長内那由多のMovie Note

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『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』

2024-11-27 | 映画レビュー(あ)
 ドナルド・トランプ陣営が大統領選挙前の公開を恐れ、上映中止を働きかけたと言われている『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』。次期大統領を脅かす致命的な映画なのか?答えはNOだ。フェイバリットムービーに『市民ケーン』を挙げるなど、映画に対する見識はそれほど悪くないようにも思えるトランプ。本作をちゃんと見ていればそう腹を立てることもなかっただろう(イラン系デンマーク人監督アリ・アッバシの名前に「イラン!」と怒った可能性はあるが)。北欧ダークファンタジー『ボーダー』から『聖地には蜘蛛が巣を張る』、さらにはHBOのTVシリーズ『THE LAST OF US』ラスト2エピソード等、容易に作家性を見出しにくいカメレオン監督のアッバシは、トランプが家賃の取り立てに奔走していた1980年代を舞台に、大物弁護士ロイ・コーンとの出会いから不動産王に上り詰めるまでをサクセスストーリーとして描いている。どう見ても当時の映画としか思えない映像ルックや荒廃したNYのランドスケープ、数々のディスコミュージック(そうか、だからトランプはいつも踊っているのか!)、ロイ・コーンの伝授する3つの教えに開眼するトランプの姿など、支持者が見ても全く嫌な気分にならないはずだ。

 近年、モトリー・クルーのドラマー、トミー・リーを演じた『パム&トミー』など、マーベル以外で精力的な好演を続けているセバスチャン・スタンがまさかのトランプ役。これが意外と悪くない。時代を追う毎にサタデー・ナイト・ライブでもお馴染みな身振り手振りが増え、私たちの知るトランプへと変貌していく。
 そして映画のグレードを1つも2つも上げているロイ・コーン役のジェレミー・ストロングは、今年のオスカー助演男優賞レースの筆頭候補に挙げられるべきだろう。史上最高のメソッドアクター、ダニエル・デイ=ルイスの元でアシスタントを務めていた彼は、日焼けした肌、前のめりに首から動く奇妙な姿勢でアメリカ史に残る怪物のカリスマと憐れな真実を体現している。それはあたかも継承問題で敗北し、悟りを開いたケンダル・ロイのもう1つの姿にも見え、
『サクセッション』ファンには堪らないものがあるのだ。ストロングのロイ・コーン役にはそんなケンダル役の再解釈としての面白さがある(マーティン・ディルコフのスコアもニコラス・ブリテルの80年代アレンジ風で、明らかに『サクセッション』を意識している)。

 『アプレンティス』は北米市場で興行的に振るわず、冷遇された。ここにはアンチトランプ派の溜飲を下げるような喧しい指摘はなく、むしろアメリカそのものへの冷静な分析、批評が行われている。80年代はレーガン政権における大規模規制緩和“レーガノミックス”が不動産開発業の追い風となり、トランプを肥大化させた。トランプが特別な怪物なのではなく、富と権力のアメリカンドリームを追い求める彼は生まれるべくして生まれたアメリカのアイコンなのだ。

 アッバシはほとんどフランケンシュタインの怪物か、はたまたアナキン・スカイウォーカーからダース・ベイダーへの変化のようにトランプ誕生の瞬間を描く。今からほんの10年前のハリウッドには『アメリカン・ハッスル』『ダラス・バイヤーズクラブ』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』など時代とその代償を検証する余裕があったように思う。これからの4年間、ハリウッドが冷静さを取り戻すためにも本作が1つの“気付け”となってほしいところだ。


『アプレンティス ドナルド・トランプの創り方』24・米
監督 アリ・アッバシ
出演 セバスチャン・スタン、ジェレミー・ストロング、マーティン・ドノバン、マリア・バカローヴァ
※2025年1月17日(金)全国ロードショー、2024年11月22日(金)〜28日(木)先行上映

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