シリーズ第5弾。今回はトランスフォーマー達が太古の昔より人類と共存してきた…というプロットで、何とアーサー王や魔法使いマーリンが出てくる。え、架空の人物じゃないの?という野暮なツッコミはなしだ。
劇中、度々繰り返される「犠牲なくして勝利なし」を合言葉に、冒頭から”リドリー・スコット風ベイヘム”演出とでも言うべき大破壊を繰り広げるマイケル・ベイは今回も絶好調だ。大して愛のないロボット達に時間を割く事をやめ、アーサー王の遺物を探す人間達を主軸としたアドベンチャー映画に舵を切っている。前作(どんな映画か憶えている人、いる?)でトランスフォーマー側についたためお尋ね者となってしまったマーク・ウォールバーグはマッドマックスよろしくな流浪の戦士となり、どう見てもオックスフォードの学者には見えないローラ・ハドックと逃避行を繰り広げる(マイケル・ベイらしいリアリティもクソもない女優選択眼だ!)。この手のジャンルには珍しく子供の存在感は希薄で、もはやファミリー映画の体裁すら取る気のない潔さ。そんな中、近年『ウエストワールド』以外では一切やる気のないアンソニー・ホプキンスがやけに楽しそうなのが逆に不気味である。
本作の興行的惨敗をきっかけに軌道修正が図られ、トラビス・ナイト監督によるスピンオフ『バンブルビー』が製作された。期待以上の大ヒットにシリーズは再び息を吹き返す事になるが、プロデューサー陣は「次回作は『バンブルビー』にベイヘムテイストを増量する」と公言。わかってねーな!
『トランスフォーマー 最後の騎士王』17・米
監督 マイケル・ベイ
出演 マーク・ウォールバーグ、ローラ・ハドック、イザベラ・モナー、ジョシュ・デュアメル、アンソニー・ホプキンス、ジョン・タトゥーロ、スタンリー・トゥッチ
元々は監督キャサリン・ビグロー、脚本マーク・ボールの『ゼロ・ダーク・サーティ』コンビの次作として企画されていたが、その後J・C・チャンダー監督に引き継がれ、Netflixを通じて全世界配信となった。南米”トリプル・フロンティア”と呼ばれる麻薬密造地域が題材でこのメンツと聞けば先のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、テイラー・シェリダン脚本の『ボーダーライン』シリーズに匹敵した麻薬戦争ドラマ、それも超重量級の社会派アクションになるのではと期待は高まった。
ところがそれは思いがけない方向に裏切られる。ヤマ師同然の傭兵達が麻薬王の金を強奪するケイパームービーだったのだ。チームリーダーにオスカー・アイザック、ブレーンにベン・アフレック、逃し屋にペドロ・パスカル、実行部隊にチャーリー・ハナムとギャレット・ヘドランドというアクションも演技もイケる実力派俳優達が揃った。おまけに中盤からは札束を担いでアンデス越えというこの手のジャンルではお目にかかれない展開になって退屈しない。
だがこれではいくら何でも薄味過ぎるだろう。ビグローならば4人の同士愛にもっと密着できたし、見せ場も作れたハズだ。これまで主にアメリカ経済を題材に社会批評してきたチャンダーはアクションのキレ味が鈍く、前述のテイラー・シェリダン作品群(『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』『ウインド・リバー』)に比べて遥かに見劣りする。他国に土足で上がり込むアメリカの対外政策に対する批評も必要だったろう。このジャンルは既にシェリダンによって更新されてしまっていたのだ。
ジャンル映画にこれらを求めるのは野暮かも知れないが、それだけの才能が結集した作品だけに拍子抜けの感は否めない。
『トリプル・フロンティア』19・米
監督 J・C・チャンダー
出演 ベン・アフレック、オスカー・アイザック、チャーリー・ハナム、ペドロ・パスカル、ギャレット・ヘドランド