新しい耳 第30回テッセラ音楽祭
松平敬(br) x 中川賢一(pf) vol.3 〜はじまりの歌・たそがれの歌〜
バリトンの松平敬さんと非常に感慨深く、深い感情の共有のもと、とてもとても楽しく終えることができました!
音楽祭15周年、記念すべき第30回!
前半は様々な作曲者の世に出ている最初の作品、ないし世に作品1として発表した作品を集め、後半はさまざまな作曲者が人間の最後などに関係する曲を集めました。
前半はベートーヴェンが最初に作曲として残したであろう曲から始めて、ベートーヴェンの第九交響曲にまで出てくるメロディーの入っている曲、モーツァルト5歳の曲、シューベルト作品1「魔王」、シェーンベルク24〜25歳の作品、ベルク22〜23歳の作品。
シェーンベルクは作品1ですがすでに曲が巨大です。
後半はシューマンがライン川に身投げするその日に書き上げた変奏曲の主題から始まり、シューベルト死の直前に自分の分身を見るドッペルゲンガー、モーツァルトが父の死の直後に書いた人間の死について淡々と語られる歌、マーラー「私がこの世から姿を消した」71歳のリヒャルト・シュトラウスの人生を四季に喩えおそらく今までの人生を余裕を持って俯瞰する「太陽の中で」、それとは対象に、ムソルグスキーが詩人に指示をまで出していたかもしれないとされる、絶望の歌、おそらく最後の曲のあと主人公はシューマンと同じく川に身投げするのだと思う「太陽なしに」、フォーレの76歳くらいの人生の最後を淡々の見据え、しかし精錬された美しい響きに力強ささえ感じる「幻想の水平線」そして佐藤聰明さんの「今日は死ぬのにとてもいい」
テンポは四分音符20。6ページで15分以上かかる曲で終えました。
元はと言えば、昨年より同じくテッセラの音楽祭で松平さんとシューベルト「冬の旅」全曲を演奏させていただいた打ち上げで、私がシェーンベルクの作品1をどうしても演奏したい!と松平さんと主催の廻先生にお伺いしたところから始まりました。
そこから松平さんから作品1を集めたプログラムにしようというご提案をいただき、そこから前半はそれで後半は作曲者の最後の曲にしようとなり、最後は作曲者が人間の最後にまつわる曲が集められるようなプログラムになりました。
一年かけてじっくりプログラムを組んで準備させていただきました。
松平さんからご提案なければムソルグスキー、フォーレ、佐藤聰明作品を一生で演奏することはなかったかもしれません。
じつは私はピアノトリオを最初に勉強したのはハイドンでもモーツァルトでもベートーヴェンでもなくショスタコービッチとフォーレでした。
特にフォーレのトリオは大学四年間勉強したと言って良いと思います。その意味でフォーレの最晩年の和声は身体に染み付いていると思います。その和声が満載の幻想の水平線を演奏できたことも感慨があります。今考えると、そのトリオのヴァイオリニストは今年に天国に召され、今になって様々なことを考えました。この曲集の三曲目はチェロソナタ第2番の二楽書にもにており、その曲は葬送行進曲にも聴こえる曲です。
ムソルグスキーの「太陽なしに」は私が近年何回も演奏している「展覧会の絵」と同じ年に書かれた曲ですが、あまりの内容の暗さに展覧会の絵と色々比較して考えるものがたくさんありました。曲がトニックで終わっていない曲が少なくとも二曲、最後の曲は嬰ハ長調属七で終わっております。
松平さんとのデュオはまさにこのテッセラの音楽祭で生まれました。
主催の廻由美子先生よりリヒャルト・シュトラウスの「イノックアーデン」を依頼され、私はピアノ、語り(!)を松平さんという組み合わせで行わせていただきました。その前にシューマンの歌曲を演奏したのですが、それが素晴らしく、本番の夜に廻先生に「松平さんと冬の旅を演奏したい」と打診して昨年「冬の旅」全曲演奏会。
そして昨年のその演奏会の打ち上げでシェーンベルクの作品1の演奏を強く希望させていただき昨日の演奏会となりました。
縁というものは本当に不思議なものです。
松平さんは声と歌、音楽が素晴らしいのはもとより、深い楽譜の読み込みと、その知識の深さ、あとはピアノパートをよく読み込んで頂いていることが本当に共演していて幸せでした。
ムソルグスキーでは癖になって間違って弾いている臨時記号間違いの音を沢山指摘していただきました。
大学修士論文がシェーンベルクの1903〜1908年の作品に関する論文だということ、あと「シュトックハウゼンのすべて」という素晴らしい本を出版なさっていることなど文筆家としても素晴らしい業績を残されているのでとても勉強になります。
かと言って、リハーサルではほとんど細かい口頭での決め事のディスカッションはせず、あくまでもお互いの演奏による会話によるクリエイションをするので、非常に自然で楽しいリハーサルでした。
おそらくお互いやりたいことを十二分に出して本番に臨むことができのではないかと思います。
山形から、仙台から、はたまたお世話になりました素晴らしい現代音楽のマネジメントのかた、様々なことも手がけるプロデューサー社長もおいでいただき感激でした。
作曲の佐藤聰明さんもご来場でした。
全ての曲を終え、佐藤聰明さんを立っていただいたら、後ろに佐藤紀雄さん、ノマドボス!がいらっしゃって超びっくりしました!凄く嬉しかったです!ビックボス!
まずはこれだけの素晴らしい曲を作曲していただいた作曲家に感謝するとともに、素晴らしい歌で共演させていただきました松平敬さん、あと15年も素晴らしい音楽祭を続けられて、30回を迎え、ありとあらゆる演奏家ならではの素晴らしい精神的もあるゆる面でサポートいただきました廻先生、そして素晴らしい響きのテッセラを運営していただいているスタッフの皆様に心より感謝申し上げます!!