たった今、なりとろの期待を一身に浴びてヤマニンエルブが駆け抜けた。
そして、沈んだ。
パドックで初めて会ったエルブは、とてもじゃないけどいい気配には見えなかった。
腹帯あたりにびっしり汗をかき、毛づやもいまいち良くない。初めて見るから比べられないけど、とてもじゃないけど重賞に出てくるような馬に見えなかった。
体重のわりに線が細く見え、スノークラッシャーのほうが大きく見えたくらい。
不安と期待が入り交じるなか、レースは始まった。
スタートは五分だが、逃げられない。
いや、蛯名が抑えたのか。
折り合いをつけるように、ゆっくりとレースを進める。
明らかにスロー。
何?
ハナを主張しないのか?
前半5ハロン=61秒前後?
なに、これ??
3コーナーをカーブするのを見ながら、失意のなりとろは思わず呟いた。
『また、いつもの差し比べね』
ゴールを見ることなく、今、阪急電車に乗って帰路についている。
休み明けだから割引だと、調教師も騎手もコメントしていた。
その通り、全く見せ場なく、周ってくるだけの内容となった。
脚部不安での休養は、エルブの能力に影を落としたのだろうか。
とりあえずは復帰できたことだけでも、今日のところは喜ぶしかないか。
家へ向かう足が、来るときの一万倍重い・・・。