長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』

2019-08-16 | 映画レビュー(と)

さて、どこから話そうか?
あなたがドラクエを知らなければわざわざ本作を見る必要はない。注目作がひしめく夏休みだ。ぜひとも他の映画を見よう。
あなたがもし『ドラゴンクエストⅤ』にノスタルジーを感じる世代なら、やはりこの映画を見る必要はない。押入れの奥からスーパーファミコンを取り出すのも良し。今やスマートフォンでも手軽にプレイできる。
ネット上にあふれる本作への怨嗟の声を聞いて、興味本位で本作を見ようというアナタもやめておいた方がいい。スクリーンで目にするのはあなたの想像を上回る腹立たしい現実だ。

先に言っておく。『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』は近年稀に見るゴミ映画だ。脚本も演出も存在しないに等しく、そもそも山崎貴は92年に発売された原作ゲームを当時やったきり触ってもいないか、ひょっとしたらプレイすらしていないかも知れない。『ロトの紋章』や『ダイの大冒険』といったドラクエを原作とした傑作漫画を読んでいない事も凡庸なアクション演出から容易に察しがつくし、久美沙織による小説版を読んでいないことは主人公の名前リュカを無断使用した事による訴訟騒動からも明らかになった。すぎやまこういちのゲームオリジナルスコアが随所に使われるが、ファンであれば『Ⅴ』以外の音楽を使用している事はすぐにわかるし、エンディング曲に至っては『ドラゴンクエストⅡ』のエンディングテーマがこれみよがしに響き渡る。拙いボイスアクトは子供だましもいい所だ(唯一人、ゲマ役の吉田鋼太郎が気を吐いている)。

これら原作への愛のなさが結実したクライマックスに多くのドラクエファンが怒りの声を上げた。ラスボスである大魔王ミルドラースの正体はコンピューターウィルスであり、未来的VRゲームへとリメイクされた『ドラゴンクエストⅤ』を破壊しようとしていたのである(ちなみにこのウイルスのデザインは『ロトの紋章』の異魔人の盗用が疑わしい)。ウイルスは言う。「こんなゲームなんかやめて、現実に戻れ」と。

山崎貴に同時代性なんて求めやしないが、本当に時勢を読めない男である。今年を代表する人気シリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』が多くのファンの熱意によって巨大化し、人々が寄り添う事を求める“神話”へと成長した事を思えば、ドラクエは同等の手法を取るには十分な素材を持った作品だったハズだ。オタクだけのモノに留まらなかった2作に対し、この映画はオタクにすら応えない、ただただ怠惰な映画である。この程度の仕上がりで世に出せると判断したそのセンスは絶望的と言ってもいいだろう(なんでも来年の東京オリンピックの開会式演出に決まっているらしい)。
さぁ、こんな映画のことは忘れて、家に帰ったらぜひ『ドラゴンクエストⅤ』をプレイして欲しい。そこにはこんな映画が到底及ばない、想像力に満ちた素晴らしい世界が広がっているぞ。


『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』19・日
総監督 山崎貴
監督 八木竜一、花房真
出演 佐藤健、有村架純、波瑠、山田孝之、山寺宏一、吉田鋼太郎
 
 
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『トレイン・ミッション』

2019-08-07 | 映画レビュー(と)

監督ジャウム・コレット=セラ、主演リーアム・ニーソンのコンビ第4弾。今度のリーアムは毎日、通勤列車に揺られるしがない保険外交員だ。刑事から転職して10年、今や通勤客とも顔なじみになってきた。ある日、突然の解雇を言い渡されたリーアム。果たして家族に何と伝えればいいものかと悩んでいると、目の前に座った見知らぬ女(ヴェラ・ファーミガ)にこう言われる。「電車内にいるある人物を特定できれば10万ドルを支払う」。出来心からその申し出を引き受けてしまったリーアムだが…。

『アンノウン』『フライト・ゲーム』同様、掴みはバッチリで期待が高まる。そうか、セラ&リーアムのコンビはヒッチコックタッチのサスペンスを復権させたいのかも知れない。そこに『96時間』以後、続くアクション俳優としてのリーアムをマッシュアップしているのだ。
娯楽映画としてはこれで十分かも知れないが、謎解きが面倒になって無理やりリーアム拳で解決しているように見えなくもない。次第に見てる側がどうでもいい気分になってしまうのはいかがなものか。

原題は“Commuter”=通勤者。長距離通勤のサラリーマンには胸熱の展開もあるよ!


『トレイン・ミッション』18・米、英、仏
監督 ジャウム・コレット=セラ
出演 リーアム・ニーソン、ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン、ジョナサン・バンクス、サム・ニール、フローレンス・ピュー
 
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『トイ・ストーリー4』

2019-08-03 | 映画レビュー(と)

感動のフィナーレを迎えた前作から9年、人気シリーズの最新作には製作段階から懐疑的な声も上がっていたが、安心して欲しい。ピクサーは決して無意味な物語を作ったりしない。看板商品とも言える本シリーズにはピクサースタッフ達の人生そのものが反映されているからだ。

前作『トイ・ストーリー3』ではオモチャの持ち主であるアンディが大人になった事でウッディ達が存在意義を失い、葛藤の末、彼を送り出す事にする。それは親元から子が巣立つ事であり、今やアメリカの父を体現する俳優となったトム・ハンクスが声を当てる事でウッディがアンディの父親を意味する事に気づいた人も多かったハズだ(劇中、アンディの実の父親は一切登場しない)。近所に住む幼い子供ボニーのもとへ譲られたウッディ達はそこで新たな“子育て”人生をスタートさせ、映画は完結した。

それでいいのだろうか?
『トイ・ストーリー4』はそんな疑問から始まる。ボニーは使い捨ての先割れスプーンで作ったおもちゃフォーキーを何よりも気に入り、今やウッディは押入れから出してすらもらえない。子供に遊ばれなくなれば、おもちゃの人生は終わったも同然だ。

いや、子供と遊ぶ事だけが人生だろうか?ウッディは9年前に子供部屋から運び出された陶器人形のボー・ピープと再会する。彼女はアンティークショップでいつ来るとも知れない買い手を待つ事をやめ、外の世界で自由気ままな冒険生活を送っていた。彼女はウッディにも新たな世界へ飛び出す事を促すが、ウッディは自分のアイデンティティを変える事ができない。『シュガー・ラッシュ/オンライン』に続き、ここでも進歩的な女性と保守的な男性の対比がされて頭の痛い思いだが、やや打算的だった『シュガー・ラッシュ~』に対してピクサーは踏み込み、なんとウッディに第2の人生を歩ませるのである。シリーズの前提条件はおろか、人気キャラクター達にすら別れを告げる結末に驚かされた。

これがピクサー製作陣の率直な実感なのだろう。『トイ・ストーリー』で世界に羽ばたいた彼らも子を持つ親となり、月日は流れ、その子供達も巣立っていった。作風の変遷から彼らが常に実体験や人生を反映させてきた事は明らかだ。これから何をして生きていけば良いのだろう?本作におけるウッディの悩みはミドルエイジクライシスそのものである。

そして本作はピクサーの生みの親ジョン・ラセターの離脱後、初めての作品でもある。ラセターは女性社員からのセクハラ告発を受けてピクサーから放逐された。ここには旧きを捨て、新たな道へと歩み出すピクサーそのものの葛藤も反映されているのだ。製作、脚本には『ファインディング・ニモ』『ウォーリー』はじめ、近年では『ストレンジャー・シングス』『ベター・コール・ソウル』など人気ドラマでもゲスト監督を務めるアンドリュー・スタントンの名前がある。今後、ますますピクサーの中核を担っていくだろう。

中盤、人間の目を盗んでの脱出劇はこれまでのシリーズで何度も繰り返されてきたプロットだけに食傷感も漂うが、まさかの吹き替え仕事で久々にコメディセンスを発揮したキアヌ・リーヴスに免じて目をつぶろう。あぁ、なんてチャーミングなの!!


『トイ・ストーリー4』19・米
監督 ジョシュ・クーリー
出演 トム・ハンクス、ティム・アレン、アニー・ポッツ、トニー・ヘイル、クリスティーナ・ヘンドリックス、キーガン・マイケル・キー、ジョーダン・ピール、キアヌ・リーヴス、ジョーン・キューザック
 
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『トランスフォーマー 最後の騎士王』

2019-04-23 | 映画レビュー(と)

シリーズ第5弾。今回はトランスフォーマー達が太古の昔より人類と共存してきた…というプロットで、何とアーサー王や魔法使いマーリンが出てくる。え、架空の人物じゃないの?という野暮なツッコミはなしだ。

劇中、度々繰り返される「犠牲なくして勝利なし」を合言葉に、冒頭から”リドリー・スコット風ベイヘム”演出とでも言うべき大破壊を繰り広げるマイケル・ベイは今回も絶好調だ。大して愛のないロボット達に時間を割く事をやめ、アーサー王の遺物を探す人間達を主軸としたアドベンチャー映画に舵を切っている。前作(どんな映画か憶えている人、いる?)でトランスフォーマー側についたためお尋ね者となってしまったマーク・ウォールバーグはマッドマックスよろしくな流浪の戦士となり、どう見てもオックスフォードの学者には見えないローラ・ハドックと逃避行を繰り広げる(マイケル・ベイらしいリアリティもクソもない女優選択眼だ!)。この手のジャンルには珍しく子供の存在感は希薄で、もはやファミリー映画の体裁すら取る気のない潔さ。そんな中、近年『ウエストワールド』以外では一切やる気のないアンソニー・ホプキンスがやけに楽しそうなのが逆に不気味である。

 

本作の興行的惨敗をきっかけに軌道修正が図られ、トラビス・ナイト監督によるスピンオフ『バンブルビー』が製作された。期待以上の大ヒットにシリーズは再び息を吹き返す事になるが、プロデューサー陣は「次回作は『バンブルビー』にベイヘムテイストを増量する」と公言。わかってねーな!

 

『トランスフォーマー 最後の騎士王』17・米

監督 マイケル・ベイ

出演 マーク・ウォールバーグ、ローラ・ハドック、イザベラ・モナー、ジョシュ・デュアメル、アンソニー・ホプキンス、ジョン・タトゥーロ、スタンリー・トゥッチ

 
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『トリプル・フロンティア』

2019-04-10 | 映画レビュー(と)

元々は監督キャサリン・ビグロー、脚本マーク・ボールの『ゼロ・ダーク・サーティ』コンビの次作として企画されていたが、その後J・C・チャンダー監督に引き継がれ、Netflixを通じて全世界配信となった。南米”トリプル・フロンティア”と呼ばれる麻薬密造地域が題材でこのメンツと聞けば先のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、テイラー・シェリダン脚本の『ボーダーライン』シリーズに匹敵した麻薬戦争ドラマ、それも超重量級の社会派アクションになるのではと期待は高まった。

ところがそれは思いがけない方向に裏切られる。ヤマ師同然の傭兵達が麻薬王の金を強奪するケイパームービーだったのだ。チームリーダーにオスカー・アイザック、ブレーンにベン・アフレック、逃し屋にペドロ・パスカル、実行部隊にチャーリー・ハナムとギャレット・ヘドランドというアクションも演技もイケる実力派俳優達が揃った。おまけに中盤からは札束を担いでアンデス越えというこの手のジャンルではお目にかかれない展開になって退屈しない。

だがこれではいくら何でも薄味過ぎるだろう。ビグローならば4人の同士愛にもっと密着できたし、見せ場も作れたハズだ。これまで主にアメリカ経済を題材に社会批評してきたチャンダーはアクションのキレ味が鈍く、前述のテイラー・シェリダン作品群(『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』『ウインド・リバー』)に比べて遥かに見劣りする。他国に土足で上がり込むアメリカの対外政策に対する批評も必要だったろう。このジャンルは既にシェリダンによって更新されてしまっていたのだ。

ジャンル映画にこれらを求めるのは野暮かも知れないが、それだけの才能が結集した作品だけに拍子抜けの感は否めない。

 

『トリプル・フロンティア』19・米

監督 J・C・チャンダー

出演 ベン・アフレック、オスカー・アイザック、チャーリー・ハナム、ペドロ・パスカル、ギャレット・ヘドランド

※Netflixで独占配信中※

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