長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ウエスト・サイド・ストーリー』(寄稿しました)

2022-03-27 | 映画レビュー(う)

 リアルサウンドに『ウエスト・サイド・ストーリー』のレビューを寄稿しました。61年ロバート・ワイズ版のリメイクではなく、57年に上演されたブロードウェイ版の再映画化という触れ込みですが、ワイズ版に出演し、プエルトリコ系として初めてオスカーに輝いた御歳90歳のリタ・モレノを招聘したことで密接な繋がりが生まれています。その他、スピルバーグにとって“勝負作”を任せられる関係となった脚本家トニー・クシュナーによる脚色ポイントや、ほぼ同時期に背中合わせで撮影されていたという、リン・マニュエル・ミランダ原作『イン・ザ・ハイツ』のことも触れています。ぜひ御一読ください。



『ウエスト・サイド・ストーリー』21・米
監督 スティーヴン・スピルバーグ
出演 アンセル・エルゴート、レイチェル・ゼグラー、アリアナ・デボーズ、デヴィッド・アルバレス、マイク・フィスト、ジョシュ・アンドレス、コリー・ストール、リタ・モレノ、ブライアン・ダーシー・ジェームズ
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『ウルフウォーカー』

2020-12-26 | 映画レビュー(う)

 宮崎駿が『もののけ姫』で「共に生きよう」とアシタカに言わせてから20余年。スタジオジブリの熱烈なフォロアーでもあるアイルランドのアニメーションスタジオ“カートゥーン・サルーン”が新たに自然と人間の対立を描く『ウルフウォーカー』は、より深刻さを増した現在の環境問題が強く反映されている。舞台は13世紀頃と思しきアイルランド。イングランドの侵略によって狼たちの住む古代の森が切り拓かれようとしていた。狩人の父と共にイングランドからやってきた主人公ロビンは、森の奥深くで謎の少女メーヴと出会う。彼女は治癒能力を持ち、眠ると狼に姿を変える“ウルフウォーカー”だった。

 宮崎御大が(常に)ボーイ・ミーツ・ガールを通じて自然と人類の共生を描いてきたのに対し、『ウルフウォーカー』ではガールズフッドを通じて自然との同化が描かれる。ウルフウォーカーによって咬まれたロビンは自らも狼に変身する力を得る。父のような狩人になることは叶わず、女だからと家事を押し付けられ、誰一人理解を示してくれない人間社会よりも、野を駆ける狼でいてこそ性別を超えた真の自由があるのではないか。

 カートゥーン・サルーンのストーリーテリングはいつにないテンションを帯びている。ロビンの父親役は『ゲーム・オブ・スローンズ』のエダード・スタークことショーン・ビーン。狼といえばスターク家のシンボルである。終盤、メーヴの母親が大衆にさらされる場面は『ゲーム・オブ・スローンズ』における重大局面、シーズン1第9話『ベイラー大聖堂』を彷彿とさせ、高まる悲劇の予兆に手に汗握ってしまった。スターク家の家訓「孤狼は1匹では生きていけず、群狼は立ち上がる」まで登場し、まさに現代ポップカルチャーの基礎教養としての『ゲーム・オブ・スローンズ』である。

 終幕、ついに父親もウルフウォーカーとなり、ロビンとメーヴは新たな家族となって森の奥へと消えていく。「共に生きよう」という共生ではなく、人間を捨てた自然そのものへの同化。この過激とも言えるエンディングは、より環境問題が切迫性を増した現在だからこそ生まれ得たものだろう。同時代的なテーマ設定、演出の気迫とカートゥーン・サルーンのベスト作となった。


『ウルフウォーカー』20・米、アイルランド、ルクセンブルク
監督 トム・ムーア、ロス・スチュワート
出演 オナー・ニーフシー、レヴァ・ウィテッカー、ショーン・ビーン
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『ヴァンパイアvsザ・ブロンクス』

2020-10-15 | 映画レビュー(う)

 再開発の進むNYブロンクス。ここで次々と用地買収を行う悪徳不動産屋の正体は人の生き血を吸うヴァンパイア軍団だった!下町の危機に立ち向かう悪ガキ3人組のバイブルは我らがウェズリー・スナイプス主演の『ブレイド』だ。ここにヴァンパイア対ブロンクスの戦いの火ぶたが切って落とされた!

 ジェントリフィケーションへの批評と『ストレンジャー・シングス』以後、ブームとなった80sキッズホラーをマッシュアップした微笑ましい1本。長年、黒人を中心に低所得者が住んできた町をヴァンパイア=白人が搾取する、という一種の格差社会映画でもある。

 ちなみに僕は大好きな女優サラ・ガドン目当てに本作を見た次第。ブロンクスに引っ越してきた超~感じの良いお姉さん役で、もちろん“世界で最も美しい顔”に選ばれた美貌が活かされているのでファンは見るように。彼女もとても楽しそうである。


『ヴァンパイアvsザ・ブロンクス』20・米
監督 オズ・ロドリゲス
出演 ジェイデン・マイケル、ジェラルド・W・ジョーンズⅢ世、グレゴリー・ディアスⅣ世、サラ・ガドン、シェー・ウィガム、ゾーイ・サルダナ
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『WAVES/ウェイブス』

2020-07-25 | 映画レビュー(う)

 ポール・トーマス・アンダーソン監督は1999年の『マグノリア』でシンガーソングライター、エイミー・マンの楽曲を多数フィーチャーし、ほとんどミュージカルのように映画を紡いでいった。歌詞が台詞に代わって心情を語り、中盤には登場人物全員が合唱して映画は感情的ピークに達する。これほど特定のミュージシャンと映画が分かち難い映画もなかったように思う。

トレイ・エドワード・シュルツ監督の『WAVES/ウェイブス』もフランク・オーシャンにインスパイアされた“プレイリストムービー”だ。楽曲を通じて浮かび上がるのは有害な男らしさ=トキシックマスキュリニティの解体であり、弱さを見せる事に対する“赦し”である。2019年のアメリカ映画は『アイリッシュマン』『アド・アストラ』といった同一テーマの作品が並び、本作は決定打となった。

 高校のレスリング選手であるタイラーは故障により将来を絶たれてしまう。厳格で抑圧的な父(今や名優の貫禄スターリング・K・ブラウン)は成功者としての自負から息子に対しても常に完璧である事を求め、トレーニングにも口出しをする。マッチョな父親はタイラーにとって畏怖すべき存在であり、父の有害な男らしさはタイラーをも毒していく。やがて家族を悲劇が襲い…。

 映画は前後編に分かれており、主役も映画のトーンもガラリと変わる。音楽が満ち溢れ、カメラが躍動し、徹底的にカラーコーディネートされた前編には同じくA24製作のTVドラマ『ユーフォリア』を彷彿した。こちらもラッパーのドレイクがプロデュースしており、撮影は同じくドリュー・ダニエルズ、タイラーの恋人役アレクサ・デミも重要な役柄で出演している。個性的な作家映画を多数抱えながらまるで優れたキュレーターがいるかのような統一感に映画会社A24のユニークさがある。トレイ・エドワード・シュルツの前作『イット・カムズ・アット・ナイト』も同社の製作であり、社の“主力商品”がテーマのための表現手法として“恐怖”が選ばれたモダンホラー映画である事も興味深い。

 聞けばシュルツ監督はテレンス・マリックの下で助手を務めた弟子筋であり、美しい撮影はもとより、強権的な父と鬱屈する息子というテーマが共通する。
だがこの映画では男であるために弱さを拒んできた彼らが瓦解し、それを末妹エイミー(清廉なテイラー・ラッセル)が目撃する事になる。弱さを見せ、涙を流しながら詫びる男達にエイミーは「謝らなくていいよ」と赦しを与え、この構図は終幕さらに別の父子へと受け継がれていく。エイミーの恋人に扮したルーカス・ヘッジズはその朴訥さが映画の救いであり、同年代ティモシー・シャラメ同様、アメリカ映画における新しい男性像を創出している。

 本作もシュルツ監督のパーソナルな体験が基になっている“もっともパーソナルな事がもっともクリエイティブ”な映画であり、それは見る者の心を開く。自分の弱さを知り、相手の弱さをどうやって受け止めるのか。僕も疎遠な父の事を想わずにはいられなかった。


『WAVES/ウェイブス』19・米
監督 トレイ・エドワード・シュルツ
出演 ケルヴィン・ハリソン・Jr.、テイラー・ラッセル、ルーカス・ヘッジズ、アレクサ・デミ、スターリング・K・ブラウン
 
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『ヴァスト・オブ・ナイト』

2020-06-16 | 映画レビュー(う)

 コロナショックにより劇場が閉鎖されて以後、各映画会社は配信形態に力を入れ始めており、中には1億ドル超えのヒット作も生まれるようになった。アカデミー賞は2020年度に限って配信リリースのみの作品も選考対象とする事を発表しており、ハリウッドは急速な変化の時を迎えている。「配信映画は映画ではない」という不毛な議論もいずれ消えていく事になるだろう。

 そして多くの若手映画作家にとって配信は一足飛びで世界デビューできる格好の場である。このアンドリュー・パターソンなる人物の処女作(imdbにすら本作以外の情報が一切存在しない)はいくつかの映画祭を経た後、Amazonによる配信でワールドリリースとなった。劇場の暗闇に身を沈め、耳を欹てたい純然たる“映画”である。

 物語は1960年代前半に放映されたSFアンソロジードラマ『トワイライト・ゾーン』を模した架空番組として始まる。1950年代アメリカ、町は今夜行われるバスケットボールの試合で持ち切りだ。ラジオDJのエヴェレットとインターンのフェイはマイク片手に人々の声を集める。やがて電波に紛れた謎のノイズの存在に気付き…。

 パターソンの作家性は特異な撮影メソッドからも明らかだ。映画の冒頭10数分はエヴェレットとフェイを後ろから追いかけるだけで、一向に人物に近寄ろうとしない。かと思えば続くシークエンスでは電話交換台に座るフェイをいつまでも見つめ続ける。「空に何かいる」という言葉をきっかけにカメラが走り出せば、バスケに興じた町はとうに無人で、この異常を察知しているのはわずかばかりの人々だけだ。

 50年代への偏執はデヴィッド・リンチ映画を思わせ、『未知との遭遇』の変奏でもあるが、パターソンの視座は現在にある。謎のノイズの正体を知るのは退役した黒人と、社会から見捨てられた孤独な老婦人のみ。唯一、自由意志を持ったエヴェレットとフェイは社会の歪に耳を澄まし、世界の核心に迫っていくのである。

 静寂が耳をつく星夜を思わせる映画であり、“The Vast of Night=広大な夜”というタイトルが思わず口を衝く、奇妙で美しい映画である。そう、映画館で見たかったのだ!


『ヴァスト・オブ・ナイト』19・米
監督 アンドリュー・パターソン
出演 シエラ・マコーミック、ジェイク・ホロウィッツ
 
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