日本では「内部告発」が極めて困難な現状がある。隠された事件を内側から暴露した“経験者”たちの言葉に耳を傾けると、勇気をもって声を上げた者が割を食う「内部告発後進国・ニッポン」の現実が浮かび上がってくる。
告発対象が「国家権力」となると、状況はさらに過酷になる。2005年に愛媛県警の裏金問題を現職の巡査部長として告発した仙波敏郎氏(68)は、記者会見直前の緊迫感を今でもよく覚えているという。
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知り合いの弁護士の協力を得て、不正を告発する会見を開こうと決めてからが大変だった。私が告発するという情報が、会見1週間前から流れたようで、監視・尾行の対象となりました。
【仙波氏が告発しようとしていたのは、県警がニセの領収書を使って架空の「捜査協力費」を計上し、それをプールするという裏金作りの実態だった。
1973年、巡査部長に昇格した仙波氏は、上司からニセの領収書作成を命じられるが、再三にわたって拒否。以後16年間で9回の異動を経験するなど、組織内では不遇のまま過ごしていた。告発に踏み切ったのは、定年を迎える4年前だった】
24歳で巡査部長になってから、ずっと警察内部で裏金作りと闘ってきた。そこに知り合いの弁護士から「愛媛県警の裏金問題解明に取り組んでいる」という話を聞きました。現職警官で告発の資格があるのは、裏金作りに全く関与しなかった自分だけという自負もあり、会見を決意した。
ただ、その情報が警察側に漏れると、上司からひっきりなしに電話がかかってくるようになった。会見前日、弁護士が記者クラブに連絡を入れると、すぐに署に呼び出されて中止するように説得もされました。当時の上司は「本部長室から電話しているから今すぐに来い」と必死の様子でした。
その日は、署から出ると捜査車両が2台ついてきた。自宅に戻れば、何をされるかわかりません。相手は警察ですから、何かでっちあげられて身柄を拘束されたり、抵抗したところを公務執行妨害で逮捕されたりする可能性もある。
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