パン屋開業で必ず必要な機器は、オーブンだけです。生地は手で仕込みが出来ますし、発酵は生地が乾燥しない程度な設備があればすみます。この設備が進歩・改良されホイロになり、今はドゥーコンディショナーになりました。
ミキサーを使わず手で生地を作っているパン屋は日本にもあります。フランスでは、スラントミキサーで僅か3分程度のミキシングでバゲットを焼いているパン屋もあります。この様な方法は味は良いが、時間がかかります。生地のミキシングはグルテンを生成するための操作で、ミキシングが長くなればグルテンの生成がしっかりし、また焼成で大きなオーブンキックをもたらします。そのためふっくらボリュームのあるパンに成ります。しかし、長いミキシングで生地を作ると短時間の発酵でパンを作ることが出来ますが、この方法では小麦の香りと味が逃げてしまいます。残念ながら現在のパン作りの大半がミキサーで生地を作ってしまう方法です。
ヨーロッパでは人件費が高くなり、パン作りに時間を掛けられなくなりました。そこでミキサーは短時間で生地のできるスラントミキサーが増え、きじの発酵時間を短縮した無発酵のパン作り、所謂ノータイ無法が主流になりました。
また、そこで登場したのがドゥーコンディショナーで、前日の作業最後で整形した生地をドゥーコンに入れ、翌日の工程に合わせて発酵温度と発酵時間をセットして1日の作業が終わる、この方法になりました。フランスでは毎朝早い時刻にバゲットを店頭に並べることが義務ですから、人件費の削減には不可欠な機材といえます。
私も、フランス駐在中はドゥーコンの元祖と言える”パネム”を使用しました。現在のドゥーコンに比べると全く稚拙な構造・機能でしたが、助けれた記憶があります。
ただこれは、フランスではパン屋の開店が6時、7時と言う早朝の作業が多く、しかも法律で5時以前の勤務が禁止されるような環境にあったため、発達した製法です。(現在パン屋の勤務が5時以前禁止されているかは確認していません。)
日本のように開店が9時、10時であればドゥーコンは必ずしも必要ではありません。私はドゥーコンを使わずベーカリーを経営していました。個人ベーカリーの規模ではリターダーを使いこなすだけで十分対応できます。
ミキサー(日本的なパンには縦型ミキサーが良い。そのためスラントミキサーを敢えて作らないメーカーもあります。)、オーブン、ホイロ、冷蔵庫、冷凍庫、リターダーを装備するだけでパン屋は開店できます。
縦型ミキサーはパン生地だけでなく、ケーキ生地、クッキー生地なども仕込めますが、スパイラルではパン生地だけです。日本人は流行に弱い。
スパイラルミキサーで仕込んだ生地はスカスカのパンになりやすいですが、今売れるパン、大手が宣伝しているパンはモッチリ感の有るパンです。このモッチリ感を出すために、風味の無い澱粉を添加していることをご存知ですか。
矛盾を感じませんか。縦型ミキサーで短時間のミキシング、これで風味の良いモッチリ感のあるパンが出来ますが、それでも流行に乗りますか。