「なんでカメムシが好きなんですか!?」
と、よく訊かれます。
それもかなりな詰問口調で。
そういうとき、私はこう答えることにしています。
「虫には、チョウのように卵、幼虫、サナギ、成虫というように、
幼虫時代と成虫時代では、すっかり形態も行動も変わる完全変態をするものがあります。
イモムシとチョウチョでは、まったく形態が違いますよね。
一方カメムシは不完全変態という形で成長します。
こちらは劇的に変化するサナギ時代がなく、
卵から孵化して1齢幼虫になり、5回くらい脱皮しながら最後に羽化して成虫になるんです。
カメムシの面白いのは、この変態の過程で、各齢で大きさ、色具合、模様などなどが
どんどん変化していくことです。
種類にもよるけれど、そのそれぞれがデザイン的にとても素敵なものが多いんです。
私にとって、カメムシの魅力とはこのメタモルフォーゼの、
ヴィジュアル的な変化の面白さでしょうか」
相手に言葉をさしはさむ余裕を与えないように、
上記のように一気にまくしたてます。
そうすると、たいていの人が、最後には「ほーっ」といって納得してくれるようなのです。
完全変態とか不完全変態とか、ちょっと専門用語みたいな言葉も出てくるので、
なんとなく納得した(あるいはケムにまかれた)ような気になるらしいです。
そして、次に出てくる言葉はというと、
「なるほどぉ・・・・・でも、臭いでしょ?」
です。
これに対しては
「服に着いたのを振り払うとか、そういった刺激を与えなければ、大丈夫。
やさしく、そっと扱えば、カメムシは匂いを出しません。
私はなんども居間でカメムシを飼っていますが、
交尾のときなどに興奮すると多少臭うことがあるけれど、
家族も全く気にならないという程度だし」と説明します。
悪臭をかがされるかもしれないというリスクよりも、
脱皮で変態していく無脊椎動物の不思議さや美しさを見る楽しみのほうが勝る、と強調します。
これを聞いた相手は、「ほんとかなあ・・・」という目で私を見ますが、
これ以上は「カメムシなんていう臭い、嫌われものを好きだとは
いったいどういうわけなのか、はっきりさせてもらおうじゃないか」
と詰問する意欲を失うようです。
カメムシが嫌われる最大の理由は、
かなり強烈な油臭いような悪臭(カメムシ好きの人にはいい匂いに感じる人もいるらしいが)を出すからですが、
これは、成虫では中胸の腹側に、
幼虫では腹部背面にある臭腺というところから出るそうです。
何のためにこんな臭いにおいを出すのか―
その第一は鳥などの捕食者を遠ざけるため。
と言われているものの、実験では必ずしも臭い匂いが鳥という捕食者から身を守ってくれるとは限らないと結果が出たそう。
そして確実にカメムシの匂いを嫌うのはアリであるという。
私もメスが体をはって卵と幼虫を保護する習性のあるエサキモンキツノカメムシが、
集団で襲ってきたアリを撃退したシーンをみたことがあります。
その様子からすると、物理的に戦うというより、化学戦に重きが置かれているように見えました。
でもカメムシの悪臭は、けっこう強力で、
直接捕食者を殺すくらいの効力がある場合もあるのじゃないか、と思います。
というのは、前にも書いたことがありますが、松の幹でずっと見たいと思っていたウシカメムシの幼虫と成虫の集団を見つけ、
急いでいたので少々荒っぽく(追いかけまわしたので悪臭を出し始めていた)、
空気穴を開けていないフィルムケースに採集して、
15分くらいしてみたら、自分たちの出した臭気で、全員がころっと死んでいたという悲しい体験から。
自然界で密封されるということはほとんど起こらないかもしれませんが、
条件によっては殺傷力のある臭気でさえあるように思われます。
春と秋は、カメムシが目につく季節なので、
このところネットには、布団にはいったり、洗濯物についたりして悩まされて
カメムシ退治の方法を知りたいという書き込みがたくさん見られます。
こういう方が、ときどきカメムシ大好き!と言っているこのブログに間違って来ちゃうことがあって、
さぞ腹が立つだろうなあ、と申し訳なく思うのもこの季節。
特に今年は例年より、ちょっとカメムシの数が多いような気がしています。
カメムシの魅力はその成長過程の形態や色の変化、といいましたが、
これはいっぽう、カメムシの名前を調べるのを困難にしている原因でもあるわけで。
図鑑などでは、成虫でないと名前がわからないものも多く、
1種で5段階の変化があるのですから、幼虫だと名前にたどり着くのはなかなかたいへん。
今年も「この幼虫はカメムシであることは確かだけれど、名前は?」と思うことが何度もありました。
こういうときは、採集して飼育し、脱皮を繰り返す過程を観察しながら、
最後の脱皮をして成虫になった後で、やっと謎が解ける。
謎解きは脱皮のあとで―これもまたカメムシ観察の楽しみのひとつです。
たとえば、
10月上旬に鎌倉中央公園で見つけたこれ。
全体にまるっこくて、ヒゲをぴんとたてた黒猫の顔のよう。
1回脱皮したらこうなりました。これで5齢かな。
そして、羽化してみると、あのどこにでもいるチャバネアオカメムシ!?
あれっ、でも・・・・・『日本原色カメムシ図鑑』のチャバネアオカメムシの幼虫とは違うようなんだけど・・・・・・
1匹だけを飼育したので、ほかの種が混じることは絶対ないと思うんだけど・・・・・
かえって謎が深まってしまった。
こちらはきれいなピンクとつやつやした緑色の配色が美しい幼虫。(右側)
まるで若い銀杏の実のようなみずみずしい緑に差し色のピンクが効いている。
脱皮して成虫になったので、ツヤアオカメムシとわかりました。
そして以前紹介した、10月中旬に見つけて狂喜したウシカメムシの4齢幼虫。
6日後に5齢幼虫に変身。
まるで帽子をかぶった小学生のように見えた4齢が、
白い髭をはやした北欧の神様みたい(『むし探検広場』の園長さんのみごとな見立て)ないかめしい顔の模様に。
さらに10日ほどで羽化し、めでたく成虫になりました~。
ウシカメムシは小型なので、成虫になっても6、7ミリほどの大きさです。
ところが、この小さくてちょこちょこ動くウシカメムシには意外な習性があるらしい。
私は見たことがないのですが、昆虫写真家の新開孝さんのサイト『ひむか昆虫記』によると、
なんと、ウシカメムシは産卵のための栄養補給に、
ツバキの枯れ枝の幹に産み付けられたセミの卵を探して吸う!というのです。
この記事が出たのが9月半ばですから、この時期に産卵の準備をしているということは、
越冬前に産卵するのかな?!
木枯らしが吹こうというこの季節にも、
セミの抜け殻が残っているようなツバキの木を見ると、
じいっと目を凝らしています。
卵(ウシカメムシの卵は白くてまん丸)、みつけたーい!
きょうは虫をモチーフに作品をつくっている川上きのぶさん作、シャクトリマグカップに
大好きなクサギの実を活けてみた。
ところできょうは11月1日。
姉妹サイトの『バニャーニャ物語』更新の日ですが、
今月から15日更新に変更させていただくことになりました。
11月15日の更新日には、ぜひどうぞ!