。
疎経活血湯の活血たる所以の部分の説明に入っていきましょう。
まず、当帰、(白)芍薬、熟地黄、川芎、つまり四物湯が含まれているのです。
四物湯は補血の方剤の組み合わせとして知られていますが、
川芎は補血作用というよりは理気や活血作用が主体です。
当帰は補血、活血作用のいずれも優れ、地黄は補血、補陰という補う作用に優れます。
芍薬は肝の疏泄を円滑にし、筋脈を緩める作用があります。
単なる活血ではなく、流れるべき血をしっかり補いながら、巡らせるのです。
活血作用は桃仁、牛膝によってさらに十分に強化されています。
多くの漢方薬に言えることですが、
漢方薬、湯液と言われる煎じたものは内服が基本であるために、
生薬を代謝吸収する消化器を担当する脾胃を守ることが、
薬効を発揮させるのに不可欠となってきます。
特に血に働く補血薬や活血薬は、脾胃に重いものが多いため、
脾胃への配慮は特に大切になってきます。
ここでは、脾胃を守るために生姜、甘草、陳皮、茯苓が用いられています。
竜胆草には清熱作用があり、酒や色欲による不摂生などで生まれた内熱を清めます。
全体的には生薬の性質における寒熱のバランスは大きく隔たっていません。
4.古医書による記載
明代の中国に留学し、当時の李朱医学を学んで帰国した田代三喜の流れを組む
曲直瀬道三(1507-1594)がまとめた『衆方規矩』
(今でいう治療マニュアルにあたるもの)で本邦に紹介されています。
そこには病態に応じての加味方が書かれています。
例えば痰飲には天南星、半夏を、上半身の症状には桂枝を、
下半身の症状には木瓜、木通、黄柏、薏苡仁を、
気虚に人参、白朮、亀板、血虚には四物湯を倍にして紅花を加えるのです。
疎経活血湯は、血虚、瘀血によく対応している痺証の方剤ですが、
加味することで多様な病態に対応できる基本薬です。
本方、特に後世方では、痺証の治療を疎経活血湯を基本として
加味して広く用いてきたことが分かります。
この加減方は漢方エキス製剤を用いる場合でも、
二陳湯、四君子湯、四物湯、薏苡仁などを加えることで
臨床に活かすことができます。
5.現代における使い方
腰部脊柱管狭窄症による左の下肢の痛み、閉塞性動脈硬化症による下肢痛、
糖尿病による神経障害、有痛性筋痙攣などに報告があります。
6.EBM
疎経活血湯は、ラットレンズに対して、
糖尿病の微小血管障害に関係するアルドース還元酵素を阻害します。
この効果は、芍薬と甘草に強い作用を認めています。
甘草に含まれるisoliquiritigenin(ISO)は
最も強力なアルドース還元酵素阻害作用を有しています。
また、それ以外に、isoliquiritigeninは血小板凝集作用を有しています。
アスピリンと同様、シクロオキシゲナーゼを抑制し、
さらにアスピリンには認められないリポキシゲナーゼをも抑制することで、
血小板凝集抑制作用を発揮するものと考えられています。
7.処方適用のポイント
痺証の基本薬として用いることができますが、日頃より
血虚や瘀血がある場合がよいと思われます。
桃核承気湯、桂枝茯苓丸などの駆瘀血剤、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散など
血虚を補う方剤を用いているものが季節の変わり目に痛みを生じた場合に使うと
より効果があります。左足など左側に必ずしもこだわらなくてよいですが、
腰など下半身の症状に、よりよく効きます。
8.類方鑑別(関連処方)
薏苡仁湯、麻杏薏甘湯、桂芍知母湯などはいずれも痺証に用いられる方剤のため、
症状の現れ方として共通点があります。しかし、病態の重点の置き方が異なります。
薏苡仁湯は、薏苡仁、蒼朮による祛湿の作用が強く、
麻黄、肉桂といった温性の強い生薬を用いています。
そのために寒性で湿の多い痺証に適します。
麻杏薏甘湯は、麻黄、杏仁という肺の宣発を盛んにする組み合わせを用いています。
痺証でも平素、肺に問題があるものによく使え、
体表の湿邪を肺の宣発の力で除去するというものです。
桂芍知母湯は、寒証、熱証が共に存在する寒熱錯雑証に用いることができます。
桂枝、麻黄、防風、附子といった温性の生薬と、
知母、芍薬という寒性の生薬が組み合わされています。
9.典型例の紹介
平素、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を用いているものが、
冬になって運動中に腰痛を生じた症例です。
画像上は骨に問題なく、神経根の圧迫も認めず、有意な所見はありません。
こういう場合に、早めに疎経活血湯を用いるとよいです。
いずれの方剤も血虚に配慮されているために、体質的に親和性があるのです。
この方の場合、1週間で症状が消失しました。
以上で疎経活血湯の説明を終了致します。(田中耕一郎)
http://medical.radionikkei.jp/tsumura/final/pdf/130313.pdf

https://www.kigusuri.com/kampo/kampo-care/019-22.html
◎疎経活血湯< 効能・効果と副作用
>疎経活血湯(そけいかっけつとう)〔万病回春〕
芍薬2.5 当帰・川芎・地黄・蒼朮・桃仁・茯苓 各2.0
牛膝・威霊仙・防已・羗活・防風・竜胆・白芷・陳皮 各1.5
甘草・乾生姜 各1.0
〔応用〕
方名のように、経を疎し、経を通じ、血を活かすというもので、
筋絡中の滞血をめぐらし、風湿を去るという意味である。
本方は主として筋肉リウマチ・痛風・漿液性膝関節炎・腰痛・坐骨神経痛・
痿躄(下肢麻痺)・脚気・浮腫・半身不髓・高血圧・産後の血栓性疼痛等に応用される。
〔目標〕
瘀血と水毒と風寒を兼ね、筋肉・関節痛・神経に疼痛を発し、
とくに腰より以下に発した痛みを目標にして用いられる。
酒色を好むものに多く、内傷と外感によって起こる。
〔方解〕
当帰・芍薬・川芎・地黄・桃仁は四物湯加桃仁で下腹部の滞血をめぐらし、
茯苓・蒼朮・陳皮・羗活・白芷等は威霊仙・防已・竜胆とともに
腰脚の風と湿を去るものである。
牛膝はとくに湿を除き、腰脚の疼痛を治す働きがある。
〔加減〕
本方の証で一層下肢の疼痛や不随を治すものとして、
木瓜・木通・黄柏・薏苡仁を加え足疼加減と称する
http://kenko-hiro.blogspot.com/2014/02/blog-post.html